【主丸】夏休みの憂鬱
2023/09/09(Sat)19:33
X(旧Twitter)でお題をいただいて書いた主丸SSです。
お題:夏休み中、私服の丸喜とばったり出くわす片思い中の主人公君
夏休みまるっきり丸喜先生に会えないの本当にゲームのバグすぎます…
本文はつづきリンクからどうぞ。
主人公名:暁 透流
夏休みに入ってからパレスの攻略をした後、双葉や竜司とレトロゲームで遊んだり、肉フェスにいったりと充実した休みを過ごしている。楽しいけれど、ちょっと人疲れもしている。
そんな時、一学期だったら決まって保健室にいる丸喜先生を訪ねていた。
あのやさしい笑顔にいつも癒されていた。夏休みの間はカウンセリングが休みだと知って、すごくがっかりしている自分がいた。
「はあ……逢いたいな」
「どうかしたか?」
バッグの中のモルガナに声をかけられて「いや、ひとりごとだ」と眼鏡のフレームを押し上げた。
もう少し度胸があれば丸喜に連絡をとり、食事やデートに誘うのだが。
今日は特にこれといった予定もないので装備品の売買やアイテムの買い足しを済ませた。セントラル街を歩いている、ビッグバン・バーガーが視界に入る。
「よし、ビッグバンチャレンジをするか」
「おっ、勝負するのか!」
チャレンジが成功すれば自分のステータスが色々上がりそうだ。夏休み中に鍛えて格好良くなっていれば丸喜にもっと好かれるんじゃないか。そう思うとますますやる気が湧き上がり、店内へ入って店員に告げる。
「ビッグバンチャレンジをします」
二等航海士のバッジは前回ゲットできたので、次は一等航海士に挑戦だ。
目の前に顔の大きさ以上のダブルバーガーが出されて、正直怯みそうになる。
「さあ、それでは30分間のビックバンチャレンジ、スタート!」
合図とともに勇気を奮い立たせてかぶりついた。
チャレンジしながら、どうやって腹の中におさめていくか、時間配分も頭の中で組み立てながら素早く口に入れていく。
最初は味わって食べていたが、だんだんお腹が苦しくなってきた。肉、野菜、チーズ、バンズ。繰り返しそれらを口に放り込んでいくうちにだんだんパレスの広大な砂漠が頭に思い浮かんでいく。
蜃気楼の彼方に丸喜が手を振っている幻覚が見えてくる。丸喜の「すごい。あともうちょっとだよ」と応援する幻聴まで聞こえてくる。この難所を乗り越えたら丸喜が待っている。そんな気がして一心不乱に咀嚼してラストスパートをきめる。
「終了ですー!」
店員さんの合図より前に食べ終えることができた。「よしっ!」と思わずガッツポーズをきめる。いつの間にかギャラリーができていて、賞賛の声が上がった。一等航海士のバッジを受け取りながら、その中に丸喜がいないか思わず探してしまう。
すると幻覚ではなく、ガラス越しに店の外で本物の丸喜が手を振っている。
「丸喜っ!」
思わず店の外へ飛び出した。
照りつけるような太陽の下、清潔感ある白いポロシャツにベージュのデニムが眩しい。夏らしい格好だ。丸喜に偶然会えて、しかも私服姿を拝むことができて、テンションマックスだ。
「いやあ。店の中を覗いている人たちがいるから何かと思って。そしたら君がものすごい大きなバーガーを食べているんだからビックリしちゃったよ」
「どうして渋谷に?」
「今日は他の先生方が巡回に行くからそのお手伝いに来たんだ」
丸喜はふふっと楽しげに目を細めた。
「育ち盛りらしい食欲で見ていて気持ちよかったよ。君と一緒にご飯を食べたら楽しそうだなあ」
「丸喜、先生……俺と」
今度、一緒にご飯を食べに行きませんか。そう誘おうとした時だった。丸喜の携帯電話が鳴った。着信のようだがとろうとしない。俺の言葉を待っている様子だ。
「……どうぞ出てください」
「ごめんね」
申し訳なさそうに丸喜が携帯電話で通話し始めた。受け答えの様子だとどうやら待ち合わせ場所が変更になったという連絡のようだ。
タイミングが悪かったな。頭を掻いて逸る気持ちを落ち着かせた。
「お待たせ。それでごめん。暁君って渋谷駅の宝くじ売り場ってわかる?」
「ああ。それだったらここから歩いてすぐです。案内しますよ」
「本当かい? 助かるよ」
目を輝かせ、にっこりと微笑んでくれた。俺の心はそれだけで満たされてしまう。店内に戻ってモルガナに事情を話すと、「じゃ、後で合流な」と店を出たとたんにするりとカバンの中から出て行って路地裏へと消えていった。丸喜から見えない角度にカバンを持っていたから気づかれた様子もない。
「こっちです」
肩を並べて一緒に歩く。まるでデートみたいだなと浸りながら会話のきっかけを探していると、丸喜の方が口を開いた。
「君のおかげで研究論文は順調だよ」
「そうですか」
丸喜は微笑んでいるけど、どこか遠くを見つめている。
「あ、かつき、くん……?」
声をかけられて、自分が丸喜の手首を掴んでいたことに気がついた。研究を完成させたらどこか遠くに行ってしまいそうな、儚くて、現実味のない笑顔を見ていると胸がしめつけられて不安になる。どうしてそこまで研究に没頭するのだろう。丸喜を突き動かすものは一体なんだろう。
俺は丸喜のことをあまりにも知らない。
その俺が告白したとして、果たして丸喜の心に響くんだろうか。
「どこか調子が悪い?」
「違います。……なんだか、丸喜…先生が遠くに行ってしまいそうな気がして……」
そう告げると、丸喜はきょとんと目をしばたかせた。
それはそうだろう。今は俺の横にいるんだからおかしなことを言ってると思うだろう。
「たまに、メッセージ送ってもいいかな?」
「え?」
「今何してるとか、何を食べたとか。くだらない話しちゃうかもだけど」
丸喜なりの気遣いだろうか。何だか泣きたいような気持ちになる。
「はい。知りたいです。些細なことでも、もっと貴方のことを」
素直な気持ちを伝えると、丸喜は頬を赤くした。
「あはは、そっか……良かった」
俺の気持ちを察して誘ってくれた。それに優しい物言い。丸喜が大人だということを実感する。そして自分が子どもであることも、子どもとして見られているということも嫌ってほど感じている。
もっと強く、優しく、賢くなりたい。丸喜の心を包み込めるくらい。
チャレンジ一回分じゃ全然足りない。
「君も気が向いたらメッセージ、送ってくれるかい?」
「もちろんです。楽しみにしてます」
歩いているとすぐに目的の場所に着いてしまう。他の先生たちが丸喜に向かって手を振っている。
「ここまでありがとう。すっごく助かったよ!」
「はい」
「そういえば……さっき電話が鳴った時、なにか言いかけてなかった?」
食事に誘おうと思っていた。だけど、もっとやらなくちゃいけないことがある。
丸喜にふさわしい自分でありたい。夏の間に、もっと、もっと。
「いえ。やっぱり大丈夫です」
「そうかい? それじゃ、楽しい夏休みを過ごしてね」
「はい。また2学期に」
自分から離れていく背中。引き留めたい気持ちをぐっと堪えて見送った。
「あ、そうだ」
丸喜がこちらを振り返った。
「僕のこと、呼び捨てで構わないよ」
遠ざかってもバイバイ、と大きく手を振られた。
思わず緩んでしまう口元を手で必死に覆い隠した。
丸喜にとっては大したことじゃないのかもしれない。
けれど、そうやって特別な呼び方を許してくれるくらいには距離が近づいたのかもしれないと思うと。
しばらく何ともない振りをしながら丸喜たちが見えないところまで歩いていると、いつの間にかモルガナが隣を歩いていた。
「オマエ、どうしたんだよ。その真っ赤な顔」
モルガナを抱き上げて、思わず全力でハグをした。
「ニャッ? お、おいっ!」
爪を立てられて全力で拒否されるまで、そのハグは続いた。
お題:夏休み中、私服の丸喜とばったり出くわす片思い中の主人公君
夏休みまるっきり丸喜先生に会えないの本当にゲームのバグすぎます…
本文はつづきリンクからどうぞ。
主人公名:暁 透流
夏休みに入ってからパレスの攻略をした後、双葉や竜司とレトロゲームで遊んだり、肉フェスにいったりと充実した休みを過ごしている。楽しいけれど、ちょっと人疲れもしている。
そんな時、一学期だったら決まって保健室にいる丸喜先生を訪ねていた。
あのやさしい笑顔にいつも癒されていた。夏休みの間はカウンセリングが休みだと知って、すごくがっかりしている自分がいた。
「はあ……逢いたいな」
「どうかしたか?」
バッグの中のモルガナに声をかけられて「いや、ひとりごとだ」と眼鏡のフレームを押し上げた。
もう少し度胸があれば丸喜に連絡をとり、食事やデートに誘うのだが。
今日は特にこれといった予定もないので装備品の売買やアイテムの買い足しを済ませた。セントラル街を歩いている、ビッグバン・バーガーが視界に入る。
「よし、ビッグバンチャレンジをするか」
「おっ、勝負するのか!」
チャレンジが成功すれば自分のステータスが色々上がりそうだ。夏休み中に鍛えて格好良くなっていれば丸喜にもっと好かれるんじゃないか。そう思うとますますやる気が湧き上がり、店内へ入って店員に告げる。
「ビッグバンチャレンジをします」
二等航海士のバッジは前回ゲットできたので、次は一等航海士に挑戦だ。
目の前に顔の大きさ以上のダブルバーガーが出されて、正直怯みそうになる。
「さあ、それでは30分間のビックバンチャレンジ、スタート!」
合図とともに勇気を奮い立たせてかぶりついた。
チャレンジしながら、どうやって腹の中におさめていくか、時間配分も頭の中で組み立てながら素早く口に入れていく。
最初は味わって食べていたが、だんだんお腹が苦しくなってきた。肉、野菜、チーズ、バンズ。繰り返しそれらを口に放り込んでいくうちにだんだんパレスの広大な砂漠が頭に思い浮かんでいく。
蜃気楼の彼方に丸喜が手を振っている幻覚が見えてくる。丸喜の「すごい。あともうちょっとだよ」と応援する幻聴まで聞こえてくる。この難所を乗り越えたら丸喜が待っている。そんな気がして一心不乱に咀嚼してラストスパートをきめる。
「終了ですー!」
店員さんの合図より前に食べ終えることができた。「よしっ!」と思わずガッツポーズをきめる。いつの間にかギャラリーができていて、賞賛の声が上がった。一等航海士のバッジを受け取りながら、その中に丸喜がいないか思わず探してしまう。
すると幻覚ではなく、ガラス越しに店の外で本物の丸喜が手を振っている。
「丸喜っ!」
思わず店の外へ飛び出した。
照りつけるような太陽の下、清潔感ある白いポロシャツにベージュのデニムが眩しい。夏らしい格好だ。丸喜に偶然会えて、しかも私服姿を拝むことができて、テンションマックスだ。
「いやあ。店の中を覗いている人たちがいるから何かと思って。そしたら君がものすごい大きなバーガーを食べているんだからビックリしちゃったよ」
「どうして渋谷に?」
「今日は他の先生方が巡回に行くからそのお手伝いに来たんだ」
丸喜はふふっと楽しげに目を細めた。
「育ち盛りらしい食欲で見ていて気持ちよかったよ。君と一緒にご飯を食べたら楽しそうだなあ」
「丸喜、先生……俺と」
今度、一緒にご飯を食べに行きませんか。そう誘おうとした時だった。丸喜の携帯電話が鳴った。着信のようだがとろうとしない。俺の言葉を待っている様子だ。
「……どうぞ出てください」
「ごめんね」
申し訳なさそうに丸喜が携帯電話で通話し始めた。受け答えの様子だとどうやら待ち合わせ場所が変更になったという連絡のようだ。
タイミングが悪かったな。頭を掻いて逸る気持ちを落ち着かせた。
「お待たせ。それでごめん。暁君って渋谷駅の宝くじ売り場ってわかる?」
「ああ。それだったらここから歩いてすぐです。案内しますよ」
「本当かい? 助かるよ」
目を輝かせ、にっこりと微笑んでくれた。俺の心はそれだけで満たされてしまう。店内に戻ってモルガナに事情を話すと、「じゃ、後で合流な」と店を出たとたんにするりとカバンの中から出て行って路地裏へと消えていった。丸喜から見えない角度にカバンを持っていたから気づかれた様子もない。
「こっちです」
肩を並べて一緒に歩く。まるでデートみたいだなと浸りながら会話のきっかけを探していると、丸喜の方が口を開いた。
「君のおかげで研究論文は順調だよ」
「そうですか」
丸喜は微笑んでいるけど、どこか遠くを見つめている。
「あ、かつき、くん……?」
声をかけられて、自分が丸喜の手首を掴んでいたことに気がついた。研究を完成させたらどこか遠くに行ってしまいそうな、儚くて、現実味のない笑顔を見ていると胸がしめつけられて不安になる。どうしてそこまで研究に没頭するのだろう。丸喜を突き動かすものは一体なんだろう。
俺は丸喜のことをあまりにも知らない。
その俺が告白したとして、果たして丸喜の心に響くんだろうか。
「どこか調子が悪い?」
「違います。……なんだか、丸喜…先生が遠くに行ってしまいそうな気がして……」
そう告げると、丸喜はきょとんと目をしばたかせた。
それはそうだろう。今は俺の横にいるんだからおかしなことを言ってると思うだろう。
「たまに、メッセージ送ってもいいかな?」
「え?」
「今何してるとか、何を食べたとか。くだらない話しちゃうかもだけど」
丸喜なりの気遣いだろうか。何だか泣きたいような気持ちになる。
「はい。知りたいです。些細なことでも、もっと貴方のことを」
素直な気持ちを伝えると、丸喜は頬を赤くした。
「あはは、そっか……良かった」
俺の気持ちを察して誘ってくれた。それに優しい物言い。丸喜が大人だということを実感する。そして自分が子どもであることも、子どもとして見られているということも嫌ってほど感じている。
もっと強く、優しく、賢くなりたい。丸喜の心を包み込めるくらい。
チャレンジ一回分じゃ全然足りない。
「君も気が向いたらメッセージ、送ってくれるかい?」
「もちろんです。楽しみにしてます」
歩いているとすぐに目的の場所に着いてしまう。他の先生たちが丸喜に向かって手を振っている。
「ここまでありがとう。すっごく助かったよ!」
「はい」
「そういえば……さっき電話が鳴った時、なにか言いかけてなかった?」
食事に誘おうと思っていた。だけど、もっとやらなくちゃいけないことがある。
丸喜にふさわしい自分でありたい。夏の間に、もっと、もっと。
「いえ。やっぱり大丈夫です」
「そうかい? それじゃ、楽しい夏休みを過ごしてね」
「はい。また2学期に」
自分から離れていく背中。引き留めたい気持ちをぐっと堪えて見送った。
「あ、そうだ」
丸喜がこちらを振り返った。
「僕のこと、呼び捨てで構わないよ」
遠ざかってもバイバイ、と大きく手を振られた。
思わず緩んでしまう口元を手で必死に覆い隠した。
丸喜にとっては大したことじゃないのかもしれない。
けれど、そうやって特別な呼び方を許してくれるくらいには距離が近づいたのかもしれないと思うと。
しばらく何ともない振りをしながら丸喜たちが見えないところまで歩いていると、いつの間にかモルガナが隣を歩いていた。
「オマエ、どうしたんだよ。その真っ赤な顔」
モルガナを抱き上げて、思わず全力でハグをした。
「ニャッ? お、おいっ!」
爪を立てられて全力で拒否されるまで、そのハグは続いた。
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