イベントありがとうございました&お知らせ&ペーパー
2025/05/06(Tue)12:28
スパコミお疲れ様でした~!
当日はバタバタでしたが本やペーパーをお手にとってくださった方、お声かけしてくださった方、差入れしてくださった方など本当にありがとうございました!
手元の作業やお話していたらあっという間に終わった感じです。
新刊の主丸本「秘めごと」を自家通販ページに追加しました。
よかったらご利用ください。
それから今後の通販についてお知らせです。
とらのあなの既刊分在庫を引き上げることになったので自家通販は継続しますが、他での委託を考えています。
アンケートをX内に設置しているので、それしだいでBOOTHかFOLIOにしたいと思います。
通販準備ができたらまたお知らせしたいと思います。
今回の新刊についてはとらのあなでも購入できますので良かったらご利用ください。
以下ペーパー本文です。
全年齢、主丸と主花が4人で料理するはなしです。(少し修正しました)
・P5R主人公(暁 透流)×丸喜拓人
P4主人公(鳴上 悠)×花村陽介
・P5R主と丸喜とモルガナが同居
&隣にP4主と陽介が同居している設定
・ネタバレなし
・「四軒茶屋305」の時系列。
単品でも読める話。
夕飯に作ったカレーを仕事から帰ってきた丸喜と一緒に食べながらテレビを見ていた。ニュース番組は来週にせまるゴールデンウィーク期間中の天気予報をやっている。
せっかくの長い休みだ。せっかくだし普段できないことをしたい。そのうちのひとつが料理だ。
そこで丸喜に尋ねた。
「ゴールデンウィークはなにか凝った料理を作ってみたい。リクエストはあるか?」
丸喜は「料理かあ。そうだなあ」と顔をかたむけた。
「あ、そうそう。この前、手作りチャーシューの作り方をテレビで見てね。それでラーメンを作ったら美味しそうだなあって思ったんだ」
「チャーシューか。いいな。ラーメンの他にも餃子とかチャーハンも作ったら豪華になりそうだ。よし、チャレンジしよう」
想像するだけでよだれが出そうだ。丸喜も嬉しそうに頷いた。
「わー今から楽しみだよ! あ、そうだ。せっかくだし坂本君や祐介君にも声をかけてみる?」
たしかに二人が大喜びしそうなメニューではある。だが俺は首を振った。
「竜司は合宿免許に行っている。祐介も出品する作品の締め切りに追われてるみたいなんだ」
「そっかあ」
モルガナがくつろいでいたソファベッドから降りてきてこちらにやってきた。
「それなら隣のヤツらに声かけたらどうだ?」
「お隣って、鳴上君と花村君?」
「ああ。ワガハイが世話になったからな」
それはここに引っ越しをした時のこと。俺の至らなさでモルガナが家出してしまった。さまよっていたモルガナを保護してくれたのが隣の304号に住む鳴上さんと花村さんだ。
廊下で会った時にお礼は伝えたけど、確かにそれだけではちゃんと恩を返せてないと思っていた。
「ああ。良いと思う」
「うん。僕も賛成」
「決まりだな!」
こうして丸喜も休みの日に彼らをうちに招待し、四人と一匹でパーティーをやることになったのだった。
数日後、下準備を終えた昼前ぐらいに鳴上さんと花村さんが来てくれた。
「いらっしゃい。どうぞ奥へ」
「おじゃまします」
「へえ。俺らの部屋とは左右対称なんですね。なんかうちとは雰囲気違って面白いなあ」
鳴上さんは裾をまくり上げて「料理を手伝うぞ」と申し出てくれたので、「助かります」と答えてキッチンの方へ案内した。
「これ。伝えてあった通り持ってきた」
鳴上さんがバッグの中から取り出したのは大きめのメンマの入ったビンだ。この前、隣へ誘いに行ったら「ラーメンならちょうどいい。自家製のメンマがあるから持っていくよ」と鳴上さんが言ってくれたのだ。
礼を言ってビンを受け取った。
「ありがとうございます。メンマって手作りできるんですね」
「本場では麻竹を発酵させて作るらしいが、これはタケノコで作ったんだ」
鳴上さんたちは知り合いの竹林のタケノコ掘りを手伝ったお礼にタケノコをもらったらしい。二人で大きなタケノコを新鮮なうちに食べきるのは大変なので、保存して長く使えるメンマを手作りしたそうだ。
「今、一番時間がかかるチャーシュー用の肉を焼き始めています。タレを俺が作るのでその間、フライパンで肉を焼くのをお願いして良いですか?」
「ああ。まかせてくれ」
鳴上さんは手を洗うと慣れた手つきでトングを持って豚肉のかたまりを焼き始めた。
花村さんはキッチンカウンターの向こうでモルガナを抱き上げている。
「よっ、モルガナ! 元気してたかー?」
抱き上げられたモルガナは不服そうな顔をしながらもホストとして我慢している。
「あ、エプロン持って来たんだった。陽介」
鳴上さんが視線を投げかけると、花村さんがモルガナを床に降ろし、肩にかけていたバッグの中からエプロンを取り出して調理中の鳴上さんに着せてあげた。
「ほらよ」
「ありがとう。陽介」
「おう」
照れくさそうに花村さんははにかんだ。
そのふたりの視線がからんだ。もしかして、このふたりは恋人同士なのだろうか。なんだかツーカーの仲みたいで羨ましい。いつか丸喜と俺もこうなれたらいいな。
「あ、そうそう。中華って聞いてたから合いそうなビールと、ウーロン茶と、あと紹興酒を差し入れに持ってきたんで。冷蔵庫って入ります?」
「そんなに持ってきてくれたんだ。何だか悪いねえ。 この辺に入れてもらってもいいかな?」
丸喜が花村さんに場所を伝えてくれているのでこちらも料理に集中した。
タレはめんつゆの他に八角、桂皮、花椒、赤唐辛子など。料理酒で代用するつもりだったがふたりが紹興酒を持ってきてくれたので、それも漬けダレに入れさせてもらう。それらの材料を鍋でひと煮立ちさせて冷ましておく。
「焼き加減はこれくらい?」
「はい。いいと思います」
全体に焼き色がつくまで焼けている。その肉を今度は深い鍋に移して水を肉がかぶるくらい入れて沸騰させる。
「アクが出たら取り除いてもらっていいですか?」
「ああ。チャーシューは初めて作るから楽しみだな」
「いつも料理は鳴上さんが?」
鳴上さんは楽しそうに頷いた。
「ああ。料理は俺がメインで作っている」
「へえ。おふたりは一緒に住んで長いんですか?」
「そうだな……大学一年の時からだからもう五年目になるな」
鳴上さんは大学院生で、花村さんは社会人らしい。
「ふたりとも仲が良さそうですね。長く付き合う秘訣ってありますか?」
使い終わった調理道具を洗いながら尋ねると、鳴上さんはふわりと微笑んで俺を見た。
「秘訣なんてないよ。ただ陽介の心の声はちゃんと聞こうと思っている」
「心の声……ですか?」
「ああ。相手には言いづらいと思っていることってあるだろう。見せたくない部分とか」
たしかに恋人と一緒に暮らしているとそういう部分はあるかもしれない。俺も丸喜にはカッコ悪い部分は見せたくないし。丸喜にもそういのがあるのかもしれない。
「そういう部分も含めてまるごと受け入れたいと思っている」
「……なんだかノロケを聞いてるみたいだ」
「ふふ。そうかも」
おおらかそうな人だとは思っていたけど、俺が想像していたよりもはるかに器の広そうな人だな。ふんわり彼らが恋人だとほのめかせているが、特にそれを隠しているわけではないようだ。
沸騰したら弱火にしてキッチンペーパーで落としぶたをして一時間ほど煮るので、キッチンタイマーをセットしておいた。それからラーメンのスープも下準備した。
「さて、待っている間にラーメンのトッピングを作るか。何かリクエストはありますか?」
カウンターの向こうで餃子の餡を皮に包んでいる花村さんと丸喜にも声をかける。
「うーん。手作りチャーシューの味を楽しむならシンプルな方がいいよな。小ネギと、あればナルトかな」
花村さんに対して丸喜が頷いた。
「ナルトなら用意してあるよ。僕はナルト、もやし、海苔で! あ、もちろん持ってきてくれたメンマもね」
「もやし良いですね。俺ももやしと、あとわかめで」
うなずいて、それらのトッピングを用意する。
「餃子は準備できたよ。焼きはじめてもいいかな?」
「ああ。チャーシューは時間がかかるから待っている間にチャーハンと餃子を先に食べよう」
コンロがいっぱいになっても大丈夫なようにホットプレートを中古ショップで買っておいて良かった。丸喜も花村さんとの交流を楽しんでいるようだし、モルガナもホットプレートの上を覗き込んで楽しそうだ。ほぼ初対面なのに不思議と壁がないし、話しやすい二人だな。
「何だか楽しいです」
そう鳴上さんに伝えると「ああ」と鳴上さんも笑ってくれた。花村さんが楽しんでいることが何より嬉しいんだろう。花村さんを見る目が何ともいえない色を含んでいて、こっちの方が照れてしまう。
すると花村さんが興奮した様子で鳴上さんに声をかけた。
「なあ相棒、聞いてくれよ。丸喜さんと暁君ってカウンセラーと生徒だったんだって。そこから恋人に発展するって……なんかやべえ。興奮しない?」
「陽介はそういうシチュエーション大好きだよな。ナースと患者とか」
「おまっ。俺の性癖をベラベラ話すんじゃねーですよ!」
その会話に思わず噴き出してしまう。花村さんのノリがちょっと竜司に似ている。ふたりを会わせたら気が合いそうだ。
それにしてもふたりとも俺たちが恋人同士だと聞いても嫌悪感などはなさそうだ。やはりふたりも恋人同士なんだろう。
「俺の性癖を公開するならお前のも公開すべきだろ。こう見えてコスプレ好きだとか」
その言葉にハッとする。
「俺もです。コスプレするのもしてもらうのも好きだ」
鳴上さんも俺を見てハッとした。
「暁君……!」
「透流って呼んでください」
「透流……!」
思わず悠さんと熱い握手を交わす。背後でコープMAXになった時のBGMが流れているような気がする。
「いや暁君もかよ!」
花村さんの絶妙なタイミングのツッコミがツボにはまってしまう。この人たちの普段のやりとりがなんだかわかったような気がする。
俺は丸喜を見てにっこりと笑った。
「それじゃ丸喜の性癖も公開しないとな」
「ええ? 僕はそういうの特にない……よね?」
顔を傾けて、眉を下ろし、困り顔をする。
「ほら、こういう可愛いことを自然にするんです。しかも自分よりも人の気持ちを優先してどこまでも甘やかしてくれるんです。それでいて何か夢中なことがあるとすぐどっかに行っちゃうところがあって、ほっとけないっていうか沼っていうか」
「透流君……こういう会話、何だか照れちゃうよ」
いや、こういう機会があるなら何回でも言わせてほしい。丸喜の良さを120パーセント伝えたい。
「しかも頭は良いのにかなり抜けていて、この人を守らなきゃって思わせるところがあるんです」
そう言うと、鳴上さんがふっと頬をゆるめ、目を細めた。
「陽介。仲良くなれそうなお隣さんで良かったな」
「それ、暗に俺がドジって言ってるよなあ!」
「えっ、花村君もそうなの?」
尋ねられて花村さんが「俺の第一印象、頼れるお兄さんキャラでありたかったのに……っ」と苦渋の表情で呟いていて思わず笑ってしまう。
そんな話をしている間に一回目の餃子が焼き上がってしまった。なのでこちらもチャーハンを作ることにした。
「作ったチャーシューを入れたら美味しいと思うんですけど、まだできてないので、今回はエビ、卵、ネギで作ります」
「チャーハンなら俺に任せてくれ」
花村さんがうんうんと頷いている。
「相棒が作るチャーハン、うめーんだよな」
エビの下処理が手慣れている。あっという間に背わたをとって片栗粉をまぶしていく。
「マヨネーズを借りるぞ。あと中華調味料はあるか?」
「はい。どうぞ」
手渡すとエビとマヨネーズと中華調味料を混ぜ合わせて下味をつけていく。塩コショウでシンプルにやろうと思っていたのでどんな味になるか楽しみだ。
ボウルにご飯を入れ、割った卵と中華調味料を加えて混ぜていく。
「鍋に入れてから混ぜるんじゃないんですね」
「こうしてご飯に卵をコーティングさせるとご飯同士がくっつかなくてパラパラの仕上がりになるんだ。冷凍ご飯を使った方がよりパラパラになりやすいし、どの具材も水分の少ない状態にしておくのがポイントだ」
「なるほど。参考になります」
フライパンでごま油とネギの青い部分だけを先にしっかり熱し、その後にエビを入れて両面にこんがり焼き目をつける。ご飯と卵の混ざったものを加えてふたたび混ぜ、塩コショウで全体の味を整えてから最後にネギの白い部分を加える。仕上げに醤油を回し入れると香ばしい香りがたつ。本当にパラパラのチャーハンができている。
「美味しそうだ」
「お皿はどうする?」
尋ねられて、お椀にいったん入れてもらう。それを人数分の平皿にひっくり返していく。
「中華屋のチャーハンっぽいな」
「でしょう」
ちゃんとレンゲも用意してある。それと餃子用の小皿と箸をカウンター越しに丸喜に渡して並べてもらう。
「チャーシューの方はあとどれくらいかな?」
尋ねられて串を刺して確認してみる。もう火は通っているようだ。
「これをタレに漬け込んで、あと一時間半置いておきます」
「そんなに手間がかかるんだ。僕、テレビで見た時は簡単そうに思えて。大変なものをリクエストしちゃってごめんね」
「いいんです。そういう手間ひとつで美味いものが作れるならチャレンジのしがいがあるってもんです」
丸喜が喜んでくれるならそれが一番だ。
なんだか視線を感じて見ると、花村さんと鳴上さんが何だかくすぐったそうな顔で微笑んでいる。
「何か俺……新婚夫婦のうちに遊びに来た気分」
「同じく」
モルガナも「わかるぜ……」とつぶやいている。
丸喜が恥ずかしそうに顔を赤くした。
「もう、からかわないでよ。よし、そっちの方がひと段落したら餃子とチャーハンを食べよう!」
新婚夫婦は否定はしないんだな。満更でもない気分でにやけるのを我慢しながら「ああ」と頷いた。
餃子とチャーハンとそれぞれ好きな飲み物を入れた。モルガナの皿にはまだ味のついてない煮豚をひと切れ進呈した。
なんとなくコップを持ったままみんなで視線を交わし合い、最後に視線が集まった丸喜が「それじゃあ僭越ながら」と乾杯の音頭をとった。
「この出会いに感謝して。いただきます!」
「「「いただきます!」」」
コップを軽く重ね合い、一口飲んでからまずは焼きたての餃子を口にした。
「餃子は冷蔵庫にあったもので色んな味を作ってみたよ」
「ひとつだけハズレがあるのでお楽しみにー! ……うわっ、酸っぱ! っていきなり俺かよ!」
どうやらハズレの餃子は梅干し入りだったようで花村さんが見事一発で引き当てた。それを鳴上さんが真顔でサムズアップしている。
「陽介……天城がいたら一撃必殺のギャグだったぞ」
「俺だって好きで引き当てたわけじゃねーんですけど!」
俺が取ったものはシソの香りがする。
「これは……シソとチーズかな。美味い」
「タレはこっちが醤油とラー油、こっちが酢コショウだよ」
丸喜に言われて食べたことのない酢コショウで食べてみる。
「へえ……酢コショウって初めてだけどイケるな」
定番の肉餃子、ニラたっぷりの野菜餃子もあり、バジル風味の変わった餃子もある。まだラーメンがあるのに色々食べているうちに満腹になりそうだ。丸喜たちはチャーハンも食べ始めた。
「んー! チャーハンも美味しいね。ごろごろ大きなエビが入っているチャーハンって幸せだなあ」
「本当にパラパラで店みたいなチャーハンですね」
食べながら、鳴上さんと花村さんが出会った頃の話題になった。
「へえ。ふたりとも転校生同士で仲良くなったんだ」
「はい。こいつとは馬が合うっつーか、あっという間に相棒の仲になったんです。事件のことがなかったらそこまでは仲良くはなかったかもなんですけど」
「事件?」
鳴上さんと花村さんは顔を合わせた。
「食事中なんで詳細は差し控えますが。陽介の大切な人がとある事件で亡くなってしまい、それで俺たちは事件の犯人を追っていたんです」
「そうだったんだ。何だか共感しちゃうな」
「え?」
隣にいる丸喜が遠くを見るような目をした。きっと留美さんのことを考えているんだろう。
「僕も大事な人が巻き込まれた事件がきっかけでね。彼に協力を依頼して仲良くなったんだ。殴り合いもしちゃったりね」
悪戯っぽい目をして笑った。もうそんな風に他人に話せるくらいには気持ちを昇華できているんだな。丸喜の心の変化を感じとれた。
「殴り合いなら俺らもしましたよ。河川敷で、こう」
ファイティングポーズを見せて、花村さんは歯を見せて笑った。
「懐かしいな。泣いている陽介に胸を貸したのもいい思い出だ」
「そ、それは言うなよ……ッ」
四人で歓談していると時間はあっという間だ。キッチンタイマーが鳴ったので、漬け込んでいたタレから肉を取り出し、仕上げにフライパンでタレごと焼いた。
「鳴上さん、ラーメンのスープをお願いしてもいいですか? 加熱して、味が足りなかったら追加してください」
「ああ」
その間お酒を飲んで顔が赤くなっている花村さんと丸喜がこちらを見ながらぽそぽそと会話している。
「何かあのふたり、料理番組に出たら映えそう……」
「確かに。見ているだけで癒されそうな光景だね……」
「つか、ずっと気になっていたんですけど」
「うん?」
花村さんが丸喜に何か尋ねている。丸喜が目を見開き、口元をわなわなと震えさせている。一体なにを話しているんだろう。
気にはなったがチャーシューができたのでコンロをあけて、今度はあらかじめ沸騰させておいた鍋を再加熱し、ラーメンを茹でる。
「スープは少し調整してみた。どうだろう?」
鳴上さんから小皿に入れたスープを手渡され、味見するとまさに醤油ラーメンのスープという味になっている。焦がし醤油の風味がいい。油分が少ないからかあっさりした印象だ。だが他の具材が加わると印象も変わるだろう。
「はい。これでいいと思います」
「よし」
茹で上がった麺を入れ、その上からスープをかける。そしてスライスしたチャーシューに鳴上さんがもってきてくれたメンマ、リクエスト通りのトッピングをそれぞれの器に盛る。
モルガナにも塩分の入っていない出汁スープを進呈した。
「ラーメン、完成しました」
「おー!」
丸喜と花村さんがパチパチと拍手した。もうすっかり酔っ払っている様子でふたりともニコニコと笑っている。
四人分並べて、「再びいただきます」とバラバラに手を合わせて、麺が伸びないうちに早速すすった。
シンプルな醤油ベースのラーメンだが、自分が作ったものだと思うと達成感もあって尚更美味い。
「ん~! 透流君、チャーシューとろっとろで最高だよ」
「本当に。これ、店で出せるんじゃね? うめー!」
「トータルで食べると飽きのこない味になったな」
「うん。美味しい。鳴上さんお手製のメンマもいい味わいになっている」
それからは皆、無言で麺をすすっている。男四人、必死で麺をすすっている光景がなんだか笑えてくる。でもそれぐらい美味しいから仕方ない。
最後にスープを飲み干すか迷ったけれど、残すのがもったいなくてつい最後まで飲み干してしまった。
「ごちそうさま。美味しかった!」
「ごちそうさまでした! いやー腹いっぱい食ったなあ」
「ああ。箸がとまらない美味しさだった」
全員満足したようで良かった。俺も丸喜に喜んでもらえたし、鳴上さんから料理を学べていい時間だった。
皆で片付けを手伝ってくれたのであっという間に片付けが終わった。
残ったチャーシューを半分に分けて鳴上さんと花村さんにお裾分けしたらとても喜んでくれた。
「いやー、こんなご馳走になった上、チャーシューまでありがとうございます!」
「こちらこそ。モルガナを助けてくれたお礼だったのに、メンマや飲み物までいただいて。料理や片付けまで手伝ってくれて本当にありがとう」
「楽しかったです。良かったらうちにも遊びに来て下さい」
「はい。また鳴上さんの料理を見学させてください」
花村さんと鳴上さんが帰るので、玄関先までお見送りした。
「それじゃお邪魔しました。モルガナもまたな」
一緒に見送っているモルガナも「ああ。また遊びにいくぜ」としっぽをブンブン振り回して言っている。きっと鳴上さんたちには「ニャー」としか聞こえないんだろうけど。
ドアが閉まると、丸喜が両手を挙げて背伸びした。
「はー。楽しかったね」
「ああ。……そういえばさっき花村さんと何を話していたんだ?」
丸喜があまりにもビックリした様子だったから、気になっていた。
丸喜はぽりぽりと頬を指でかいている。モルガナがリビングに戻っていったのを視線で確認してから口を開いた。
「ああ。うん……。その、尋ねられたんだ。こっちまで声がしないかって」
「声?」
「花村君、耳がいいみたいで時々こっちの壁から男のうめき声みたいなのが聞こえてくるんだって。それで花村君も心配になったみたい。自分の声がこっちまで漏れてないかって」
「それって……」
ふたりが俺たちの関係を知っても驚かなかったのはそのことがあったからなのか。思わず天を仰いだ。
「どうにか対策しないとな」
「……だね。お互いの生活のために」
ふたりで苦笑いを浮かべた。どうやら残りの休みは防音対策でかかりきりになりそうだ。
当日はバタバタでしたが本やペーパーをお手にとってくださった方、お声かけしてくださった方、差入れしてくださった方など本当にありがとうございました!
手元の作業やお話していたらあっという間に終わった感じです。
新刊の主丸本「秘めごと」を自家通販ページに追加しました。
よかったらご利用ください。
それから今後の通販についてお知らせです。
とらのあなの既刊分在庫を引き上げることになったので自家通販は継続しますが、他での委託を考えています。
アンケートをX内に設置しているので、それしだいでBOOTHかFOLIOにしたいと思います。
通販準備ができたらまたお知らせしたいと思います。
今回の新刊についてはとらのあなでも購入できますので良かったらご利用ください。
以下ペーパー本文です。
全年齢、主丸と主花が4人で料理するはなしです。(少し修正しました)
・P5R主人公(暁 透流)×丸喜拓人
P4主人公(鳴上 悠)×花村陽介
・P5R主と丸喜とモルガナが同居
&隣にP4主と陽介が同居している設定
・ネタバレなし
・「四軒茶屋305」の時系列。
単品でも読める話。
夕飯に作ったカレーを仕事から帰ってきた丸喜と一緒に食べながらテレビを見ていた。ニュース番組は来週にせまるゴールデンウィーク期間中の天気予報をやっている。
せっかくの長い休みだ。せっかくだし普段できないことをしたい。そのうちのひとつが料理だ。
そこで丸喜に尋ねた。
「ゴールデンウィークはなにか凝った料理を作ってみたい。リクエストはあるか?」
丸喜は「料理かあ。そうだなあ」と顔をかたむけた。
「あ、そうそう。この前、手作りチャーシューの作り方をテレビで見てね。それでラーメンを作ったら美味しそうだなあって思ったんだ」
「チャーシューか。いいな。ラーメンの他にも餃子とかチャーハンも作ったら豪華になりそうだ。よし、チャレンジしよう」
想像するだけでよだれが出そうだ。丸喜も嬉しそうに頷いた。
「わー今から楽しみだよ! あ、そうだ。せっかくだし坂本君や祐介君にも声をかけてみる?」
たしかに二人が大喜びしそうなメニューではある。だが俺は首を振った。
「竜司は合宿免許に行っている。祐介も出品する作品の締め切りに追われてるみたいなんだ」
「そっかあ」
モルガナがくつろいでいたソファベッドから降りてきてこちらにやってきた。
「それなら隣のヤツらに声かけたらどうだ?」
「お隣って、鳴上君と花村君?」
「ああ。ワガハイが世話になったからな」
それはここに引っ越しをした時のこと。俺の至らなさでモルガナが家出してしまった。さまよっていたモルガナを保護してくれたのが隣の304号に住む鳴上さんと花村さんだ。
廊下で会った時にお礼は伝えたけど、確かにそれだけではちゃんと恩を返せてないと思っていた。
「ああ。良いと思う」
「うん。僕も賛成」
「決まりだな!」
こうして丸喜も休みの日に彼らをうちに招待し、四人と一匹でパーティーをやることになったのだった。
数日後、下準備を終えた昼前ぐらいに鳴上さんと花村さんが来てくれた。
「いらっしゃい。どうぞ奥へ」
「おじゃまします」
「へえ。俺らの部屋とは左右対称なんですね。なんかうちとは雰囲気違って面白いなあ」
鳴上さんは裾をまくり上げて「料理を手伝うぞ」と申し出てくれたので、「助かります」と答えてキッチンの方へ案内した。
「これ。伝えてあった通り持ってきた」
鳴上さんがバッグの中から取り出したのは大きめのメンマの入ったビンだ。この前、隣へ誘いに行ったら「ラーメンならちょうどいい。自家製のメンマがあるから持っていくよ」と鳴上さんが言ってくれたのだ。
礼を言ってビンを受け取った。
「ありがとうございます。メンマって手作りできるんですね」
「本場では麻竹を発酵させて作るらしいが、これはタケノコで作ったんだ」
鳴上さんたちは知り合いの竹林のタケノコ掘りを手伝ったお礼にタケノコをもらったらしい。二人で大きなタケノコを新鮮なうちに食べきるのは大変なので、保存して長く使えるメンマを手作りしたそうだ。
「今、一番時間がかかるチャーシュー用の肉を焼き始めています。タレを俺が作るのでその間、フライパンで肉を焼くのをお願いして良いですか?」
「ああ。まかせてくれ」
鳴上さんは手を洗うと慣れた手つきでトングを持って豚肉のかたまりを焼き始めた。
花村さんはキッチンカウンターの向こうでモルガナを抱き上げている。
「よっ、モルガナ! 元気してたかー?」
抱き上げられたモルガナは不服そうな顔をしながらもホストとして我慢している。
「あ、エプロン持って来たんだった。陽介」
鳴上さんが視線を投げかけると、花村さんがモルガナを床に降ろし、肩にかけていたバッグの中からエプロンを取り出して調理中の鳴上さんに着せてあげた。
「ほらよ」
「ありがとう。陽介」
「おう」
照れくさそうに花村さんははにかんだ。
そのふたりの視線がからんだ。もしかして、このふたりは恋人同士なのだろうか。なんだかツーカーの仲みたいで羨ましい。いつか丸喜と俺もこうなれたらいいな。
「あ、そうそう。中華って聞いてたから合いそうなビールと、ウーロン茶と、あと紹興酒を差し入れに持ってきたんで。冷蔵庫って入ります?」
「そんなに持ってきてくれたんだ。何だか悪いねえ。 この辺に入れてもらってもいいかな?」
丸喜が花村さんに場所を伝えてくれているのでこちらも料理に集中した。
タレはめんつゆの他に八角、桂皮、花椒、赤唐辛子など。料理酒で代用するつもりだったがふたりが紹興酒を持ってきてくれたので、それも漬けダレに入れさせてもらう。それらの材料を鍋でひと煮立ちさせて冷ましておく。
「焼き加減はこれくらい?」
「はい。いいと思います」
全体に焼き色がつくまで焼けている。その肉を今度は深い鍋に移して水を肉がかぶるくらい入れて沸騰させる。
「アクが出たら取り除いてもらっていいですか?」
「ああ。チャーシューは初めて作るから楽しみだな」
「いつも料理は鳴上さんが?」
鳴上さんは楽しそうに頷いた。
「ああ。料理は俺がメインで作っている」
「へえ。おふたりは一緒に住んで長いんですか?」
「そうだな……大学一年の時からだからもう五年目になるな」
鳴上さんは大学院生で、花村さんは社会人らしい。
「ふたりとも仲が良さそうですね。長く付き合う秘訣ってありますか?」
使い終わった調理道具を洗いながら尋ねると、鳴上さんはふわりと微笑んで俺を見た。
「秘訣なんてないよ。ただ陽介の心の声はちゃんと聞こうと思っている」
「心の声……ですか?」
「ああ。相手には言いづらいと思っていることってあるだろう。見せたくない部分とか」
たしかに恋人と一緒に暮らしているとそういう部分はあるかもしれない。俺も丸喜にはカッコ悪い部分は見せたくないし。丸喜にもそういのがあるのかもしれない。
「そういう部分も含めてまるごと受け入れたいと思っている」
「……なんだかノロケを聞いてるみたいだ」
「ふふ。そうかも」
おおらかそうな人だとは思っていたけど、俺が想像していたよりもはるかに器の広そうな人だな。ふんわり彼らが恋人だとほのめかせているが、特にそれを隠しているわけではないようだ。
沸騰したら弱火にしてキッチンペーパーで落としぶたをして一時間ほど煮るので、キッチンタイマーをセットしておいた。それからラーメンのスープも下準備した。
「さて、待っている間にラーメンのトッピングを作るか。何かリクエストはありますか?」
カウンターの向こうで餃子の餡を皮に包んでいる花村さんと丸喜にも声をかける。
「うーん。手作りチャーシューの味を楽しむならシンプルな方がいいよな。小ネギと、あればナルトかな」
花村さんに対して丸喜が頷いた。
「ナルトなら用意してあるよ。僕はナルト、もやし、海苔で! あ、もちろん持ってきてくれたメンマもね」
「もやし良いですね。俺ももやしと、あとわかめで」
うなずいて、それらのトッピングを用意する。
「餃子は準備できたよ。焼きはじめてもいいかな?」
「ああ。チャーシューは時間がかかるから待っている間にチャーハンと餃子を先に食べよう」
コンロがいっぱいになっても大丈夫なようにホットプレートを中古ショップで買っておいて良かった。丸喜も花村さんとの交流を楽しんでいるようだし、モルガナもホットプレートの上を覗き込んで楽しそうだ。ほぼ初対面なのに不思議と壁がないし、話しやすい二人だな。
「何だか楽しいです」
そう鳴上さんに伝えると「ああ」と鳴上さんも笑ってくれた。花村さんが楽しんでいることが何より嬉しいんだろう。花村さんを見る目が何ともいえない色を含んでいて、こっちの方が照れてしまう。
すると花村さんが興奮した様子で鳴上さんに声をかけた。
「なあ相棒、聞いてくれよ。丸喜さんと暁君ってカウンセラーと生徒だったんだって。そこから恋人に発展するって……なんかやべえ。興奮しない?」
「陽介はそういうシチュエーション大好きだよな。ナースと患者とか」
「おまっ。俺の性癖をベラベラ話すんじゃねーですよ!」
その会話に思わず噴き出してしまう。花村さんのノリがちょっと竜司に似ている。ふたりを会わせたら気が合いそうだ。
それにしてもふたりとも俺たちが恋人同士だと聞いても嫌悪感などはなさそうだ。やはりふたりも恋人同士なんだろう。
「俺の性癖を公開するならお前のも公開すべきだろ。こう見えてコスプレ好きだとか」
その言葉にハッとする。
「俺もです。コスプレするのもしてもらうのも好きだ」
鳴上さんも俺を見てハッとした。
「暁君……!」
「透流って呼んでください」
「透流……!」
思わず悠さんと熱い握手を交わす。背後でコープMAXになった時のBGMが流れているような気がする。
「いや暁君もかよ!」
花村さんの絶妙なタイミングのツッコミがツボにはまってしまう。この人たちの普段のやりとりがなんだかわかったような気がする。
俺は丸喜を見てにっこりと笑った。
「それじゃ丸喜の性癖も公開しないとな」
「ええ? 僕はそういうの特にない……よね?」
顔を傾けて、眉を下ろし、困り顔をする。
「ほら、こういう可愛いことを自然にするんです。しかも自分よりも人の気持ちを優先してどこまでも甘やかしてくれるんです。それでいて何か夢中なことがあるとすぐどっかに行っちゃうところがあって、ほっとけないっていうか沼っていうか」
「透流君……こういう会話、何だか照れちゃうよ」
いや、こういう機会があるなら何回でも言わせてほしい。丸喜の良さを120パーセント伝えたい。
「しかも頭は良いのにかなり抜けていて、この人を守らなきゃって思わせるところがあるんです」
そう言うと、鳴上さんがふっと頬をゆるめ、目を細めた。
「陽介。仲良くなれそうなお隣さんで良かったな」
「それ、暗に俺がドジって言ってるよなあ!」
「えっ、花村君もそうなの?」
尋ねられて花村さんが「俺の第一印象、頼れるお兄さんキャラでありたかったのに……っ」と苦渋の表情で呟いていて思わず笑ってしまう。
そんな話をしている間に一回目の餃子が焼き上がってしまった。なのでこちらもチャーハンを作ることにした。
「作ったチャーシューを入れたら美味しいと思うんですけど、まだできてないので、今回はエビ、卵、ネギで作ります」
「チャーハンなら俺に任せてくれ」
花村さんがうんうんと頷いている。
「相棒が作るチャーハン、うめーんだよな」
エビの下処理が手慣れている。あっという間に背わたをとって片栗粉をまぶしていく。
「マヨネーズを借りるぞ。あと中華調味料はあるか?」
「はい。どうぞ」
手渡すとエビとマヨネーズと中華調味料を混ぜ合わせて下味をつけていく。塩コショウでシンプルにやろうと思っていたのでどんな味になるか楽しみだ。
ボウルにご飯を入れ、割った卵と中華調味料を加えて混ぜていく。
「鍋に入れてから混ぜるんじゃないんですね」
「こうしてご飯に卵をコーティングさせるとご飯同士がくっつかなくてパラパラの仕上がりになるんだ。冷凍ご飯を使った方がよりパラパラになりやすいし、どの具材も水分の少ない状態にしておくのがポイントだ」
「なるほど。参考になります」
フライパンでごま油とネギの青い部分だけを先にしっかり熱し、その後にエビを入れて両面にこんがり焼き目をつける。ご飯と卵の混ざったものを加えてふたたび混ぜ、塩コショウで全体の味を整えてから最後にネギの白い部分を加える。仕上げに醤油を回し入れると香ばしい香りがたつ。本当にパラパラのチャーハンができている。
「美味しそうだ」
「お皿はどうする?」
尋ねられて、お椀にいったん入れてもらう。それを人数分の平皿にひっくり返していく。
「中華屋のチャーハンっぽいな」
「でしょう」
ちゃんとレンゲも用意してある。それと餃子用の小皿と箸をカウンター越しに丸喜に渡して並べてもらう。
「チャーシューの方はあとどれくらいかな?」
尋ねられて串を刺して確認してみる。もう火は通っているようだ。
「これをタレに漬け込んで、あと一時間半置いておきます」
「そんなに手間がかかるんだ。僕、テレビで見た時は簡単そうに思えて。大変なものをリクエストしちゃってごめんね」
「いいんです。そういう手間ひとつで美味いものが作れるならチャレンジのしがいがあるってもんです」
丸喜が喜んでくれるならそれが一番だ。
なんだか視線を感じて見ると、花村さんと鳴上さんが何だかくすぐったそうな顔で微笑んでいる。
「何か俺……新婚夫婦のうちに遊びに来た気分」
「同じく」
モルガナも「わかるぜ……」とつぶやいている。
丸喜が恥ずかしそうに顔を赤くした。
「もう、からかわないでよ。よし、そっちの方がひと段落したら餃子とチャーハンを食べよう!」
新婚夫婦は否定はしないんだな。満更でもない気分でにやけるのを我慢しながら「ああ」と頷いた。
餃子とチャーハンとそれぞれ好きな飲み物を入れた。モルガナの皿にはまだ味のついてない煮豚をひと切れ進呈した。
なんとなくコップを持ったままみんなで視線を交わし合い、最後に視線が集まった丸喜が「それじゃあ僭越ながら」と乾杯の音頭をとった。
「この出会いに感謝して。いただきます!」
「「「いただきます!」」」
コップを軽く重ね合い、一口飲んでからまずは焼きたての餃子を口にした。
「餃子は冷蔵庫にあったもので色んな味を作ってみたよ」
「ひとつだけハズレがあるのでお楽しみにー! ……うわっ、酸っぱ! っていきなり俺かよ!」
どうやらハズレの餃子は梅干し入りだったようで花村さんが見事一発で引き当てた。それを鳴上さんが真顔でサムズアップしている。
「陽介……天城がいたら一撃必殺のギャグだったぞ」
「俺だって好きで引き当てたわけじゃねーんですけど!」
俺が取ったものはシソの香りがする。
「これは……シソとチーズかな。美味い」
「タレはこっちが醤油とラー油、こっちが酢コショウだよ」
丸喜に言われて食べたことのない酢コショウで食べてみる。
「へえ……酢コショウって初めてだけどイケるな」
定番の肉餃子、ニラたっぷりの野菜餃子もあり、バジル風味の変わった餃子もある。まだラーメンがあるのに色々食べているうちに満腹になりそうだ。丸喜たちはチャーハンも食べ始めた。
「んー! チャーハンも美味しいね。ごろごろ大きなエビが入っているチャーハンって幸せだなあ」
「本当にパラパラで店みたいなチャーハンですね」
食べながら、鳴上さんと花村さんが出会った頃の話題になった。
「へえ。ふたりとも転校生同士で仲良くなったんだ」
「はい。こいつとは馬が合うっつーか、あっという間に相棒の仲になったんです。事件のことがなかったらそこまでは仲良くはなかったかもなんですけど」
「事件?」
鳴上さんと花村さんは顔を合わせた。
「食事中なんで詳細は差し控えますが。陽介の大切な人がとある事件で亡くなってしまい、それで俺たちは事件の犯人を追っていたんです」
「そうだったんだ。何だか共感しちゃうな」
「え?」
隣にいる丸喜が遠くを見るような目をした。きっと留美さんのことを考えているんだろう。
「僕も大事な人が巻き込まれた事件がきっかけでね。彼に協力を依頼して仲良くなったんだ。殴り合いもしちゃったりね」
悪戯っぽい目をして笑った。もうそんな風に他人に話せるくらいには気持ちを昇華できているんだな。丸喜の心の変化を感じとれた。
「殴り合いなら俺らもしましたよ。河川敷で、こう」
ファイティングポーズを見せて、花村さんは歯を見せて笑った。
「懐かしいな。泣いている陽介に胸を貸したのもいい思い出だ」
「そ、それは言うなよ……ッ」
四人で歓談していると時間はあっという間だ。キッチンタイマーが鳴ったので、漬け込んでいたタレから肉を取り出し、仕上げにフライパンでタレごと焼いた。
「鳴上さん、ラーメンのスープをお願いしてもいいですか? 加熱して、味が足りなかったら追加してください」
「ああ」
その間お酒を飲んで顔が赤くなっている花村さんと丸喜がこちらを見ながらぽそぽそと会話している。
「何かあのふたり、料理番組に出たら映えそう……」
「確かに。見ているだけで癒されそうな光景だね……」
「つか、ずっと気になっていたんですけど」
「うん?」
花村さんが丸喜に何か尋ねている。丸喜が目を見開き、口元をわなわなと震えさせている。一体なにを話しているんだろう。
気にはなったがチャーシューができたのでコンロをあけて、今度はあらかじめ沸騰させておいた鍋を再加熱し、ラーメンを茹でる。
「スープは少し調整してみた。どうだろう?」
鳴上さんから小皿に入れたスープを手渡され、味見するとまさに醤油ラーメンのスープという味になっている。焦がし醤油の風味がいい。油分が少ないからかあっさりした印象だ。だが他の具材が加わると印象も変わるだろう。
「はい。これでいいと思います」
「よし」
茹で上がった麺を入れ、その上からスープをかける。そしてスライスしたチャーシューに鳴上さんがもってきてくれたメンマ、リクエスト通りのトッピングをそれぞれの器に盛る。
モルガナにも塩分の入っていない出汁スープを進呈した。
「ラーメン、完成しました」
「おー!」
丸喜と花村さんがパチパチと拍手した。もうすっかり酔っ払っている様子でふたりともニコニコと笑っている。
四人分並べて、「再びいただきます」とバラバラに手を合わせて、麺が伸びないうちに早速すすった。
シンプルな醤油ベースのラーメンだが、自分が作ったものだと思うと達成感もあって尚更美味い。
「ん~! 透流君、チャーシューとろっとろで最高だよ」
「本当に。これ、店で出せるんじゃね? うめー!」
「トータルで食べると飽きのこない味になったな」
「うん。美味しい。鳴上さんお手製のメンマもいい味わいになっている」
それからは皆、無言で麺をすすっている。男四人、必死で麺をすすっている光景がなんだか笑えてくる。でもそれぐらい美味しいから仕方ない。
最後にスープを飲み干すか迷ったけれど、残すのがもったいなくてつい最後まで飲み干してしまった。
「ごちそうさま。美味しかった!」
「ごちそうさまでした! いやー腹いっぱい食ったなあ」
「ああ。箸がとまらない美味しさだった」
全員満足したようで良かった。俺も丸喜に喜んでもらえたし、鳴上さんから料理を学べていい時間だった。
皆で片付けを手伝ってくれたのであっという間に片付けが終わった。
残ったチャーシューを半分に分けて鳴上さんと花村さんにお裾分けしたらとても喜んでくれた。
「いやー、こんなご馳走になった上、チャーシューまでありがとうございます!」
「こちらこそ。モルガナを助けてくれたお礼だったのに、メンマや飲み物までいただいて。料理や片付けまで手伝ってくれて本当にありがとう」
「楽しかったです。良かったらうちにも遊びに来て下さい」
「はい。また鳴上さんの料理を見学させてください」
花村さんと鳴上さんが帰るので、玄関先までお見送りした。
「それじゃお邪魔しました。モルガナもまたな」
一緒に見送っているモルガナも「ああ。また遊びにいくぜ」としっぽをブンブン振り回して言っている。きっと鳴上さんたちには「ニャー」としか聞こえないんだろうけど。
ドアが閉まると、丸喜が両手を挙げて背伸びした。
「はー。楽しかったね」
「ああ。……そういえばさっき花村さんと何を話していたんだ?」
丸喜があまりにもビックリした様子だったから、気になっていた。
丸喜はぽりぽりと頬を指でかいている。モルガナがリビングに戻っていったのを視線で確認してから口を開いた。
「ああ。うん……。その、尋ねられたんだ。こっちまで声がしないかって」
「声?」
「花村君、耳がいいみたいで時々こっちの壁から男のうめき声みたいなのが聞こえてくるんだって。それで花村君も心配になったみたい。自分の声がこっちまで漏れてないかって」
「それって……」
ふたりが俺たちの関係を知っても驚かなかったのはそのことがあったからなのか。思わず天を仰いだ。
「どうにか対策しないとな」
「……だね。お互いの生活のために」
ふたりで苦笑いを浮かべた。どうやら残りの休みは防音対策でかかりきりになりそうだ。
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