「恋とは呼べなくても、」サンプル
2018/06/19(Tue)21:35
7/1に開催されるアナザーコントロール9の新刊サンプルです。
高2の時身体の関係があったふたりの10年後の話。主人公は自分に一周目があったことを打ち明ける。その時犯した罪もずっと抱いていた想いもすべて打ち明けられた陽介は…
相棒十周年アンソロジーに寄稿した話の続きのため、そちらを既読推奨。ストーリー・コミュネタバレ注意。
A5/36p/¥400(イベント価格)/R18
とらのあなで委託通販を扱っていただいてます。→★
本文サンプルはつづきのリンクからどうぞ。
表紙はクリスタルのキラキラした感じの表紙になる予定です。うまく印刷されてると良いなあ
途中でコンビニに寄って、結婚式が行われたホテルに戻った。
俺たちに宛がわれた部屋のテーブルには陽介がもらったブーケが置かれ、優しく薫っている。
ベッドに腰かけると、コンビニで買ったペットボトルを開けた。炭酸が弾ける様を目の前のベッドに腰かけた陽介がぼんやりと見ていた。ひと口含んだが、喉の渇きは収まらなかった。
出会ってから十年。俺にとっては十一年。お互いもう結婚してもおかしくない年頃だ。だからもう俺とのことはとっくに忘れ、自分の道を歩んでいたのだと思った。なのに今になってこうして陽介と再び距離を縮めることになるなんて思いもよらなかった。
想いを寄せてくれていたと知って、少なからず動揺している。陽介に抱きしめられて胸が震えた。その想いを俺が受け取っても本当に良いのかと今でも戸惑っている。なぜなら俺にそんな資格はないのだから。
すべてを話すと決意したが、なかなか言葉が出てこない。色々あり過ぎて、どこから語ったら良いのかわからない。
まず俺には『一周目』があるということを説明した方が良いだろうか。
「これは陽介が知らない…というか覚えてないことだろうけど。俺が過ごした八十稲羽はもう一年あったんだ」
陽介は驚かず、じっと耳を傾けていた。
「あの頃の…『一周目』の俺はペルソナの力に目覚め、絆の力が後押ししてくれて、思えば調子に乗っていた。陽介が俺のことを褒めてくれるとやる気がみなぎって、何でも出来る気がしていた」
だからまさか振られるなんて思わなかったんだ。
「俺、なんか誤解させるような態度とってたらごめん。けど、男同士だし…、いくら相棒のお前でもそーいうのはないだろ」
屋上で一緒に昼食をとった後、気持ちをありのままに告白した直後に言われたことだ。好きだから付き合いたい。重ねてそう伝えると、陽介は気まずそうな顔をした。どう言ったら傷つけずにすむか考えているみたいだった。
俺は振られたことが信じられなくて、嘘だと思いたくて肩に触れようとすると、その手を払われた。傷ついたのは俺の方なのに、なぜか陽介の方が傷ついたみたいな顔をした。
「わ、わり…その、急だったからビックリして。そんなつもりじゃなくて、なんつーか、その…」
「もう良い。忘れてくれ」
俺は顔を合わせていられなくて、屋上から出て階段を駆け降りた。死んでしまいたい。最悪の気分だった。
陽介は振るにしてももっと他に言い方はなかったのか。だいたい告白した奴の手を払ったりするなんて最低だろう。そうやって自分のことは棚に上げて、ひたすら心の中で陽介を憎んだ。
それからというものの、俺は傷つきたくなくて、自分のことを守りたくて、陽介に対して攻撃的な態度をとるようになってしまった。
同時に俺は里中と親密な関係になり、そのまま付き合うことにした。里中は可愛いし良い奴だとは思っていたが、特別な気持ちを抱いていたわけではなく、付き合うことにしたのもその場の空気に合わせてのものだった。付き合ううちに陽介のことを忘れたいとも思った。
そしてその後日、天城とも良い雰囲気になった。里中のためにもはっきり友達だと宣言すべきかと思ったが、不意にある考えがよぎった。たしか陽介が天城にアタックして玉砕していたはずだ。もし俺が天城と付き合えば、陽介のプライドに傷をつけられるかもしれない。そう思って天城とも付き合い出した。
そしてある日、りせと商店街を歩いていると、りせのマネージャーである井上さんに会った。芸能界の後輩である真下かなみの活躍を聞いて、りせは自分でもわけがわからないまま涙を流していた。もし抱きしめたりしたら、りせに勘違いさせてしまうかもしれない。どう応えようか迷っている時、偶然こちらにむかって歩いていた陽介に二人でいるところを見られた。
「何か、分かんないけど…全部…失くしちゃった…怖くて…寂しくて…なにこれ…先輩…。お願い、ここにいて…私の…そばに、いて…先輩!」
俺はあえて泣いているりせを抱きしめた。そう、以前河川敷で陽介にしたことと同じことをしてみせた。陽介は俺にとってもう特別ではないのだと知らしめたかったのだ。しかもアイドルだったりせのファンだから、効果は絶大なはずだ。
今思えばずいぶん子どもっぽくて最低なことをしたと思う。だけど、そうでもしないと陽介への恨みのような気持ちが晴れなかったのだ。
その後日、陽介が腕を組んで俺に言った。
「お前、里中と天城、りせとも同時に付き合ってるだろ。男として気持ちわかんなくもないけどさ、あいつらを傷つけるようなマネはすんなよ」
お前がそれを言うのか。俺のことを傷つけておいて。
「俺と彼女たちの問題だ。お前には関係ない」
そう冷たく言い放つと、陽介はぐっと奥歯を噛みしめた。
「…ああ、そうかよ。よけいなお世話だったな」
それで会話が終わったかのように思えたのだが、陽介が何か言いたそうに俺を見た。
「…お前、俺に何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「別に。陽介こそ何かあるんじゃないか」
俺に謝りたいんじゃないか。謝ったら少しくらいは話を聞いてやっても良いと思った。
「俺だって何もねーよ」
そう言って陽介は立ち去り、その後、俺のことに一切口出ししなくなった。思えばあの時腹に抱えているものをぶちまけて、ケンカでも何でもしてしまえば良かったんだ。そうすればスッキリして笑って手を取り合うことだってできたのに。
ふたりの関係がその後の未来に大きな影響を与えるとは、その時の俺は思ってもみなかったのだ。
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意識を失って目を覚ますと、見たことのない本来のテレビの世界が広がっていた。あまりにも美しくて見とれた。俺たちの信じたことは間違いじゃなかったんだ。隣で見ていた陽介と目が合って、「やったな」と拳を突き出された。その拳に、自分の拳をぶつけた。
こうして陽介とテレビの世界に入るのも本当の本当に最後なんだ。そう思ったらたまらなくなって、陽介の腕を引っ張った。
「おわっ、ちょっ、相棒?」
黙って陽介の手を引くと、何かを察したのか、陽介は仲間達に「先に帰ってくれ」と伝えて後をついてきてくれた。
「あっ」
花畑で陽介が足をもつれさせ、転びそうになったから、そのまま手首を引っ張って地面に引き倒した。花びらが散って、目を丸くした陽介の髪に、胸にひらひらと舞い落ちた。一周目と全然違う。あの時の青白いやつれた顔とは違う。生気に満ちた顔で俺を見て笑っている。
美しいと思った。この光景をずっと忘れたくないと思った。
もう恋と呼ぶには色んな感情が混ざりすぎて、陽介への気持ちをひと言では言い表せなかった。
だから俺も一緒に寝転がって、その背中を強く抱きしめた。すると陽介も抱きしめ返してくれた。
好きだとか、愛しているとか言葉はいらない気がした。きっと言わない方が良い。そんな言葉は陽介を束縛するだけだから。
ただ、目を合わせ、顔を寄せるとそっと口づけをした。唇と唇がしっとり重なると、陽介の目に涙が滲んだ。
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