忍者ブログ

ラフレシ庵+ダブルメガネ


C92新刊「サバイバル・パートナー」サンプル

2017/07/31(Mon)23:07

8月11日に開催されるコミックマーケット92(一日目)の新刊サンプルです。
内緒で付き合っている主花のサバイバルラブ。



特捜隊の仲間で無人島をレンタルしてバカンスしていたところ、海に溺れて別の無人島に漂流してしまった主人公(鳴上悠)と陽介。
救助を待ちながらサバイバル生活をすることになり、困難の中でふたりは絆と愛を深めていくが、実はその島は…

A5/38p/¥400(イベント価格)/R18

とらのあなで委託通販を扱っていただいてます。→

どうぞよろしくお願いします~。

本文サンプルは続き↓からどうぞ




どこまでも広がる青い空、そして眩しい太陽を反射してきらきら輝く海。
操舵席の後ろに座っていても吹き抜ける風は心地よい。
「見えてきたクマー!」
「クマくん、あんまり乗り出しては危険ですよ…!」
小型船の鼻先で金髪のクマが身体を乗り出して示した先に、小さな島があった。
「おっ! あれが俺らの行く島ですか?」
そうだよーと操舵席に座っている管理人のおじさんがのんびり頷く。
りせと完二、直斗と里中、天城も先頭に駆け出して、クマにひっつくようにして前のめりに眺めている。

俺たち特捜隊メンバーは夏休みの三日間、一日一組限定という無人島を貸し切って遊ぶことにした。りせや直斗はどこにいっても目立つし下手に騒げない。こういう場所なら気兼ねせずに遊べるだろうという俺の案にみんなが賛成した。
無人島のレンタル料金は学生の俺たちにとってはちょっとお高いけど、料理の材料なんかは自前だからトータルでは普通に旅行して宿泊するのと同じくらいだ。なによりこの大人数でどれだけ騒いでも問題ないっていうのが幹事をしている俺にとってはストレスがなくて非常に助かる。
食料も用意したし浮き輪やビーチボール、シュノーケリングの道具、それに花火セットも用意した。相棒も釣った魚を調理しようと釣り道具を持ってきている。魚だけでなく岩肌についた貝も網で焼いて食べられるらしい。
山林には遊歩道も整備されていてそこを散歩することもできるし、大雨が降った場合は体育館があって、そこで球技ができる道具もあるらしい。
「うー!テンション上がる!」
クマの隣にいるりせが高い声を上げて両手を上げた。つられてクマも「上がるー!」と手を上げている。
「いやー、りせちゃんはこういうプライベートビーチ、仕事でよく来てるんじゃん?」
「もちろんビーチで撮影とか海外ロケとかもあるよ。でもそれは仕事だもん。こんな風に仲間で遊ぶのは全然気分が違うよ!」
後ろの席から先頭を眺めていた天城も大きく頷いた。
「今日は日常のいろんなすべてから解放されて無人島に突・入! しよう!」
「天城先輩、まだそのネタ引っ張るんすか………」
「雪子、疲れた顔してるけど、なんかあった?」
「最近困ったお客さんが多くてね…千枝はどう?」
 里中がぽりぽりと頭を掻いて苦笑いした。
「あー…実技や体術は楽しいんだけど、座学が…あはは……」
「警察なら法律の知識なども必要になりますからね」
ふと相棒を振り返ると、みんなを楽しそうに眺めている。
「どうした、相棒?」
「いや、こうやってみんなと過ごせるのが久しぶりで、すごく楽しいなあって」
「だよなあ!なんかジュネスのフードコートにいる感じがするぜ」
高校を卒業して俺と相棒は都内の同じ大学の違う学部に進学し、広めの部屋を借りてルームシェアしているのでいつでも一緒にご飯を食べたり話もできる。
だけど他のメンバーとはそうはいかない。りせは人気アイドルで女優としても活動している。直斗も探偵として依頼があれば日本中を駆け回っている。
そして天城は女将修行をしながら大学に通っている。里中は警察官訓練生として研修中、完二は服飾大学で教職免許の取得を目標にしながら服飾を学んでいる身だ。クマはテレビの中を悪用するものがいないか見回りしながら、たまにこうして外に出てきている。
だからこうやって皆で集まれるのも久しぶりだ。スケジュールをあらかじめ合わせられて、なおかつ全員が無事に集まれたのは本当に奇跡としか思えない。
こうして集まれて、みんなと、なにより相棒の笑顔を見られた。それが幹事をする俺にとってなによりのご褒美だ。


島が見えると船は減速し、あっと言う間に桟橋に到着した。
「やっべ、漏る! トイレ、トイレー!」
「陽介、あっちにあるみたいだ」
膀胱が限界だったので、相棒に案内してもらってトイレにまず駆け込んだ。
何とか間に合って、手を拭きながらさっき通り抜けたキャンプ場まで移動すると、屋根のついた場所にテーブルやイスがあり、向こう側には炊事場、そして石窯もある。
「おー色々揃ってるじゃん」
「色んな料理が作れそうだな」
ヤシの木の枝にはハンモックもつり下がっていてリゾート気分満点だ。
桟橋に戻ると注意事項の説明をしていた。説明を聞き終えると、小型船は俺たちと荷物を置いて島を離れていった。本当に俺たちだけの貸し切りなんだっていう実感がじわじわと湧いてくる。
持参してきた食材や飲み物や遊び道具、そして宿泊道具をみんなで順番に運び込んだ。
トイレや温水シャワーや洗濯場もあって、生活するのに必要なものはほとんど揃っている。
クマが海辺に走って手を広げた。
「おお白い砂浜! 水着をまとった乙女の恥じらい。これぞセイシュン! ささ、レディたち。ムフフな水着に着替えて、クマとひと夏の恋にランデブー!」
「こーら、クマ公。遊んでないで、先にテント作りからだぞ」
「もーヨースケはすぐ大人ぶるんだからしょうがないクマねー」
レンタルした男用のテントと女用のテントを全員で組み立てた。
「なんかテントっつーと林間学校を思い出すな」
「あれもなかなか楽しかったな。みんなでぎゅうぎゅうにくっついて泊まって」
「懐かしいなあ!…あー、でも里中たちに滝に落とされたあげくモロキンの吐いたもので俺の美しい思い出はすべて台無しになったぜ………」
「そんなこともあったな………」
遠い目をし、ふたりで苦笑い。
「せーんぱい! りせが精のつく昼食、たーっぷり作るから待っててね!」
りせが後ろの料理場でなにかを作ろうとしている。手に持っているものをよく見ると、それはハバネロとタバスコだった。嫌な予感しかしない。慌てて相棒が振り返った。
「りせ………ちょっと待て、料理は俺がやる!」
止めに入ると、里中と天城もやってきた。
「お、料理対決またしちゃう? 久慈川さん、今度は負けませんことよ」
「ふたりとも最近料理してないでしょ。ここは私に任せて」
三人ともやる気満々で、思わず相棒と顔を見合せた。
「お前らは…ほら、仕事でお疲れだろう? 料理は俺らがやるからゆっくり散策してきてくれ」
 相棒も何度も頷いた。
「そうだ、まだ慣れない土地だ。色々見てきて後で教えてくれ」
直斗も慌ててこちらにやってきて、それに賛同した。
「せっかくの無人島なんですから、まずは我々女性陣でまわりの地形の把握をしましょう! 行きましょう!」
そう促してくれたので、りせ達も首を縦に振った。
「それもそっか。料理対決ならここじゃなくてもできるし」
「よーし、じゃあ探検しちゃおっか!」
「りせちゃんナビよろしく」
三人とも乗り気になって、直斗に背中を押されながら山林の遊歩道に向かって歩き始めた。なんとか恐怖の物体Xを回避することができた。
「あー危なかったな………」
「ああ………」



昼飯は俺と相棒で海産物や野菜、肉を焼いてバーベキューにした。石窯でチーズたっぷりの手作りピザを焼くと歓声が上がった。天城が持参してきた弁当もあったが、それに手をつけたクマが一発KOダウンしてしまった。すげえ、相変わらずの破壊力だぜ…。
持ってきたのはジュースなのに相変わらず場酔いして、天城やりせがハイテンションになっている。
「よーし、海に行くのら~」
「ふふふ………泳ごう」
「おいおい、溺れるなよ」
後片づけを直斗と完二が買って出てくれたので、二人にまかせることにした。相棒と一緒にボトムスの下に着込んでいた水着だけになって、りせ達を追って海に繰り出した。ダウンしているクマと、食い過ぎて「お腹が苦しいからちょっと休憩…」と訴えている里中はハンモックで休んでいた。
入り江からのぞく海は透き通った青で、白い砂浜とのコントラストが美しい。入り組んだ構造になっているせいか波も穏やかだ。海の中をのぞき込むと上から魚が泳いでいるのが見える。
「すっげー透明度高いのな!」
「ああ。綺麗だな」
「ねえ、先輩。背中に日焼け止め塗ってくれない?」
相棒の腕に絡んでりせが日焼け止め乳液を手渡す。あー、相変わらず相棒が大好きなんだな。首の後ろで留めるビキニの水着も似合っていて超可愛い。だけど胸を相棒の腕にくっつけるのは反則だ。俺の恋人なのに。そう口を出したくなるのをぐっと堪えた。これは仲間内のじゃれ合いだ。りせは俺たちの関係を知らないわけだし。
相棒と同じ志望大学に合格した時に告白されて、その時初めて自分の気持ちも自覚して、告白に応える形で付き合うようになった。ただ、みんなにはこの関係を打ち明けていない。相棒を好きな気持ちは確かだけど、同性同士ということもあって、まだ自信を持ってみんなに告げる勇気はなかった。相棒は優しいから、「陽介が言いたくなったらで良いし、別に無理しなくていいんだ」と言ってくれる。
だからりせのこともなんとか目を瞑った。
相棒はりせの頭を撫でた。
「りせ、天城に塗ってもらえ」
「えー」
「りせちゃん、私が塗ってあげるよ、たっぷり」
ふふふ、と変なスイッチが入った天城がりせを押し倒し、水着の隙間にもくまなく指を滑らせて乳液を塗りたくる。
「やん、天城先輩、そんなトコまで塗っちゃうの? くすぐったいよ」
「ふふふ、塗るよ。塗らないとそこだけ日焼けしちゃうからね」
柔らかそうな脇から下乳にかけて白い指を滑らせる天城。
なんだかとってもエッチな雰囲気に思わず喉を鳴らした。相棒にそっと耳打ちした。
「俺、勃っちまいそう………先に海に入ってるぜ」
「俺も行く」
足をつけると海の中は冷たいけど、暑い日差しだからちょうど良い。浜はちょうど入り組んだ場所にあるから、穏やかな波だ。
潜ってみると水の音に支配されてそこは別世界みたいだ。視界の先に相棒が泳いでいる。手を振ると相棒も手を振って答えてくれる。なんだかくすぐったいような気持ちになった。
息が苦しくなってきて、たまらず海面に顔を出した。
「ぷはっ!あー気持ちいー!」
相棒も顔を出して濡れた長い前髪をかき分けた。その横顔や仕草が綺麗で思わず見とれた。
「ああ、本当に」
そう言いながら、水に背をつけて手足を伸ばし、海面に浮かんだ。ゆったりと空を仰いでいる。俺も真似をすると、太陽が真正面に照りつけて、ゆらゆらと海の波に合わせて揺れて心地良い。
バカンスに来ているんだという実感が湧いてくる。なんだかテンションが上がってきた。すると島の一番端っこに高くて大きな木があるのが視界に入った。
「なあ、向こうまで競争しないか?あのでっかい木がある所まで!」
島をぐるりと外周をしてみたくて島の一番端っこを指さして相棒を誘うと「楽しそうだな、乗った」と頷いてくれた。
「よーし、行くぜ。よーいドン!」
合図と同時にクロールで目的の場所に向かって泳ぎ始めた。泳いでいる最中、砂浜の方から直斗の声がしたけど、波の音にかき消されてよく聞こえない。それより相棒との勝負に勝ちたい。その一心で波を掻き分けた。
「ん………?」
直斗たちが見えなくなるぐらいの距離まで泳いだところで海流が急に冷たくなったのを感じた。それに潮の流れもなんだか荒い。その異変に相棒も気づいたのか、立ち泳ぎをして止まった。
「陽介、様子がおかしい。浜へ戻ろう」
「えー………」
確かにちょっと波が高くなってきたけど、泳げない程ではない。それに目的の所までもう半分以上泳いだんだ。戻るよりも先に進んだ方が早い。
「これくらいなら行けるんじゃね?」
そう言って、ちょっと先まで泳いでみた。
「陽介!」
「え?」
声をかけられて相棒の視線をたどると、突然強い波が横から襲いかかってきた。そう気づいた時には遅かった。思い切り波をかぶり、強い濁流に飲まれて溺れ、深いところまで流された。息が苦しい。泳ぐどころかまともに身動きもとれず、上がどちらかもわからなくなってきた。
すると、なにかが俺の手首を掴んだ。目を開けると相棒の苦しそうな瞳と目が合った。俺を引っ張りあげようとしてくれている。だけど相棒も俺も潮の流れには逆らえない。流れに逆らうどころか、俺たちまで引き離されそうになる。
俺も相棒の腕を掴んだ。引き寄せて、お互いに抱きしめ合った。相棒だけは絶対に離さない。離したくない。そう強く強く願った。


目が覚めると、辺りは夕闇に包まれていた。ここはどこだ?っていうか、そうだ、相棒は。
起きあがると、砂浜の向こうの方に相棒が倒れていた。慌てて近寄った。
「あ………相棒?」
恐る恐る声をかけたが反応はない。良く見ると気を失っていた。呼吸はしているみたいだ。だけど目が覚める気配がない。
「相棒、起きろ、相棒」
揺さぶっても頬をたたいても返事がない。
「あ、そうだ、あれだ。えーと」
ジュネスでお客さんが倒れた場合の訓練を毎年したんだった。それを必死に思い出した。そう、まずは心臓マッサージだ。胸を手のひらを重ねて、垂直に押す。押す場所がここで合っているのかいまいち自信はないが、とにかくやるしかない。
「一、二、三、四………」
三十回繰り返すうちに、口から海水を吐き出した。だけどやっぱり反応がない。顎先を上げて気道確保をした。
顔を近づけて、相棒の口に空気を吹き込んだ。
意識が戻ってくれ。頼む。
心の中で何度もそう願いながら繰り返していると、相棒のまぶたがぴくりと動いた。
「けほっ、はっ、」
相棒がせき込んで、まぶたをうっすら開けた。呼吸も正常にできるようになったみたいだ。
「はー良かったー……! 相棒、大丈夫か?」
心からほっとして、思わず腰が抜けそうになった。俺に気がついた相棒が横になったままこちらを向き、ほっと息を吐いて笑顔を見せた。
「良かった………陽介、無事だったんだな」
「おう。海の中では助かったよ。サンキュな」
「いや、溺れている時に陸が見えたら安心して気を失ってしまった。俺の方こそ助けられたみたいだな」
お互い様だぜ、と相棒の背中を押してゆっくり起きあがらせた。
「ここは…………?」
「わかんねえ。俺も目が覚めたばっかでさ」
立ち上がって辺りを見回したが、見覚えのない場所だ。どうやらみんながいる場所からだいぶ流されたみたいだ。
「でもきっと海岸沿いを歩いていれば戻れるよな」
「そうだな。歩けるか?陽介」
「俺は大丈夫。相棒は?」
身体のあちこちを動かしてみて問題をないと感じたようで「ああ」と頷いたのでほっとした。とにかく日が落ちて視界が悪くなる前に戻りたい。みんなも心配しているだろうし。
「ちょっと待って、陽介」
浜からちょっと陸の方に上がって、相棒が棒きれを手に持って戻ってきた。
「どうすんの、それ?」
「歩いてきた場所を印しておけば、方向に迷った時の参考になるからな。一応」
そう言って、浜に大きな丸を描き、それ以降は線を引きながら歩き始めた。
「さすが相棒、生き字引!」
ふたりで波打ち際をまっすぐに歩いた。
「なんか俺らってどっか行くたび何かに巻き込まれるよな。そういう体質なんかな」
「そういえばそうだな。まあ今回は陽介のうっかりに巻き込まれたって感じだけど」
「ぐうの音も出ません……」
相棒がふふ、と笑った。よくこの状況で笑えるなあ。
「陽介といると本当に飽きない」
「もしかしたら溺れ死んじまったかもしんないのに、よくそんな風に言えるよなあ」
「サバイバルでも陽介とならどんと来いだ」
力強い言葉に思わず胸がキュンとした。そっと手を繋ぐと、嬉しそうに相棒も指を絡めてぎゅっと握り返してくれた。
「夕日、綺麗だな」
なんかこういう恋人気分のやつ、久しぶりだな。白い砂浜で夕日が地平線に落ちていくのを一緒に眺めるのって、よく考えたらめちゃくちゃロマンチックじゃねえ?
だんだん手を繋いでいるのが気恥ずかしくなって、相棒の肩を自分の肩でどついた。
「あー早く帰りたい。帰って相棒のメシが食いたい」
「ああ。今夜は釣った魚でシーフードカレーにしようと思っていた」
「相棒のやつ、めっちゃ美味いよなあ!」
うちで相棒が作ってくれたことがあった。普通のカレーも美味いけど、シーフードのも魚介のうま味がぎゅっと詰まっていて本当に美味しかったよなあ。
メシのことを考えていたら腹がぐうと鳴いた。相棒の腹もつられて鳴いたのでふたりで苦笑いした。
「あーやべえ。本気で腹が空いてきた」
「俺もだ」
小一時間ほど歩いたと思うけど、歩けども歩けども海と砂浜と木々しか見えてこない。夕日もほとんど沈んでしまった。だんだんふたりして無言になってくる。
「………なあ、この島ってそんなに広かったっけ?」
「いや………」
ふたりで顔を見合わせた。いや、でも、相棒が棒きれで来た道を印してくれている。だから少なくとも同じ道は歩いていないはずだ。
「…………陽介、残念な知らせがある」
相棒が棒きれで行く先を示した。見るとそこには相棒が棒で書いた印が残っている。
「ウソ…………だろ?」
「どうやら島をぐるっと一周回ったようだ」
「俺たち……別の島に流れ着いちゃったのかよ?」
認めるしかない。俺たちはみんながいる島とは別の所にいる。そうわかっていても簡単に認めることはできなかった。
俺たちは本気で無人島に流されてしまった。整った施設も食料もない無人島に。
思わず膝が笑って、倒れ込んでしまった。
「マジかよ………はは………」
人間って窮地に追い込まれると笑いしか出てこないんだな。ああ、本当にやばい。泣きそうだ。
自分の浅い判断で俺も相棒も溺れて死にかけ、挙句の果てに無人島に流されるという最悪な結果をもたらしてしまった。まさかこんなことになるなんて思いもしなかったんだ。
「ごめん………マジで…俺………っ」
謝ってもどうにもならないけど、頭を下げずにはいられなかった。
「陽介、落ち着け」
 相棒は静かに微笑んでいた。
「水、そして安全な場所。それさえ確保できれば人間は何日でも生き延びられる。その間に救助を待つんだ。大丈夫。直斗たちも気づいてきっと助けを呼んでくれる」
「相棒………」
相棒は辺りを見回して、すでに先のことを考え始めている。テレビの中のダンジョンのようにりせがナビゲートしてくれるわけじゃない。俺たちだけでなんとか帰還しなければいけないんだ。俺も手のひらで両頬をはたいて気合いを入れた。
「ごめん、落ち込む暇なんてねーよな。とにかく、やれることをやってみよう」
「大丈夫、ふたりなら何とかなるさ」
相棒がそう言うと本当にそんな気がしてくるから不思議だ。
「とりあえず暗くなってきたし、まずは風を避けられて休める場所を確保しよう」
相棒にそう提案されて、俺たちは風の強い海岸を離れ、山林の中に足を踏み入れた。日が完全に落ちてしまったら明かりもない俺たちには移動は難しい。裸足だけどなるべく急いで歩いた。
相棒の背中を追いかけながら、辺りを見渡す。鳥の声も今はなんだか不気味に聞こえる。何かが草むらの中を走るような音がするたび、びくっとしてしまう。
俺の挙動を察したのか、相棒が振り返った。
「大丈夫。鳥や獣がいるってことは食べられる草や水場があるってことだ」
「あ………そっか、そうだよな」
怯えているのを見透かされてしまい、恥ずかしくて顔が熱い。
こういうサバイバルの知識はほとんど無いに等しい。相棒は獣が寄ってこないよう、棒きれで大きな音をたてながら草をかき分けて歩いている。冒険小説などで読んだ知識らしい。相棒がいてくれて本当に良かった。ひとりだったらパニックになっていたに違いない。
「陽介がいてくれて良かった」
「へ………?」
逆はともかく、相棒の方がそう言うとは思ってもみなかった。
「大丈夫ってわかっていても、一人だったらどんどん不安になっていたと思うから。陽介が声かけてくれるとホッとする」
「相棒………」
忘れるところだった。なんでもひとりでできるけど、相棒だって人間だ。こんな状況で不安になるのは当たり前だ。相棒みたいに知識がなくても、お互いに知恵を出したり励まし合うくらいならできる。
思わず相棒の手を掴んだ。
「大丈夫、俺たちならきっと生きてみんなの所に帰れるって」
「ああ、そうだな」
自分にも何かできることがあるはずだ。歩きながら頬を叩いて気合いを入れた。すると、なにか向こうの方からかすかな音が聞こえてくる。その音にじっと耳をすました。
「あ………水だ。水の音がする」
相棒も耳を澄ました。そして視線を合わせて頷いた。
「あっちだ。行ってみよう」
ふたりで水の音がする方向へ行ってみると、岩場が少しくぼんでいる箇所があって、そこに小さな沢が流れていた。
「おお! ………ってこれ、飲んでも平気かな」
相棒がかがんで、手のひらを洗ってから、すくってちょっとだけ飲んだ。
「大丈夫、これなら濾過しなくても飲めるぞ」
そう言われて、俺もかがんで飲んでみた。海水でひりついていた喉を優しく潤してくれる。何度も掬って飲んだ。
「あー………うめえ………水がこんな旨いと思ったの、何年ぶりだろ…!」
「よし、このまま沢伝いに歩いてみよう」
水に濡れて滑る岩場をなんとかして上って歩いた。すると俺たちよりちょっと背の低い、小さな洞窟みたいなものがあった。岩と岩が積み重なってできた天然の洞窟のようだ。二人で顔を見合わせた。
「安全そうなら今日はここで休もう」
「おう。んじゃ、入ってみるぜ…」



拍手[0回]

PR

No.235|オフ活動Comment(0)Trackback

Comment

Comment Thanks★

Name

Title

Mail

URL



Pass Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字