ラフレシ庵＋ダブルメガネ

10/4に開催される丸喜プチオンリーオンラインイベントに合わせて新刊を作りました。



同棲している主丸が自宅で痴漢プレイをする話。
渋沢→丸喜要素あり。
大学時代の丸喜が電車でモブに痴漢されたという設定です。
表紙の感じの通り深刻な話ではないです。
ストーリークリア推奨です。

2020.10.4発行/A5/28p/￥300（自家通販・イベント価格）/R18

イベント当日はpictSQUREからとらのあなにリンクという形で頻布する予定です。
事前予約はできますが、10/4以降の販売開始となります。よろしくお願いします。

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「…あ、留美ちゃんの話は禁句だったか？」
「構いませんよ。ある程度のことは知ってますし、それも丸喜を構成する大事なピースですから」
「へえ。嫉妬しないんだ」


まあ、暁君いじりは後でな。
それでも自分の研究でたくさんの人を救いたいんだと一生懸命で、いつも目を輝かせて夢を語る丸喜を見ているのが好きだからと諦めの境地で笑っていて、本当に良い子だったんだ。
俺もふたりのデートに間に合わすためによく丸喜の査読を手伝ったものだ。
丸喜の研究が教授に認められた時は俺も自分のことのように嬉しかった。
その研究を軸にした認知に関する研究所がお台場に作られるはずだった。丸喜もそこの研究員として迎えられる予定だった。
もしそこで働くようになったら、留美ちゃんと結婚するつもりだって打ち明けてくれた。
それがどうしてあんなことに。
丸喜は最初、自分がどうしようもなくて彼女にフラれちゃったと言った。俺はあんなに丸喜の好いてた子がそんなはずはないと何があったのか問いただした。
留美ちゃんの両親が強盗に殺されて……留美ちゃんもそのショックで丸喜のことを忘れてしまったって聞いた時には言葉を失ったよ。
何て慰めて良いのかわからなかった。
でも丸喜は諦めたような顔つきで言ったんだ。「彼女が辛いことを忘れて前に進むためには、僕が彼女の元から立ち去るのが一番なんだ。僕がいると家族のことも思い出してしまうから」って。
そう言われたら俺も何も言えなかった。
それだけでもショックなのに、なぜか教授は実証性がないからとか急に言い出して、一方的に研究の中止を言い渡してきた。研究所の件もナシになったんだ。
それには丸喜もショックから立ち上がれないでいた。立て続けに丸喜の前に災難が降ってきて、俺は何て慰めて良いのかわからなかった。
　個人的に研究は続けるって言っていたけど、個人でできることなんて限られている。諦めた方が丸喜のためには良いように思えた。でも留美ちゃんのように苦しんでいる人たちのためにも研究を続けたいっていう丸喜の気持ちを考えると、俺には何も言えなかった。
友達面して、何もできず、ただ傍にいるしかない自分がもどかしかった。お互いが就職したのを機に、丸喜とも会う機会もなくなってそれきりだった。


「でも、渋沢さんがカウンセラーの仕事を勧めてくれたって丸喜、言ってましたよ」
「ああ。でも、結局やめたってことは結局あいつに人生のまわり道をさせちゃったんじゃないかって思うんだ」
暁君はじっと俺の顔を見た。
「渋沢さん。もしカウンセラーをしてなかったら俺は丸喜と出会えなかったのかもしれない。それにこうして渋沢さんと俺が飲むこともなかったかもしれません」
彼の優しさが胸にしみる。
そういえば以前、丸喜も電話口で言っていた。
『カウンセラーにならなかったら透流君に出会えなかったかもしれない。渋沢には本当に感謝している』
「……ありがとう。暁君」
暁君はうん、と頷いた。丸喜はこういう懐の広いところに惹かれたんだろうか。
「俺の顔になにか？」
「いやあ、意外とモテるでしょ。暁君」
「意外って何ですか。モテますよ、俺は」
胸を張って答えるから思わず噴き出してしまった。丸喜と話す時もこういう感じなんだろうか。ふたりで会話しているところも見てみたい。
「暁君はさ、丸喜のどういうところに惹かれたの？」
暁君はうーんと小さく唸った。
「俺のことも犯罪者扱いしないで、きちんとひとりの人間として向き合ってくれる大人っていなかったから新鮮で。人のことは甘やかすくせに自分のことはどうでも良いみたいに言うし、いつも俺の感情はかき乱されて……気が付いたら好きになってました」
「……ええと、犯罪者扱いって……？」
「丸喜から聞いてなかったですか？ 俺、前科があったんです。仲間が力を尽くしてくれたおかげでそれが冤罪だったことが証明されて、取り消しにはなったんですけど」
そんな風に軽く言えるものなのか。色々辛いこともあっただろうに、そんな風に過去のものみたいに口にできるものなんだろうか。
すると、彼は俺を見て微笑んだ。
「やっぱり丸喜の友達ですね。丸喜も最初、そんな顔をして俺を見てたな」
「……何て言って良いのか、言葉が出てこないよ」
「渋沢さんが傷つく必要なんてどこにもないです。前科者ってレッテルを貼られて色々噂もされたけど、代わりにかけがえのないものを得られたから」
そう言って彼は胸をそっとおさえた。辛くても歪まずに、前を向いていけるなんて。彼の強さを感じた。
「丸喜が研究をやめたきっかけについて、何か聞きました？」
　そう言われて、丸喜がカウンセラーをやめたと電話してきた時に聞いた話を思い出した。
「ああ。現実がうまくいかないことばかりで、いつの間にか現実から逃れようとしていたってことに君が気づかせてくれたんだって言ってたよ」
「丸喜があんなに研究に固執していたのも留美さんを……大切なモノを守りたかったんだと思います。その思いがあまりに強すぎて、そのためなら自分はどうなっても構わないって姿が俺は見ていられなかったから。丸喜の努力も苦悩も知っていて、それでも諦めさせました」
俺もあんなに研究に没頭していた丸喜がやめたと言った時には驚いた。
「辛い現実もあるけど、だからこそ、それを乗り越えられた時に得られるモノは何より尊いものだと俺は思うから……俺は丸喜を説得しました。殴り合いにもなっちゃったけど」
「殴り合い……？ あいつと……？ すごいな……暁君」
俺にはできなかった。あいつが間違った道へ行こうとしているんじゃないかって思ったけれど、それを止めようとする勇気すらなかった。
たぶん研究を手伝うことで、何もできなかった贖罪がしたかっただけなんだ。
「でも丸喜が独りじゃなくて、渋沢さんみたいに心配してくれる友人がいたから良かったです」
そんな風に言われるとチクリと胸が痛む。
「そんなんじゃないよ。俺は。本人には言えないような気持ちを抱いたこともあるし……」
思わず口を滑らせてしまった。
メガネの奥の瞳が俺をみつめている。
「どういうことですか？」
問われて、息を吐いた。
「一生、誰にも言わずに墓にもっていこうと思っていたことがあるんだ。さっきの友達面してって話にもつながるんだけど……」
「俺で良かったら聞きますよ」
「そういう年に合わずそういう包容力のあるところに惹かれたのかな。…まあそれは後でアイツに聞くか」
　ずっと胸に抱えていたけど、誰にも話せなくてしんどくなっていたところだ。暁君になら懺悔できそうな気がする。
　手に持っていたグラスに口をつけ、息を吐いて心を落ち着けた。
「あれは大学３年だったと思う。偶然アイツと同じ電車に乗り合わせて、俺は隣の車両にいたんだ。満員電車で、隣の車両に続く中扉の向こう側に丸喜がいて。それで手を振ったら、あいつ、顔が赤いし、様子が変だからそっちの車両に移動しようとして。そしたら首を振るんだよ。それでよく見たら、あいつ……痴漢されてて」
暁君が目を見開き、初めて動揺を見せた。
「それで助けようと思って、ドア越しに相手の顔を見ようとしたんだ。だけどぴったり丸喜の真後ろにいてよく見えなくて。とりあえず携帯で証拠の動画を撮って様子を窺って……」
気分を紛らわせようとビールを喉に流し込み、頭をガシガシと掻いた。
「丸喜がドアに身体を押し付けられて、気持ち悪そうに顔を歪めている表情から目が離せなくて。助けたいって思っていたはずなのに、その時、俺は……」
「言いたいことはわかりました」
「それだけじゃないんだ」
ハッとなって俺が車両を移って捕まえようとしたら相手の男は逃げちゃって。で、証拠の動画を警察に突き出して、でも相手の顔もはっきり映ってないし、丸喜は大したことされてないから被害届を出さないって言って。それでその話は終わっちゃったんだ。
「手元にある証拠の動画を見ていると何かムラムラしちゃって。俺、彼女もいるし、ノーマルなはずなのにって混乱して……」
自分もあの痴漢と同じなんだろうかって悩んでいた。でも何となくその動画を消せずにいて、丸喜に対してずっと罪悪感があった。
「抜いたんですか」
真顔で、ものすごくストレートに聞かれたので、思わず顔を手で覆って、頷いた。
「なんで、あの野暮ったいヤツに俺はって、すごい謎なんだけど」
「不思議な色気がありますよね。丸喜って」
「……怒らないのか？」
顔を上げて見ると、暁君はおかしそうに笑っていた。普通は自分の恋人で抜いたなんて話、怒るんじゃないか？
「怒られたいんですか？」
「……そうかもしれない」
暁君は上を向き、やがて何か思いついたように俺を見た。
「だったら。その動画、今も持ってます？」
「え？ ああ」
自分の罪の証のような気がしてさんざん消去するか悩んだけれど、携帯電話を替える時にも消去できず、データをそのまま移してしていた。
「じゃあその動画、俺に送ってから消去してください」
「え？」
「俺の前で消去できたら、きちんと気持ちに決着がつくんじゃないですか」
確かにそうかもしれない。丸喜の恋人である暁君の前で消去できれば、自分の未練みたいなものをすっぱり断ち切ることができるのかもしれない。

◆◆◆中略◆◆◆

　元社屋ビルだったのを住居用に改装した俺たちのアパートは、深夜でほとんど灯りが消えている。
部屋に帰り着くと、灯りもつけずにベッドのある部屋の奥まで丸喜を連れていった。モルガナは今日、俺たちの帰りが遅くなるのを聞いて、ルブランに行くと言っていた。辺りを見回したが気配はない。やはり留守のようだ。
「透流君？」
丸喜を窓に押し付けて、その背後に立った。２メートルある大きな窓はロールスクリーンを上げたままだから外が良く見える。
「今から痴漢プレイをしませんか？」
「ち、痴漢プレイ……？」
「俺が丸喜の嫌な思い出を楽しいものに書き換えます」
真面目に言ったのだけど、丸喜はふっと息を吐いて笑った。
「心配しなくても僕はもう大丈夫だよ」
丸喜はそう言葉にすることで気持ちを立て直しているんだと思う。だけど心の底では受けたキズが何度も膿んでいて、痛みに対してマヒしているんじゃないだろうか。
「俺とセックスする時、背後からされるのを嫌いますよね。今までそれは正面から俺の顔が見たいからだと思っていました。でも本当は、無意識にでも痴漢のことが頭にあったんじゃないですか？」
そう指摘すると、丸喜は口を噤んだ。無言が何よりの答えだ。じっと覗っていると、やがて丸喜が息を吐いた。
「君には敵わないな……」
「どんな風に触られました？ お尻？腰？」
夏によく身に着けている丸喜のチノパンの上からお尻を触った。ビクリとお尻が震えた。
「……尻に何か当たっている感じはしたんだ。バッグか何か当たっているんだなって思っていて気にせず本を読んでいたんだ。そしたら……その。当たっていたのは勃起した性器で」
「いきなり勃たせてたのか。最悪だな、ソイツ……」
丸喜の身体にぴったりと自分の身体を密着させた。丸喜の身体が硬直したのを感じる。
「丸喜、良い匂い」
「そんなわけ……酒、飲んだし臭いでしょ」
耳元で囁いた。
「本当ですよ。甘くて…熟れたりんごみたいな酔いそうな香り。ずっと嗅いでいたくなる」
耳元で息を吸うと、くすぐったそうに「もう…君は…」と丸喜が笑ってくれた。
「それで、その後どうされたんですか？」
「……もっと密着してきて、僕が身動きができないように、身体で押してきたんだ」
「こんな感じ？」
丸喜を窓に押し付けるようにして、丸喜に股間を押し付けた。だんだん俺も丸喜の匂いに当てられて、半勃ちしてるのが自分でもわかる。
「う、うん……」
俺のが硬くなってきているのがわかったんだろう。丸喜の声にも熱が帯びてきているのを感じる。
「荒い息で、僕の匂いをかいで、今度は僕のズボンを下ろそうと手をかけてきて……慌てて後ろを振り返ったら、その人、股間を露出させていて……」
浅い呼吸でそう言うので、丸喜の髪を撫でた。
「今、丸喜にイタズラしてるのは俺ですよ」
「うん……」
顔をのぞき込むと、丸喜はほっと息を吐いた。少し虐めすぎたかも。そう思って肩越しにキスをした。
唇に優しく何度も角度を変えてキスをした。そうすると丸喜の肩から徐々に力が抜けた。
何度も淡いキスをしていると、だんだん物足りなくなってきたのか、丸喜がうっすら瞳を開け、誘うように口を開けた。

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