忍者ブログ

ラフレシ庵+ダブルメガネ


「ラストワルツ」サンプル

2015/04/21(Tue)18:54



5月3日のスパコミ新刊サンプルです。
鳴上君のシリーズ7冊目、シリーズ完結編。(前作を既読推奨です)

あらすじ
悠は都会に戻るまでの時間を幸せに過ごす中、夢の中で陽介に似た人物と出逢ったことで失った大事な記憶があることに気付く。そして辛い記憶を抱え、ひとり花畑で佇む彼は…。真エンドネタばれ注意。
バレンタインにpixivでアップした「チョコレート爆弾」を修正したものも含みます。

A5/46p/600円(イベント価格)/R18

とらのあなですでに予約が開始されてるようです。
http://www.toranoana.jp/bl/article/04/0030/30/08/040030300858.html?circle_new

サンプルを続き↓にいれたので、もしよかったらご覧ください。

表紙は足先まで描いて色塗ったんだけど、全体のバランスを考えてここまでで切っちゃいました。
せっかくなのでお品書きで全身のを使おうと思います^^
ようやくなのかあっという間なのか、シリーズ完結です。
話のバランスが悪くなっちゃうのと時間切れもあってちょっと書けなかった部分があったので、それはまたどこかで補完できればなーと思います。




 暗闇の中を歩いていた。下には一面の花が咲き乱れている。暗闇に紛れて花の形をたどることはできないけれど、そのむせるような香りで百合の花だとわかる。
 その花畑をかきわけながら、俺は探していた。
(彼は……何処だ)
 
 一度、夢の中で逢った彼にもう一度逢えないだろうか。

 あのときは夢から醒めたときに忘れてしまったけど、もう一度此処に来れたことで思い出した。俺は確かに此処を知っている。そして彼を知っている。
 彼は俺の記憶の大事なパーツを握っている。なぜかわからないがそんな確信がある。
「どうして君は此処にいる?もう一度話したい。出てきてくれ」
 姿を現さないので声を張って呼びかけた。静寂が訪れて、それでも辛抱強く待っていると、やがて暗闇の中から声がした。
「…ここに来るなって言っただろ。これは泡のように儚いただの夢だ。帰れよ」
 声がどこからかけられたかわからない。上からのような気もするし、すぐ近くからのような気もする。まるでテレビの中の世界に落とされた人が発する声のようだった。
「なぜだ」
「せっかく忘れさせてやったのに……お前こそ、俺に何を求める」
 彼が俺に何かを忘れさせた。そう、何かとても大事なことだった気がする。
(俺は……なにを…忘れてる?)
 大事な人を忘れてしまっている。そのことがひどく悲しい。
「いいんだ。思い出さなくて。それを思い出すと、お前はきっと前を向いて歩けなくなるから。だから」
 不意に背後から声がした。振り向く前に両手で頭を掴まれた。
「忘却の風」
(いやだ……っ)
 頭の中を強い風が駆け抜けた。此処のことも、その優しい声も、大事なパズルのピースが彼方へと飛ばされていく。
 すべてを忘れさせようというのか。
 こんなに大事だったはずの彼のことも。
 俺は力づくで振り向いた。
 一瞬彼の顔を見ると、彼は驚きで手の力が緩んだ。
 ハニーブラウンの髪、八十神高校の男子制服、そして悲しげな瞳。瞳は陽介と寸分違わぬダークブラウン。
(陽介…?)
「いいんだ、俺のことも、此処のことも全部忘れろ。辛いことは俺が全部もっていくから。お前は今を生きろ」
 彼は笑顔を見せた。陽介の表情そのままに。再び正面から彼の手に力がこめられた。
 百合の花びらが舞い散って真っ白に染まった。
 また夢から醒めたら忘れてしまうのだろうか。
 だけど、お前が陽介の一部なのだとしたら。
「俺は絶対、忘れない…っ!きっと、また…っ」
 陽介は一瞬目を見開いた。



「センセー…っ」
 遠くから声がした。その声に引き寄せられて、俺は夢から醒めた。
「大丈夫クマ?うなされてたクマよ」
 堂島家の居間の天井と、クマが視界に映った。
 クマが金髪を揺らし、青い瞳を落っことしてしまいそうな顔をしてのぞき込んでいる。そういえば俺は高熱で倒れたんだっけ。だるい身体を起こそうとすると、クマが慌てて背中を支えてくれた。
 起きあがると、ひどく汗をかいていることに気が付いて、額の汗を手の甲でぬぐった。
 何か大切な人が夢に出てきた気がする。忘れてはいけない大事なことを忘れている。けれど頭に霞がかかったように思い出すことができない。それを思い出さないといけないことだけは理由もなく確信していた。
(俺は…なにを……?)
 顔を上げると心配そうにクマが俺をのぞこんでいた。もしかしたら。
「……俺、うわごとでなにか言ってたか?」
 クマが顔を傾けて言った。
「えっと、『いやだ、忘れたくない、ヨースケ』って言ってたクマ」
「………!」
 そうだ、俺は夢の中で陽介と同じ姿をした者と出会ったんだ。百合のたくさん咲く世界で。忘れていた世界が一瞬で甦った。
 俺はクマの両肩をつかんだ。
「思い出させてくれてありがとう。クマ、テレビの世界で百合が一面に咲いている、陽介と同じ姿をした者がいる、そういう世界を知らないか?」
「ユリって、お花のことクマか?……んー…わかんないクマ」
「…そうか」
 クマがしょげていたのでフォローした。
「夢でみたから本当に現実に存在する所なのかわからないんだ。だから大丈夫、気にするな」
「クマ…」
「俺のこと、ずっと看病してくれてたんだな。おかげで寂しくないし、安心して眠れる」
 クマは大きく頷いた。
「うんっ、センセー。ちゃんと寝て、ごはんも食べて、早く元気になるクマよ。怖い夢も見ないようクマがちゃーんと添い寝してあげるクマ!」
「陽介が寂しがらないかな?」
 世話好きの陽介のことだ。最初はひとり部屋を満喫していたかもしれないが、今頃は弟のような存在のクマがいない部屋を寂しく感じているかもしれない。
 クマは胸を張って誇らしげに言った。
「ヨースケってばお菓子こぼしたーの、アイスは一本までだーの、うるさいクマ。たまにはクマのありがたみを思い出せばいいックマ」
 思わず笑いがこみ上げて、クマと一緒に笑い合った。
 陽介の話をしたら、とたんに会いたくなってきてしまった。
「ヨースケ、クマの分まで働くって。…センセーはクマよりヨースケに会いたい?」
 思いもよらぬことを言われて驚いた。歯をくいしばって俺を見ている金髪の頭を撫でて答えた。
「クマはクマだよ。誰にも替えなんてできない。クマがいて、陽介もいる。みんな俺にとって大事な人だよ」
 そう答えると、クマがホッとしたように頬をゆるませた。
「そうクマね。なんでかな…ちょっぴりこわかったクマ」
「怖い?」
 クマはうなずいた。
「なんでかな…センセー、クマ達が会いにいけないようなずっとずっと遠くに行っちゃう気が…りせチャンも同じことゆってたクマ」
「俺が引っ越しするから?」
 クマはブンブンと大きく首を振った。
「ヒッコシしてもセンセーはきっとクマに会いに来てくれる。クマのセンセー大好きって気持ちはずっと変わらないクマ。…よく、わかんないクマ。…センセーはもっともっととおくを見ててー、クマが走っても走っても追いつかない…」
 そう言ってクマはうなだれた。
 夢の中の陽介のことが気になっているのは確かだ。けれど現実の今ある生活を、仲間達を捨ててまで何かしたいかと言われたら答えはノーだ。
 陽介がいて、クマがいて、みんながいるこの世界が愛しい。これからもこの世界を傷つけようとする者があるなら自分に持てる力で守りぬきたいって思う。
「じゃあ約束しようか。たとえどこか遠くに行ったとしてもクマ達のところに必ず帰ってくるって」
「っクマー!」
 クマは嬉しそうに大きくうなずいた。指切りげんまんをしてクマと約束をした。
「ウソついたらホームランバー千ぼん!クマよー」
「うん、わかった」







 陽介は力を失ったように俺に背中を預けてきた。
「はあ…はあ…も、舐めるなよぉぉ」
「俺の手、気持ち良かっただろ?」
「気持ち良かったけど…ちょっとは落ち着いたけどさあ…」
 陽介は真っ赤になりながら口をとがらせた。そんな仕草も愛らしい。
「お前の方は大丈夫なわけ?いきなり一年分の記憶が蘇ってきて混乱とかしてない?」
 問われてそういえばそうだな、と気がついた。
「いや、大丈夫だ。たぶん忘れていただけで、もともと俺の中にあったものだからかな。今の一年の方が印象に強く残っている感じがする」
「そっか…なら良かった…」
 そうして見上げて笑ってくれた顔がどこか大人びていて、胸が高鳴る。後ろから抱きしめたまま陽介の髪を梳くと、陽介は気持ちよさそうに目を細めた。
「最初の一年、つき合ってたけど陽介を心から笑わせることはできなかったな。陽介、俺といる時、いつも申し訳ないって顔をしてた」
 陽介の腹に両手を回して抱き込んで、顔を目の前の肩に乗せた。回した腕に陽介がそっと手を添えてくれた。
「みんなへの罪悪感があったからな。それでも幸せだったよ」
 最初の一年、互いの気持ちに気づいて陽介とのコミュも完全に築かないまま夏休みにつきあい始めた。俺たちは身体を重ね、お互いに溺れ、それ以外のことが考えられなくなっていた。二人の関係は誰にも明かさなかった。つき合っていたけれどみんなへの罪悪感があって、陽介を心から笑わせることはできなかった。
「…陽介は?今はどんな気分?」
「んー、二重に思い出が重なってる感じでちっと混乱してる。とりわけお前への想いがすごくて、自分の気持ちなのにな。わけもなく泣きたくなる…」
 頬をさすると、陽介は気持ちよさそうに目をつぶって、頬をすり寄せてくれた。
「ありがとう」
 礼を言うと、陽介は目を大きく開いて俺を振り返った。
「ずっと俺のことを見ていてくれて、間違ったら止めてくれて、俺のために怒ってくれて、一緒に戦ってくれて…俺のこと、また好きになってくれて、ありがとう」
 陽介は驚いたように身体を起こした。肩にかけてきた手が少し震えている。
 ふたりで引き寄せられるように抱きしめ合った。
「ありがとうなんて言うなよ…もう終わっちゃうみたいだろ…ッ。もう、会えなくなるみたいじゃんか…ッ」
 その声も震えていた。泣いているのかもしれない。俺は肩越しに答えた。できるだけ陽介を安心させられるようにゆっくりと低い声色で。
「終わらないよ。これからもこの想いは変わらない。離れても、触れられなくても、お前が一年俺のことを想って見守ってくれてたように、俺だって簡単に気持ちは変わらないよ。これからも共に歩いていきたいのはお前だけだ」
 顔を上げ、陽介は頷いた。目が少しだけ赤い。
「…ん。向こうで浮気でもしようもんなら俺がぶっとばしに行くから…覚悟しとけよ…!」
「ははは、怖いな。じゃあ陽介も。寂しいからって桂木君のところに行ったりするなよ」
 本音混じりの冗談に、陽介は歯を見せて笑った。
「ったく、桂木はダチだって言ってるだろ。俺の気持ち、ちゃんとわかってるくせに」
「わかっているけど。会えない寂しさにつけ込まれるかもしれないだろ。特に桂木君は油断できない」
「お前も大概だな…」
「お互い様だ」
 二人で笑い合った。触れるだけのキスを何度も重ねた。身体を揺さぶり合って、抱きしめ合って、勢い余って花畑の上に倒れ込んで。胸の中がざわめいて、泣きたいのか笑いたいのかわからない。
 服を脱がせ合っていると陽介が顔を赤くした。
「アオカンみたいでなんかちょっとアレだな…」
「誰かに見られるかもって興奮する?」
 耳元でそう囁くと、いっそう顔を赤くして、肯定も否定もせず、ただ「バカ」と愛おしそうに俺を見た。喉の奥が締まるみたいに苦しくなった。
 服を全部脱がせ、草原の上に俺のジャケットの上下を敷くとその上に寝かせた。靴下だけ足下に残した陽介が花に囲まれて心細げに俺を見上げている。天から降り注ぐ光が健康的な肌を照らしている。風が肌を撫でるたびに眉を寄せ、身震いしている姿がなんとも艶めかしい。
「うん、興奮するな。すごく綺麗だ」
「も…お前しゃべるな」
 恥ずかしそうに俺を口を塞ごうとするから、いっそう愛しさがこみ上げてくる。塞いでくる手のひらに口づけ、その手首を取って地面に押しつけた。
 陽介は力を抜いて、俺の背中に手を回してすべてを預けてくれた。
「じゃあ一言だけ。陽介、愛してる」

拍手[0回]

PR

No.129|オフ活動Comment(0)Trackback

Comment

Comment Thanks★

Name

Title

Mail

URL



Pass Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字