ラフレシ庵＋ダブルメガネ

「俺は丸喜とコスプレエッチがしたい！」
そんなきっかけで主人公(暁 透流)のマイパレスで大ケンカする主丸本です。
３学期ネタバレ注意です。

A5/36p/400円(イベント・自家通販価格)/R18
アナコンは不参加のため、現在は通販のみにて取り扱い中です。
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以下本文サンプルです。
R18部分はこちらに掲載できないため、pixivやとらのあなのサンプルをごらんください。



　その夜、遅くなってきたので読みかけの本を閉じて、メガネをベッドのサイドボードに置いた。
　彼は遠くを見つめたままぼんやりとしている。
「僕はそろそろ寝るね。君はまだ？」
　尋ねたけど、返事がない。いつもならすぐに何か返してくれるのに、なんだか様子がおかしい。
「透流君……？」
　顔の前で手を振ってみたが、反応がない。
　すると彼の布団の上で丸くなっていたモルガナ君が顔を上げた。
「あーソイツ、時々そうなっちまうんだ。何でも『マイパレス』ってところにいるらしいぜ」
「マイ…パレス……？」
　パレスと言えば、怪盗団が認知世界にある欲望に歪んだ人が作り出す世界を彼らがそう呼んでいたはずだ。
「ジョゼがコイツのためにつくってくれた、自分の認知で遊ぶセカイだってさ」
　ジョゼというのは人々の集合意識……「メメントス」と彼らが呼んでいた場所で出会った不思議な少年だそうだ。
「認知で遊ぶ世界……」
　いったいどんな世界だろう。彼の認知世界を通して過去に起こったことを覗いたことはあるけれど、その世界で遊ぶってどういうことなんだろう。
　それは彼にとって、僕と一緒にいるよりも魅力的な世界なんだろうか。彼が楽しんでいることは何よりだけど、どうしてだろう。少しだけ胸の内がモヤモヤする。
　いつもなら、彼がどこかへ出掛けて楽しんできたり、他の仲間と遊ぶのも喜ばしいことだって思えるのに。
「どんな世界なのかな……」
「さあなあ。……ワガハイにマイパレスがあったら、アン殿とデートしたり……くふふふ」
　そう言いながら、モルガナ君は幸せそうな顔のまま夢の世界へと旅立ってしまった。モルガナ君は彼が何をしているかあまり気にならないようだ。
　僕も寝ようと思ったけど、彼のことが気になってなかなか寝付けなかった。




　その数日後、渋沢に誘われて飲むことになり、週末の夜、吉祥寺にある行きつけの飲み屋で落ち合った。カウンター席で乾杯するなり渋沢が肘をついて僕を見た。
「よう、最近どうだ？ 暁君とうまくやっているか？」
「うん……まあ……」
　別にケンカしているわけじゃないし、お互いにうまくやっていると思う。
「なんだ。浮かない顔だなあ、おい」
　楽しげに顔を覗きこまれて、ちょっとむかついてしまう。
「まさか暁君、ついに浮気か？」
「彼はそんなことしないよ。………たぶん」
　彼がひとりで何か楽しんでいるわけだから、浮気じゃない……と思う。たぶん。
「その言い方……なんか気になることでもあるのか？」
　なんと説明したら良いものか。マイパレスのことは僕も説明しようがないし。
　それよりはことの発端を話した方が良いかもしれない。
「その……渋沢は『コスプレ』ってどう思う？」
　そう問いかけると、色々と察したのか「なるほどな」とニヤニヤと笑いを浮かべた。
「へえ。暁君ってそういう趣味なんだ」
「……僕はそういうの、あんまり楽しめないっていうか、落ち着かないんだ。渋沢は奥さんと合わないことってない？」
「そりゃあ、めちゃくちゃあるって。理解できない部分もいっぱいあるし。俺がちょっと際どいプレイとかしようとすると、めちゃくちゃ怒られるよ。けど、ふたりでやることなら、どっかで摺り合わせていくしかないんじゃないか？」
　合わない部分があっても、お互い好きな気持ちには変わりないのだから、お互いが納得する地点に落ち着くまで話し合うしかない。
　そう言われて、それ以上の答えはないと思った。
「そう……だよね」
　渋沢は僕の顔を見て、ニッと歯を見せた。
「でもまあ、たまには言いたいこと言い合って、ケンカするのもいいんじゃないか。合わせてばかりだとお互い疲れるし。それにな……」
　僕の肩を抱いてニヤニヤした顔で渋沢が笑うから、思わず身を引いた。そういう持って回った言い方をする時の渋沢は、僕には思いつかないようなとんでもないことを言う時だ。
「……なに？」
　おそるおそる続きを促した。すると渋沢は僕の耳元に顔を寄せ、小声で言った。
「ケンカして、仲直りした後のセックスは最高だぞ？」


　そうして渋沢と飲んで、いっぱい喋ったら気分も少しは晴れやかになった。
　吉祥寺駅で別れを告げて、渋沢はタクシーで、僕は電車で帰った。


　家に帰ると、いつもなら彼が出迎えてくれるのに、今夜はしんと静まっていた。
　もう寝ているのかと思って、そっとリビング兼寝室に入ると、薄明かりの中で、ベッドの上の彼の上半身が起きている。
「透流君……？」
　近づいて、様子を窺うと、彼は目を開けたままぼんやりと空を見ている。どうやら例のマイパレスというところに意識がとんでいるようだ。
「また……」
　思わずため息をついた。
　このところ、彼は毎晩のようにマイパレスに行っている。朝食時に「どんな世界なのか」と尋ねても、「秘密」と意味深に微笑むだけで教えてくれない。
　モルガナ君のベッドがあるカウンターキッチンのベンチを見ると、もう眠っているようで、しずかな寝息が聞こえる。足音をたてないように気を使ってシャワーを浴びると、透流君の隣にあるベッドの布団の中にもぐりこんだ。
　彼は相変わらず空を見つめている。
「『おかえり』も言ってくれないんだね」
　そうつぶやいても、彼は応えてくれない。それが寂しくて、やるせない気持ちになって、布団を頭までかぶり、ぎゅっと目を瞑った。


　気になるか？
　ならば我がその道筋を照らしてやろう。




　そう声が聞こえた気がした。
　気がつくと僕は真っ暗な空間に立っていた。
　これは夢だろうか。それにしてはやけにリアリティがある。
「今の声……」
　アザトースの声が聞こえたような気がした。だけど姿は見えない。どうやらここは認知世界で、僕がマイパレスに行けるようにしてくれたみたいだ。
「ありがとう。アザトース」
　見えないけど、暗闇に向かってそう伝えると、返事はなかった。その代わりに胸のあたりがポカポカとした。
　気がつくと、目の前にドアがあった。ドアの上部に怪盗団のステッカーが貼られている。
　そのドアは自分の行きたい場所に繋がっているのだろう。自分を鼓舞したくて「よし」とひとり頷いて、ドアノブに手をかけた。
　その扉を開いてみると、目の前にはドーム状の大きな空間が広がっていた。
「ここは……」
　赤い絨毯が敷かれている。ジャズ・クラシックの音楽を聴きながらその絨毯の上をおそるおそる進むと、目の前は二階層になっていて、下を見ると高巻さんや坂本君の姿が見える。それに彼らが使役していたペルソナもいる。
　僕が近づいてみても彼らは反応しない。ということは、彼らは透流君の認知する存在なのだろう。
「これが彼の『マイパレス』……」
　たしかに、これは彼の認知したものを映した世界なんだろう。本物と区別がつかないくらいみんなそっくりだ。
「こんにちは、悲しいイシのおにいさん」
　後ろからそう声をかけられて、ビックリして見ると、子ども用のおもちゃの車に乗った少年がにこりと笑っている。僕に話しかけてくるということは、彼はどうやら認知存在ではないようだ。
「君がジョゼ君かい」
「うん。おにいさんのことは知っているよ。とても悲しい色のイシを生み出したヒト。でも……」
　じっと僕の目を見た。そして屈託無く笑った。
「もうあのイシは生み出されそうにないね。それに今はちょっとだけ別の色を感じるよ」
　見た目はロボットのように見えるし、少なくとも人間ではないような不思議な雰囲気をした少年だ。僕の内面を見透かすようなことを言うけれど、不思議と不快感はない。
「ここにおにいさん以外がやってくるなんて初めてだよ。何か探しもの？」
「うん。透流君を探しているんだ。ここに来なかった？」
　そう尋ねると、なぜだかジョゼ君は頬をふくらませた。
「おにいさんなら来ているよ。僕も会いに来たんだ。でもきっと、僕は入れてもらえない場所にいる」
　ジョゼ君は視線で示して、寂しそうな顔をしていて、それ以上、何も言わなかった。
「ありがとう。探してみるよ」
「うん。おつかれ～」


　ジョゼ君と別れて、僕は示された先に行ってみた。
　認知世界とは思えないほどリアルで臨場感を感じる。
　それに彼の認知する人々があちこちで楽しそうに笑っているのを見ると、彼が望んでいる世界の片鱗が見えるようで思わず笑みが浮かぶ。
　僕と過ごした秀尽高校の保健室もあって何だか懐かしくなってしまう。
歩いているうちに、奥の方に重厚そうな扉があった。そのドアの前には筆記体の英語が書いてある。
「アダルト…オンリー……？」
　ジョゼ少年が入れてもらえない部屋だと言っていたし、ここに彼がいる気がする。だけど、なぜだろう。とても嫌な予感がする。
　中に入るのを躊躇っていたら、部屋の中からこもったような声がかすかに聞こえる。
「……あ……んな……も……ダメ……っ」
「ふ……ダメって顔じゃない」
　途切れ途切れのかすれた声が聞こえてきて、それに反応する彼の声も聞こえる。
「これって………」
　まさか………浮気現場？
　考えないようにはしていたけれど、ずっと気になっていた。彼のコスプレ好きを解消する方法はあると言っていた。それがどういう意味なのか。
　真っ暗な闇に突き落とされたような気分になった。
「いや、でも」
　だけど、まだ実際に自分の目で確かめたわけじゃない。勘違いかもしれないし、絶望するのはまだ早い。
「よし……」
　汗ばんだ手で重い扉を押し開いた。

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