やそいな8新刊「朝まで踊り明かせ」
2015/09/13(Sun)21:56
やそいな新刊その1、P4D本です。両想いでつきあってる主花の明るく楽しい感じのいちゃいちゃエロです。
ストーリーモードのネタばれはないです。
20p/R18/200円/コピー本
楽しくいちゃついてるので書いてる私も楽しくてサクサク書けました^^
サンプル本文は続き↓からどうぞー
朝まで踊り明かせ
◆主人公(鳴上 悠)×花村陽介、恋人前提
◆P4D絆フェス前の話(ネタばれ無し)
◆18歳未満閲覧・購入禁止
「花村先輩、お願い…助けて!」
都心にいるりせから電話がかかってきたのは「愛meets絆フェス」開催まであと一週間という時だった。
「どうした、りせ?」
「とにかくお願い、こっちに来て!先輩、先輩が…っ」
りせの取り乱しようからすると緊急事態だと言うことはすぐにわかった。しかもりせが「先輩」と親しみを込めて呼ぶのは俺の相棒であり恋人でもある鳴上悠以外にいない。相棒に何かあったって言うなら俺に迷う選択肢なんて無い。
「なんかわかんねーけど相棒がピンチなんだろ。すぐ行く!」
俺は取るものもとりあえず、八十稲羽から電車に乗ってりせ達のいる芸能プロダクション「タクロプロ」に向かった。
詳細はわからない。でも俺に何かできることがあるなら相棒の力になりたい。
「待ってろよ…相棒!」
電車をいくつか乗り継いで、タクラプロにつく頃には日が暮れて、すっかり夜の帳が降りていた。
「相棒ッ、りせ!」
りせから指示されたレッスンスタジオに入ると、相棒、りせ、そしてダンスの先生が立ち尽くして顔を見合わせていた。スタジオ内には鳴上の課題曲が流れっぱなしになっている。こちらに気がついたりせが慌てて駆け寄ってきた。
「花村先輩!」
「一体どうしたんだ?」
りせに尋ねると、困ったように眉をハの字にし、「とりあえず見てもらえばわかると思うから…」と曲を最初からかけた。
「先輩、最初から行くよ!」
「ああ」
鳴上は大量の汗を流し、それでも凛としたたたずまいを崩さずに最初のポーズをとった。
実は練習時間の短さもあってパートナー部分の練習は一緒にしたけど、相棒のソロパートはまだ見たことがなかった。だから楽しみでついワクワクしてしまう。
だけどリズムに乗っている悠になぜだか違和感を覚えた。
「…………え?」
曲が始まって踊り出すとその違和感はますます広がった。
「なあ、これって……」
「…先輩、振り付けは完璧なの。完璧なのに…!」
りせが頭を抱えている理由がわかった。相棒は完璧な振り付けで踊っている。踊れてはいるのだ。けれどリズムに合ってない……それも初見の俺がわかるぐらい思い切り。
りせがリモコン操作して曲を中断させた。
ダンスをやめ、相棒がタオルで汗の始末をしながら苦笑いした。
「俺はこれでも完璧に合わせてるつもりなんだけどな…」
その言葉に思わず相棒を指さした。
「もしかしてお前ってリズム音痴?……や、でもお前、俺の課題曲のパートナーはバッチリ出来てたじゃねーか!」
「あれは陽介の呼吸に合わせて踊っていたんだ」
「リズム分んなくても相手の呼吸で踊れんの?逆にすげーよ!」
りせが困ったように片手で肘を支え頬杖をついた。
「うーん、鳴上先輩、私のダンスでもペアの部分はバッチリだったんだよね。ソロの部分だけなの。もっと早くに先輩の練習を見たら良かったんだけど…」
相棒が「りせのせいじゃない」と遮った。
「俺が個人練習をして、完璧にできたと過信していたのが悪かったんだ」
一緒に居合わせたダンスの先生も腕組みをして考えている。
「リズム音痴は直せる子がほとんどだけど、時間をかけてじっくり直していくものなの。方法は色々試してみたけど、この調子じゃあと一週間で治すなんてとてもじゃないけど無理ね」
「そんな…」
相棒を見るとしゅんとしている。練習の量は振り付けの完璧さを見てもわかる。なんとかできないものだろうか。
「んで、俺がどうして呼ばれたわけ?」
そう尋ねるとりせと先生がずいっと顔を近づけてきた。りせは可愛いからいいけど、先生は迫力あるおネエだから別の意味でドキッとして怖いっス…!
「「愛!」」
りせと先生の声がハモった。
「へっ……?」
「花村先輩の愛の力だよ!もうそこに賭けるしかないの」
「恋人に応援されて頑張らないオトコなんていないでしょ?ね、鳴上クン」
先生に尋ねられて相棒まで「はい」とか大きく頷いているし。つーかなんで先生まで俺たちの関係を知ってるわけ?
「んもう、アタシ、運命の人に巡り逢えたと思ったのに、やっぱりいいオトコにはお手つきがいるのよね。悔しいッ!…でもまあアナタもとってもキュートだから許してア・ゲ・ル」
オネエ言葉の先生にウインクされて思わず「ははは…」と苦笑いしちまった。どうにもこの先生は苦手だ。
どうやら相棒がこの先生に迫られて俺たちの関係を話したようだ。
「そういうわけで、先輩のことは花村先輩に任せたから」
「おいおい、任せたって…りせはどうすんだよ」
りせは苦笑いした。
「あたしは自分の新曲のダンスがまだ完璧に仕上がってないからこれから先生に見てもらうところなの。花村先輩は自分の課題曲けっこう早くにクリアしてバックダンサーの振りに専念してるでしょ。それもあってお願いしたくて」
「う…そっか」
今回はりせの芸能界復帰の応援をしたくてバックダンサーになることを了承したのだ。りせは俺たち全員のダンスを完璧に仕上げるために八十稲羽まで何度も足を運んでくれている。りせや先生の時間をこれ以上とるようなことは確かに避けたい。
「わかった。どうやったらいいか見当つかねーけど…とにかくやってみる」
「やったー!花村先輩ならそう言ってくれると思った。じゃあここのスタジオは朝まで貸し切りにしてあるから、使い終わったら受付の人に伝えてね」
そう言ってりせは「特訓中!」と書いてある張り紙をドアの前に貼って、相棒に手を振った。
「それじゃ。先輩頑張って。あとでメールするからちゃんと見てね」
「ありがとう、りせ。先生も貴重な時間を割いていただき有り難うございました」
相棒がおじぎをすると、先生は投げキッスを寄こした。
「あなたならきっと最高にクールで胸を熱くするダンスに仕上げられるわ。期待してるわよ」
りせと先生を見送ると沈黙が訪れた。俺たちはレッスン室にふたりきりになって、互いに顔を見合わせた。
「遠くから来させて悪かったな、陽介」
「相棒のピンチなら俺はいつだって駆けつけるぜ。……っつーか、なんにもなくたってお前には逢いたいから、気にすんなよ」
「ありがとう、陽介。俺も逢いたかった」
そう言ってごく自然にハグしてくるものだから、俺もうっかり背中に手を回して抱きしめ返してしまった。ダンスの練習でここ最近も会っていたけど、逢瀬と呼ぶにはとても短い時間だったから。こんな風に近い距離で話せるのも久しぶりで、ついドキドキしちまう。
すると唐突に携帯の着信音がレッスン室に鳴り響いた。
「おわ!」
思わずびくっとして体を離した。誰が見てるってわけでもないのに、なんだか急に気恥ずかしくなってきた。
相棒が「ちょっとごめん」と自分の携帯を手に取って確認しはじめた。
すると一体どんな内容だったのか、目を見開いた後、ニイッと口角を上げた。
「どした?今の音、メールだろ?」
「ああ。りせから激励のメッセージだった。…うん、やる気がみなぎってきた」
りせってアイドルだけあって人をやる気にさせるツボを心得ているよなあ。
「んじゃ頑張らないとな。俺もお前の曲の振り付けを覚えるから、とりあえずひと通り踊って見せてくれよ」
「わかった」
ダンス用の着替えを持ってこなかったので、動きやすいようにジャケットを脱ぎ、チノパンの裾をまくった。その間に鳴上が備え付けの音楽プレイヤーを操作して最初から曲をかけた。Dance!という曲は鳴上にぴったりで、つい見とれそうになる。それを我慢して、とにかく集中して振りを頭に入れた。
曲が終わると、思わず「ん~惜しいんだよなあ」と声が出てしまう。
「お前ってダンサブルじゃないんだけど、それが逆にいいっつーか。ちょっとした動きが様になっていて、音に合わせようって思ってないのがかっこいいよなあ。これでリズムに合ったらもっとすげーと思うぜ」
ペアの部分は確かにばっちり踊れていた。
「……なあ、ペアの部分は相手の呼吸を感じながら踊れるんだろ。それって相対音感ってヤツに似てないか?」
絶対音感がひとつひとつの音がなんの音がわかる能力なら、相対音感は他の音との違いをわかる能力だ。それのリズムバージョンみたいな能力を鳴上が持っているんじゃないかと仮定したら。リズムに合わせられなくても、相手と自分のリズムの違いはわかるってわけだ。
「相対音感か…たしかに」
DVDを観ながら練習しても、先生の呼吸までは感じられなかっただろう。
「だからさ、俺がお前の曲を覚えて一緒に何度か踊ってみれば、そのうちソロでも踊れるようになるんじゃね?あ、でも先生もそんな風に踊ってくれてた?」
「いや、先生は部分部分で踊って見せてくれたけど一緒には踊らなかった。なるほど…それならできそうな気がする。陽介はやっぱり頼りになるな」
そう言われて腹の底から力が湧いてきた。相棒に頼りにされると俺もやる気に満ちてくる。
「おし、早速やってみようぜ!」
「ああ」
向かい合わせになって振りつけを相棒に教えてもらいながら一緒に踊り始めた。最初は俺も振りが曖昧だしリズムもズレていた。振りつけのポイントやカウントを教えてもらってだんだん踊れるようになってくると、俺を見ながら踊っていた鳴上もリズムに乗れるようになっていく。
「そうそう、その調子!今のとこ、バッチリだぜ」
曲をリピートし、三回連続で踊ると動きが鈍くなって足がもつれそうになったので、いったん休憩を入れることにした。
「うー、さすがに疲れた…!」
床に座り込んで息を整えていると、上から声が降ってきた。
「陽介のダンス、すごく好きだな。ステップとかターンとか曲に乗って気持ちよさそうに踊ってて。くるくる変わる表情とか、ちょっとした息づかいとかも。ずっと見ていたくなる」
タオルと飲みかけのスポーツドリンクを手渡された。鳴上にそう言われると、まんざらでもない。
「へへ、結構いけてんだろ?りせの復帰のためだもんな。ばっちり決めてやりたいだろ」
「ああ、そうだな。できるだけ早く完璧に仕上げてしまおう」
「おお、やる気だな」
水分補給し、汗をタオルでぬぐって立ち上がった。細かなステップやターンのカウントがわからなかった部分を相棒にたずねたりして微調整をした。ほんと、頭の中にはしっかり振りが入ってるんだよなあ。あとは曲のリズムに乗れさえすれば。
「そういやお前とカラオケって行ったことなかったな。今度行く?リズム感を養いに、一緒に歌ってさ」
そう言うと、相棒は目元を緩ませた。
「楽しそうだな。時間があればそうしたいところだけど、今回はあと一週間だからな」
「あー、そうだよな…」
すると相棒がなにか含みのある顔で俺の髪を梳いた。
「陽介はいつまでこっちにいられる?」
「明日の昼くらいまでなら」
すると相棒は「そうか」と思考を巡らせた後、俺を見てにっこりと笑った。
「もしかしたらカラオケよりもっといい方法が見つかったかも」
「ん?」
相棒が顔を寄せてきた。
「もっと近くで感じさせてくれ。陽介のリズムを」
腰を抱き寄せられて、耳元にそう吹きこまれる。まるでそういうコトに誘われてるみたいな気分になってくる。
「あい、ぼう?」
顔を上げると思ったより近いところに相棒の顔があって、呼吸をするみたいに自然な感じでキスを交わした。
「名前、呼んで」
悠に優しい声色でねだられて、きゅうっと胸が甘く締め付けられる。つき合う前は平気で下の名前を呼んでいたけど、つき合い始めてからなんとなく気恥ずかしくなってしまって皆の前では相棒とか鳴上って呼ぶようになった。
だから二人っきりになった時、悠はしきりに俺に名前を呼ばせる。
「悠……」
そう呼ぶと、悠は嬉しそうに顔を綻ばせた。ああ、もう可愛い。好きだ。
手のひらに悠の手が重なっていて、優しく撫でられた。恋人つなぎで指を絡められて、持ち上げられた俺の手の甲にキスされた。手の甲からじわりと熱が拡がっていく。
悠がゆっくり顔を上げて、手の甲からうなじ、唇、そして瞳へと視線を移していく。視線が重なって、互いに見つめ合った。
ストーリーモードのネタばれはないです。
20p/R18/200円/コピー本
楽しくいちゃついてるので書いてる私も楽しくてサクサク書けました^^
サンプル本文は続き↓からどうぞー
朝まで踊り明かせ
◆主人公(鳴上 悠)×花村陽介、恋人前提
◆P4D絆フェス前の話(ネタばれ無し)
◆18歳未満閲覧・購入禁止
「花村先輩、お願い…助けて!」
都心にいるりせから電話がかかってきたのは「愛meets絆フェス」開催まであと一週間という時だった。
「どうした、りせ?」
「とにかくお願い、こっちに来て!先輩、先輩が…っ」
りせの取り乱しようからすると緊急事態だと言うことはすぐにわかった。しかもりせが「先輩」と親しみを込めて呼ぶのは俺の相棒であり恋人でもある鳴上悠以外にいない。相棒に何かあったって言うなら俺に迷う選択肢なんて無い。
「なんかわかんねーけど相棒がピンチなんだろ。すぐ行く!」
俺は取るものもとりあえず、八十稲羽から電車に乗ってりせ達のいる芸能プロダクション「タクロプロ」に向かった。
詳細はわからない。でも俺に何かできることがあるなら相棒の力になりたい。
「待ってろよ…相棒!」
電車をいくつか乗り継いで、タクラプロにつく頃には日が暮れて、すっかり夜の帳が降りていた。
「相棒ッ、りせ!」
りせから指示されたレッスンスタジオに入ると、相棒、りせ、そしてダンスの先生が立ち尽くして顔を見合わせていた。スタジオ内には鳴上の課題曲が流れっぱなしになっている。こちらに気がついたりせが慌てて駆け寄ってきた。
「花村先輩!」
「一体どうしたんだ?」
りせに尋ねると、困ったように眉をハの字にし、「とりあえず見てもらえばわかると思うから…」と曲を最初からかけた。
「先輩、最初から行くよ!」
「ああ」
鳴上は大量の汗を流し、それでも凛としたたたずまいを崩さずに最初のポーズをとった。
実は練習時間の短さもあってパートナー部分の練習は一緒にしたけど、相棒のソロパートはまだ見たことがなかった。だから楽しみでついワクワクしてしまう。
だけどリズムに乗っている悠になぜだか違和感を覚えた。
「…………え?」
曲が始まって踊り出すとその違和感はますます広がった。
「なあ、これって……」
「…先輩、振り付けは完璧なの。完璧なのに…!」
りせが頭を抱えている理由がわかった。相棒は完璧な振り付けで踊っている。踊れてはいるのだ。けれどリズムに合ってない……それも初見の俺がわかるぐらい思い切り。
りせがリモコン操作して曲を中断させた。
ダンスをやめ、相棒がタオルで汗の始末をしながら苦笑いした。
「俺はこれでも完璧に合わせてるつもりなんだけどな…」
その言葉に思わず相棒を指さした。
「もしかしてお前ってリズム音痴?……や、でもお前、俺の課題曲のパートナーはバッチリ出来てたじゃねーか!」
「あれは陽介の呼吸に合わせて踊っていたんだ」
「リズム分んなくても相手の呼吸で踊れんの?逆にすげーよ!」
りせが困ったように片手で肘を支え頬杖をついた。
「うーん、鳴上先輩、私のダンスでもペアの部分はバッチリだったんだよね。ソロの部分だけなの。もっと早くに先輩の練習を見たら良かったんだけど…」
相棒が「りせのせいじゃない」と遮った。
「俺が個人練習をして、完璧にできたと過信していたのが悪かったんだ」
一緒に居合わせたダンスの先生も腕組みをして考えている。
「リズム音痴は直せる子がほとんどだけど、時間をかけてじっくり直していくものなの。方法は色々試してみたけど、この調子じゃあと一週間で治すなんてとてもじゃないけど無理ね」
「そんな…」
相棒を見るとしゅんとしている。練習の量は振り付けの完璧さを見てもわかる。なんとかできないものだろうか。
「んで、俺がどうして呼ばれたわけ?」
そう尋ねるとりせと先生がずいっと顔を近づけてきた。りせは可愛いからいいけど、先生は迫力あるおネエだから別の意味でドキッとして怖いっス…!
「「愛!」」
りせと先生の声がハモった。
「へっ……?」
「花村先輩の愛の力だよ!もうそこに賭けるしかないの」
「恋人に応援されて頑張らないオトコなんていないでしょ?ね、鳴上クン」
先生に尋ねられて相棒まで「はい」とか大きく頷いているし。つーかなんで先生まで俺たちの関係を知ってるわけ?
「んもう、アタシ、運命の人に巡り逢えたと思ったのに、やっぱりいいオトコにはお手つきがいるのよね。悔しいッ!…でもまあアナタもとってもキュートだから許してア・ゲ・ル」
オネエ言葉の先生にウインクされて思わず「ははは…」と苦笑いしちまった。どうにもこの先生は苦手だ。
どうやら相棒がこの先生に迫られて俺たちの関係を話したようだ。
「そういうわけで、先輩のことは花村先輩に任せたから」
「おいおい、任せたって…りせはどうすんだよ」
りせは苦笑いした。
「あたしは自分の新曲のダンスがまだ完璧に仕上がってないからこれから先生に見てもらうところなの。花村先輩は自分の課題曲けっこう早くにクリアしてバックダンサーの振りに専念してるでしょ。それもあってお願いしたくて」
「う…そっか」
今回はりせの芸能界復帰の応援をしたくてバックダンサーになることを了承したのだ。りせは俺たち全員のダンスを完璧に仕上げるために八十稲羽まで何度も足を運んでくれている。りせや先生の時間をこれ以上とるようなことは確かに避けたい。
「わかった。どうやったらいいか見当つかねーけど…とにかくやってみる」
「やったー!花村先輩ならそう言ってくれると思った。じゃあここのスタジオは朝まで貸し切りにしてあるから、使い終わったら受付の人に伝えてね」
そう言ってりせは「特訓中!」と書いてある張り紙をドアの前に貼って、相棒に手を振った。
「それじゃ。先輩頑張って。あとでメールするからちゃんと見てね」
「ありがとう、りせ。先生も貴重な時間を割いていただき有り難うございました」
相棒がおじぎをすると、先生は投げキッスを寄こした。
「あなたならきっと最高にクールで胸を熱くするダンスに仕上げられるわ。期待してるわよ」
りせと先生を見送ると沈黙が訪れた。俺たちはレッスン室にふたりきりになって、互いに顔を見合わせた。
「遠くから来させて悪かったな、陽介」
「相棒のピンチなら俺はいつだって駆けつけるぜ。……っつーか、なんにもなくたってお前には逢いたいから、気にすんなよ」
「ありがとう、陽介。俺も逢いたかった」
そう言ってごく自然にハグしてくるものだから、俺もうっかり背中に手を回して抱きしめ返してしまった。ダンスの練習でここ最近も会っていたけど、逢瀬と呼ぶにはとても短い時間だったから。こんな風に近い距離で話せるのも久しぶりで、ついドキドキしちまう。
すると唐突に携帯の着信音がレッスン室に鳴り響いた。
「おわ!」
思わずびくっとして体を離した。誰が見てるってわけでもないのに、なんだか急に気恥ずかしくなってきた。
相棒が「ちょっとごめん」と自分の携帯を手に取って確認しはじめた。
すると一体どんな内容だったのか、目を見開いた後、ニイッと口角を上げた。
「どした?今の音、メールだろ?」
「ああ。りせから激励のメッセージだった。…うん、やる気がみなぎってきた」
りせってアイドルだけあって人をやる気にさせるツボを心得ているよなあ。
「んじゃ頑張らないとな。俺もお前の曲の振り付けを覚えるから、とりあえずひと通り踊って見せてくれよ」
「わかった」
ダンス用の着替えを持ってこなかったので、動きやすいようにジャケットを脱ぎ、チノパンの裾をまくった。その間に鳴上が備え付けの音楽プレイヤーを操作して最初から曲をかけた。Dance!という曲は鳴上にぴったりで、つい見とれそうになる。それを我慢して、とにかく集中して振りを頭に入れた。
曲が終わると、思わず「ん~惜しいんだよなあ」と声が出てしまう。
「お前ってダンサブルじゃないんだけど、それが逆にいいっつーか。ちょっとした動きが様になっていて、音に合わせようって思ってないのがかっこいいよなあ。これでリズムに合ったらもっとすげーと思うぜ」
ペアの部分は確かにばっちり踊れていた。
「……なあ、ペアの部分は相手の呼吸を感じながら踊れるんだろ。それって相対音感ってヤツに似てないか?」
絶対音感がひとつひとつの音がなんの音がわかる能力なら、相対音感は他の音との違いをわかる能力だ。それのリズムバージョンみたいな能力を鳴上が持っているんじゃないかと仮定したら。リズムに合わせられなくても、相手と自分のリズムの違いはわかるってわけだ。
「相対音感か…たしかに」
DVDを観ながら練習しても、先生の呼吸までは感じられなかっただろう。
「だからさ、俺がお前の曲を覚えて一緒に何度か踊ってみれば、そのうちソロでも踊れるようになるんじゃね?あ、でも先生もそんな風に踊ってくれてた?」
「いや、先生は部分部分で踊って見せてくれたけど一緒には踊らなかった。なるほど…それならできそうな気がする。陽介はやっぱり頼りになるな」
そう言われて腹の底から力が湧いてきた。相棒に頼りにされると俺もやる気に満ちてくる。
「おし、早速やってみようぜ!」
「ああ」
向かい合わせになって振りつけを相棒に教えてもらいながら一緒に踊り始めた。最初は俺も振りが曖昧だしリズムもズレていた。振りつけのポイントやカウントを教えてもらってだんだん踊れるようになってくると、俺を見ながら踊っていた鳴上もリズムに乗れるようになっていく。
「そうそう、その調子!今のとこ、バッチリだぜ」
曲をリピートし、三回連続で踊ると動きが鈍くなって足がもつれそうになったので、いったん休憩を入れることにした。
「うー、さすがに疲れた…!」
床に座り込んで息を整えていると、上から声が降ってきた。
「陽介のダンス、すごく好きだな。ステップとかターンとか曲に乗って気持ちよさそうに踊ってて。くるくる変わる表情とか、ちょっとした息づかいとかも。ずっと見ていたくなる」
タオルと飲みかけのスポーツドリンクを手渡された。鳴上にそう言われると、まんざらでもない。
「へへ、結構いけてんだろ?りせの復帰のためだもんな。ばっちり決めてやりたいだろ」
「ああ、そうだな。できるだけ早く完璧に仕上げてしまおう」
「おお、やる気だな」
水分補給し、汗をタオルでぬぐって立ち上がった。細かなステップやターンのカウントがわからなかった部分を相棒にたずねたりして微調整をした。ほんと、頭の中にはしっかり振りが入ってるんだよなあ。あとは曲のリズムに乗れさえすれば。
「そういやお前とカラオケって行ったことなかったな。今度行く?リズム感を養いに、一緒に歌ってさ」
そう言うと、相棒は目元を緩ませた。
「楽しそうだな。時間があればそうしたいところだけど、今回はあと一週間だからな」
「あー、そうだよな…」
すると相棒がなにか含みのある顔で俺の髪を梳いた。
「陽介はいつまでこっちにいられる?」
「明日の昼くらいまでなら」
すると相棒は「そうか」と思考を巡らせた後、俺を見てにっこりと笑った。
「もしかしたらカラオケよりもっといい方法が見つかったかも」
「ん?」
相棒が顔を寄せてきた。
「もっと近くで感じさせてくれ。陽介のリズムを」
腰を抱き寄せられて、耳元にそう吹きこまれる。まるでそういうコトに誘われてるみたいな気分になってくる。
「あい、ぼう?」
顔を上げると思ったより近いところに相棒の顔があって、呼吸をするみたいに自然な感じでキスを交わした。
「名前、呼んで」
悠に優しい声色でねだられて、きゅうっと胸が甘く締め付けられる。つき合う前は平気で下の名前を呼んでいたけど、つき合い始めてからなんとなく気恥ずかしくなってしまって皆の前では相棒とか鳴上って呼ぶようになった。
だから二人っきりになった時、悠はしきりに俺に名前を呼ばせる。
「悠……」
そう呼ぶと、悠は嬉しそうに顔を綻ばせた。ああ、もう可愛い。好きだ。
手のひらに悠の手が重なっていて、優しく撫でられた。恋人つなぎで指を絡められて、持ち上げられた俺の手の甲にキスされた。手の甲からじわりと熱が拡がっていく。
悠がゆっくり顔を上げて、手の甲からうなじ、唇、そして瞳へと視線を移していく。視線が重なって、互いに見つめ合った。
PR
No.160|オフ活動|Comment(0)|Trackback