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ラフレシ庵+ダブルメガネ


【主丸】帰省

2024/12/21(Sat)17:13

年末年始の主丸SSを書きました。
丸喜の帰省にぺご君がついていく話です。





 それは一緒に住み始めて2年目のもうすぐ年の瀬。新幹線や道路の混雑予想のニュースを食後に観ていた時だった。
「丸喜は今年も年末年始は仕事?」
 何気なくそう尋ねると、丸喜は振り返って俺を見た。
「ううん。今年は帰省しようと思う。ずっと地元に帰ってなかったからね」
 大学も冬休みに入ってどう過ごすか考えていた矢先。しかも丸喜の親御さんにはいつかちゃんと挨拶したいと考えていた。
 思わず身を乗り出した。
「俺も一緒に行きたい。丸喜の親御さんに会いたい!」
「えっ?……う、うん。じゃあ両親に伝えておくね」
 モルガナの「またやってる」という呟きが聞こえたけれど今はそれどころじゃない。


 丸喜は実家に電話して俺が一緒に行くことを伝えてくれた。その時に一緒に住んでいる恋人だと紹介してくれた。同性で結婚はできないけれど、それくらい大事な人だとも。その少し緊張した様子の横顔に見惚れた。
 そして実家にふたりで訪ねた。ちなみにモルガナは杏に早く会いたいからとウキウキした様子でルブランへ行った。
 丸喜のお父さんもお母さんも俺のことをもてなしてくれた。
 郷土料理を食べさせてくれたり、丸喜のアルバムを見せてもらったり、子ども時代の色んな話を聞かせてもらって楽しく過ごした。
 丸喜は子どものころから興味があることに夢中ですぐいなくなる。どこかで泣いているかもしれないと慌てて探すと、バッタや店内のロボットアニメの放送に夢中になっていて、こっちはヒヤヒヤしてたのにいつもニコニコ笑っていたなどと苦笑い混じりに話してくれた。
 同性で年下の恋人を連れてきてさぞ驚いただろう。けれど二人とも俺に良くしてくれて、「拓人って見ていてあぶなっかしいでしょ。こんな子だけどこれからもよろしくね」と言ってくれた。駅まで俺たちを送ってくれたり手土産も持たせてくれた。
 丸喜がこんな風に人を大事に思える人に育ったのも両親によるところが大きいと思う。そんなご両親に挨拶できて本当に良かった。
「今日は遠いところまで来てくれてありがとう。泊まっていってくれても良かったのに」
「俺が来たいって言ったんだ。それに今夜は仲間たちと二年参りに行く約束だから」
「そっか……」
 三が日まで地元で過ごす予定の丸喜は新幹線の駅のホームへ見送りに来てくれた。予定がかぶらなければもっと自分をアピールできただろうけど、仲間との約束も大事にしたいから仕方ない。
「親御さんたちにちゃんと挨拶できて良かった。俺のこと、恋人だって紹介してくれて嬉しかった」
 丸喜は電話するまでだいぶ悩んでいた。丸喜がどんな風に紹介してくれても良かった。俺とのことで丸喜と親御さんとの関係が悪くなるくらいなら紹介された通りにうまく立ち回るつもりでいた。けれど俺を恋人として紹介してくれた。親御さんの前でも「悲しいこともあったけど、立ち直れたのは彼のおかげなんだ」って紹介してくれた。
 丸喜は照れくさそうに頬を指でかいた。
「うん。……どう紹介しようか迷ったけどね。前に君が僕のこときちんとご両親に紹介してくれて嬉しかったんだよね。……ちゃんと僕の気持ちを伝えられて良かった」
 そう言って、俺の小指にそっと自分の指を絡めた。そんな仕草が愛おしくて、思わず抱きしめたくなる。
 丸喜はなぜか少し悲しそうな顔で微笑んだ。
「前にね。留美のこと、結婚するつもりでいるって両親に伝えていたんだ。でも色々なことがあって結婚は流れちゃったんだって報告したら本当に残念そうでね。両親も色んな期待もあったと思うんだ」
 丸喜は遠くを見るような目で言った。期待とは帰郷とか孫とかだろうか。もしかしたら長く地元に戻っていなかったのは優しい親御さんたちの期待に応えられなかったからかもしれない。
「丸喜……」
「だからもしかしたら君のことを紹介したら怒ったり悲しんだりするんじゃないかってちょっと心配だったんだ。僕がなじられるならともかく君にまで飛び火してしまったら嫌だったから。でもそんなことなくて……うちの親、純粋に僕の幸せを願ってくれていたんだなって気がつけて良かったよ」
「うん。本当に良いご両親だった。丸喜が優しいのもわかる」
 そう伝えると少し照れくさそうにはにかんだ。
 駅に音楽とともにアナウンスがこだました。やがて新幹線が到着した。次々と乗客が降りていき、ホームで待っていた人たちが乗っていく。丸喜も名残惜しそうにゆっくりと俺の小指を離した。
「じゃあ気をつけて帰ってね」
「ああ。またうちで」
「うん。おみやげ、君とモルガナ君の分もたくさん買って帰るから。また連絡するね」
 可愛い笑顔で手を振る姿にますます愛しさが募り、我慢できず手を腰にまわしてぎゅっと抱きしめた。
「と、透流くん……っ」
 顔をのぞきこむと、困ったように眉を寄せつつも、丸喜も俺の服の裾を掴んだまま離さない。
「キスしたい」
 思わずそう伝えると、丸喜は慌てて胸を押した。
「だ、ダメだよ……こんな所じゃ……」
「ちょっとだけ」
 丸喜は顔を真っ赤にして唇をふるわせている。その唇のあたたかさを知っている。だからよけいに欲しくなる。
 出発のベルが鳴って、ハッとしたように丸喜が俺の背中を押した。
「ほ、ほら。乗り遅れちゃうよ!」
 チッと思わず舌を鳴らしてしまう。車体に乗ると、丸喜と向かい合った。
 すると何を思ったのか、丸喜がぐっと身を乗り出した。
 俺のコートの襟を掴んで引き寄せたと思ったら、ぐいっと自分の唇を俺のに押しつけてきた。
 そして耳元で。
「僕がいないからって浮気しちゃ……嫌だからね」
 すぐ身体を離された。その挑むような真っ赤な顔に思わず見とれていたら扉が閉まった。
「ふっ」
 思わず笑いがこみ上げてきて、ドア越しに丸喜へ投げキッスを返した。丸喜は自分がやったことが恥ずかしかったようで、真っ赤な顔のまま俺を見据えている。やがて車体が動き出し、丸喜が遠ざかって姿が見えなくなっていった。
 壁に寄りかかり、ずるずると背中が落ちていき、とうとう膝を曲げる。
「人前じゃダメって言ったのは丸喜の方なのに……」
 にやけた笑いが止まらなくて思わず口元を手で覆う。こんなに夢中なのに。渋沢さんや丸喜のご両親にも認めてもらって周りからかためて丸喜が逃げられないようにしたいって考えているのに浮気なんてするものか。
 恋は人を変えるっていうけど本当かもしれない。丸喜に出会うまで恋は駆け引きを楽しむものだって思っていた。両親に紹介したい、されたいなんて思ってなかった。こんな風にバカップルみたいな真似事を外でしたいなんて思わなかったし。
「あーあ。……丸喜、早く帰ってこないかな」
 別れたばかりだというのにもう逢いたくて仕方ない。年末の混雑した東京に戻るのが少しだけ鬱になった。


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No.337|主丸SSComment(0)Trackback

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