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ラフレシ庵+ダブルメガネ


魔法少女ヨウスケ 後日談

2019/09/26(Thu)22:41

魔法少女ヨウスケ 後日談

 

◆HERO(No Name)×花村陽介

◆付き合っている(周りにはそのことを伏せている)

◆全年齢向け

本文は続きからどうぞ!



 陽介はあの日からどこか沈んだ顔をしていた。
 その理由は俺にも察しがつく。

 深夜0時。
 美鶴さんから聞いた「噂」が気になったので、陽介とふたりで念のためもう一回マスコットキャラクターの着ぐるみを身につけて試してみた。


 陽介に視線で合図を送ってから、おそるおそるノートパソコンの画面に触れてみた。だが、サイトのトップ画面は触れても揺れることはなかった。ガラスの硬質な音が部屋に響いた。

「あちらの世界とはもう繋がっていないようだな」
「はー…良かったー…」
 美鶴さんから聞いた噂がもし現実になってしまったなら、俺たちの残像のような存在がサイトの中で俺たちがしていたことを再現しているということになる。つまり、俺と陽介がセックスしているのを延々と人びとに見られてしまうということだ。
 そんなことになったら俺はともかく、陽介が恥ずか死んでしまう(本人談)。
 その当の本人は大きな息を吐いた。そしてその後もじっとサイトの画面を見つめていた。
「…陽介?」
 声をかけると、陽介は「これで良かったんだよな」と複雑な表情を浮かべた。
「…あの声が忘れられないんだ」
 お腹を大事そうにさすっている。あの卵から産まれた存在を気にかけているようだ。
「あの時産まれたのは俺たちの子ども…っつーか、愛の結晶体みたいな感じだろ」
「そうだな」
 不思議な感覚だった。初めて会ったのに、ずっと前から傍にいたような気がする。サイトに入れなくなった今、あの子は一体どこにいるんだろう。
「力を使い果たして消えてなくなっちゃった……のかな」
 消え入りそうな小さな声。思わず陽介の肩を抱き寄せた。
「陽介は俺との子どもが欲しかったのか?」
「んー…そうとも言えるけど、厳密には違うっつーか」
 俺を見上げて、悲しそうに微笑んだ。
「俺、いつもお前にいっぱいもらってるのにさ、でも全然返せてなくて。好きって気持ちが溢れてどうしようもなくて。だから願っちゃったんだ。お前に何か返したいって。お前のために子どもを産んでやりたいって。俺は妊娠しないってわかっているのに…それでも…」
 俺が陽介の中に何か残したいと願うように、陽介もそう思っていてくれたんだ。胸に熱いものがこみ上げる。
「その望みをあの子は叶えてくれたんだ。確かにあの子は生きていた…よな」
「ああ」
 今はどこにいるのかわからない。けれど、確かに俺たちの間に愛の結晶が生まれたんだ。
 励ましたくて陽介の背中を擦った。それを陽介は目を瞑って受け入れた。
「すごく声の綺麗な子だったな」
「うん…なんかこっちの心が洗われるような感じだった」
 あの子が魔法少女の世界を救ったと言っても過言ではない。シャドウの力を弱め、仲間がシャドウを倒した時にみんな一緒にこちらの世界に戻してくれた。
「あの世界にひとりぼっちなのかな。サイトが元通りになって安心したけど、あの子のことだけが心残りでさ」
「確かに気になるな」
 俺たちにとっては子どものような存在だ。もし独りであの世界に生きているのだとしたら、放ってはおけない。
「あっちの世界への入り口が閉じていて安心したんだけど、同時にあの子に会えなくて残念なんだ。こんなの身勝手だよな」
「陽介」
「ん?」
 陽介は目を開け、俺を見た。心を込めて、自分の気持ちを伝えた。
「俺はたくさん陽介にもらっているよ。陽介が溢れるほどいっぱいくれるから、俺ももてるもの全部で返したくなるんだ」
 陽介は覚えがないと言わんばかりに目を見開いて俺を凝視している。
「それに俺も願っていたんだ。陽介の中に自分の何かを残したいと」
「相棒……」
 その願いをあの子は叶えてくれた。
「俺たちの願いを受けて、あの子は産まれたんだと思う。だからあの子は間違いなく俺たちの子どもだ」
 そう言うと、ぐっとこらえるように唇を噛みしめた。やがて、そのこぼれ落ちそうな瞳から涙が溢れた。
「あっちで元気でやってると良いなあ…」
 その肩を改めて強く抱きしめた。
「俺たちの子なんだ。きっと大丈夫。またどこかで逢えるだろう」
「お前がそう言うと本当にそんな気がするな…」
 陽介がやわらかく微笑んでくれた。愛しさがこみ上げて、その唇にそっとキスをした。


 美鶴さんにもサイトへの入り口は閉じていて問題なかったと報告をした。美鶴さんも「監視は続けるが解放された人たちがだんだんあの世界のことを忘れてくれれば問題ないだろう」と言っていた。




 ところがあの世界から戻って三日後のこと、不思議なことが起こった。

 朝、鳥の声がして目が覚めた。とても綺麗な鳴き声が近くでする。
 隣で眠っていた陽介もその声を聞いて眩しそうにしながらも目を覚ました。
 朝日を浴びようとカーテンを開け、ベランダ側の窓を開けた。
 すると一羽の鳥がベランダの端に足をかけてこちらを見ていた。
 金色の輝くような羽をして、尾がとても長い。
そして澄み切った声を聴かせてくれた。俺たちを起こしてくれたあの美しい鳴き声だ。
「おはよ……どうした?」
 陽介が目を擦りながらベランダまで見に来た。
「ほら、あそこに」
 鳥を指さすと、陽介は自らの口を手で塞ぎ、声のトーンを落とした。
「綺麗だなあ…」
 すると鳥は首の角度を変えたり、羽を拡げて見せてくれたりした。
「可愛いなあ」
「ああ。逃げないし、飼われていたのが逃げちゃったのかな」
「あ、そうか。え、じゃあ捕まえた方が良いのかな」
 そう言われて思案した。陽介はスマホで鳥の捕まえ方を調べ始めた。
 ただ陽介が調べ終えるのを待っているのも手持ち無沙汰なので、鳥に声をかけてみた。
「おいで」
 腕を差し出すと、鳥は羽をバサバサとはためかせて俺の周りを何周かすると、俺の腕を止まり木にして降り立った。
「すっげー。お前鳥飼ったことあるの?」
「いや。テレビで鷹匠がこうやっていたのを見て。この子、まるで俺の言っていることがわかるみたいに賢いな」
 俺たちの会話に参加しているみたいに美しい鳴き声で話しかけてくれる。
 よく見るとあちこち羽が抜けているし脚に怪我もしている。他の鳥にやられたんだろうか。
「そのままうちの中に入れてみよう」
 腕に止まらせたまま部屋に入ると、鳥は俺たちを交互に見つめてくる。もっと興奮して飛び回ってしまうかと思ったが、おとなしいものだ。
 飼い主を探すために陽介に写真を撮ってもらって、その後は陽介の帽子やストールをかけるための枝みたいなオブジェに移ってもらった。枝を行ったり来たりしてクルクルと喉を鳴らして部屋を観察している。
「大事にされていたみたいだし、飼い主が見つかると良いな」
「ああ」
 警察に届け出を出し、近くの動物病院や近隣の人にも聞いてみたが、鳥を探しているという人もそのような鳥を飼っているという人もいないとのことだった。
 鳥の種類もわからず、動物病院の先生も「こんな鳥、見たことないな」と首をかしげていた。
 とりあえず動物病院で手当てをしてもらい、張り紙で飼い主を探している旨を掲示した。


 その後、三か月経っても飼い主は現れず、結局俺たちで飼うことになった。
 鳥かごを前にふたりで顔を見合せた。
「名前、どうしよっか」
 陽介に聞かれ、もしものために考えておいた名前を披露した。
「ヒナとかどう?」
「えー、ヒナって大きさか?」
 確かに全長は15センチくらいある。だけど光を浴びて輝く菜の花のように見えるのだ。
「漢字で書くとこう」
 陽介の陽に菜の花の菜。
「俺にとって、やさしい光って意味かな」
 そう伝えると、陽介が顔を赤くした。
「俺の漢字があるって何か照れくさいな…」
「よっ、ママ」
「ママじゃねえ! つか、それならお前はパパだからな」
「ママ、パパって呼び合うの、なかなか良いな」
 鳥も喜んでくれているみたいで羽を拡げて鳴いている。
「んー。まあ喜んでいるから良いか」
「よし、じゃあヒナで決まりだな」
「改めてよろしくな、ヒナ」
 すると、美しい声を響かせてヒナがひと鳴きした。
「…なあ」
 陽介に声をかけられて振り返ると、じっとヒナを見つめ、やがて声を発した。
「もしかしてヒナってさあ……」
 そう言いかけて、首を振った。
「…わりい。やっぱ何でもない」
「もしかして、ヒナのこと、あっちの世界で産まれた俺たちの子どもだって思っている?」
その言葉に陽介は俺を振り仰いだ。
「なんでわかるの? あ、お前もそう思っていた?」
「ああ。そうだったら良いなっていう願望かな」
「うん…俺も。そうだったらコイツを絶対幸せにしたい」
 あの世界は閉じてしまった。だからもうあの子はこちらには来られないだろう。だけど、クマみたいな例外もあるわけで、もしそうだったらあの子だってこちらに来られる可能性があるはずだ。
 ヒナをじっと見つめた。視線に気がついてヒナが俺を見て首をかしげた。
「ヒナ、お前はあちらの世界から来たのか?」
 ヒナは楽しそうにさえずっている。それが肯定なのか、否定なのか、あるいは俺たちの言葉を理解しているかもわからない。
「まあ言葉が話せるってわけじゃないからな。答えなんてわからないか」
「だよな。まあどっちにしろ、ヒナのことは大切にするから心配するな」
 ヒナは話しかけられているのが嬉しいようで、再び美しい声を聴かせてくれた。


 生活を共にするようになって、いつの間にか、ヒナは聞いた言葉をしゃべるようになった。
「パパ」
「ママ」

 そのことに驚き、感動「も」した。そう。「も」だ。
「アイボウ」
「スキダゼ」
「ヨースケ、カワイイ、アイシテル」


 だけどまさかしゃべるようになるタイミングが特捜隊のみんながヒナを見に来たまさにその時だったのだ。
 陽介は持て余した感情を隠すこともできず、部屋のすみっこで壁に頭を自らぶつけている。
「あああああぁぁぁ」
 顔に両手を覆い、ひたすら嗚咽を漏らし続ける陽介をフォローすることもできず、結局ふたりが付き合っていることを公開しましたとさ。





 

 

 

 

 
 

 

 

 

◆ここまで読んでいただきましてありがとうございました!2019.9歌月ゆに◆

 

 

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No.283|主花SSComment(0)Trackback

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