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ラフレシ庵+ダブルメガネ


別居しようか

2020/09/20(Sun)10:21

主花プチオンリー、P4プチオンリー開催おめでとうございます!
当日はスペースを欠席とさせていただきました。代わりにと言ってはなんですが、主花SSをUPします。



 


P4主人公(鳴上 悠)×花村陽介


◆四軒茶屋で同棲しているふたり


悠は大学院1年、陽介は社会人1年目設定


P5Rの主人公(暁 透流)が登場します


◆いきなり主花ケンカで始まるけどバッドエンドではありません


◆全年齢向け




 このところ実験が3交代制で、ラットの様子から目が離せなかったというのもある。加えて自分の論文の提出期限も迫っていて、分担している家事も必要最低限のものになっていた。とても陽介の分担を手伝う余裕まではなかった。
 洗濯を畳むのは陽介の分担だけど、リビングに置いた陽介のシャツがしわくちゃになっている。
 自分の分までやらせるのは大変かと思って自分の分だけは畳んでおいたが、陽介の分はそのままになっている。
「陽介、その服、明日着るんじゃないのか?」
「んー……」
 生返事で、陽介はテレビを見ている。
「疲れているなら早めに風呂に入って休んで、明日の朝アイロンかけたら?」
「んー……」
 俺の話を聞いているのか、聞いてないのか。何だかひとりで喋っているみたいで虚しくなってくる。
「陽介」
「聞いてるって!」
 陽介が苛立っているのがわかって、思わずため息をついた。
「俺、論文の提出が迫っていて。悪いけど手伝えないから」
「なに、それ。別に頼んでねえし」
 これ以上会話してもお互い良いことはなさそうだ。
 無言で自分のコーヒーを入れて、自室へ移動した。
「んだよ、俺の分は淹れないのか。こっちは一日働いてクタクタだってのに」
 わざと俺に聞こえるような声で文句を言われて、何だか無性に悲しくなってしてしまう。
 陽介ともう喋っていたくなくて、無言で扉を閉めた。


 俺は院に進み、ペルソナ能力を医療に生かすための研究をしている。そのかたわらで美鶴さんに頼まれてラボでアルバイトとしてペルソナ研究の手伝いもしている。
 陽介は大学卒業後、商社に就職した。
 陽介は慣れない仕事とその仕事に携わる勉強や資格の取得で毎日くたくたになっている。
 忙しいし疲れているのはわかるけど、それで俺に当たるのはやめてほしい。
「どうしたものかな……」
 陽介は朝も早いし、夜も遅くなる。
 俺も実験で家にいないことが多くて料理ができない日もあるので、できるだけまとめて作って冷蔵や冷凍にしたりするけど、疲れていると、出来合いのものについ頼ってしまう。
 陽介もそれをあまり良い気持ちがしないのだろう。買ってきたものを出すと、「ふうん」と不満そうな声を上げた。
 お互い学生だった頃はお互い忙しくてもこんな風に空気が険悪になったりしなかった。きっと社会人には社会人にしかわからない悩みがあるんだろう。その愚痴に付き合えない自分が申し訳ないと思う。
 グルグルと考えてしまって、山積みの課題はどれひとつ片付かない。
「ダメだ。……とにかく今は論文に集中しよう」
 提出期限の迫った論文を夜遅くまでまとめて、キリが良いところで切り上げて眠った。


 次の日の朝、ドタバタと物音がして目が覚めた。眠気をこらえて時計を見ると、いつもなら陽介がとっくに出勤している時間だ。
 俺を見るなり陽介は怒鳴った。
「お前、起こしてくれたって良いだろ!」
 陽介は昨日俺が指摘したシャツにアイロンがかかってないことに気が付き、「ああ、クソ!」と自分のクローゼットから使えるシャツを探している。
 せめて何か手伝えることをしようと、コーヒーとパンと目玉焼きを用意した。
「陽介、朝ごはんを作ったから、少しでも食べて」
 声をかけたが返事がないので見に行ったら、洗面台で髪をブローしていた。が、鏡を見てネクタイがシャツに合っていないことに気づいたらしく、またあわてて自分の部屋に戻ってクローゼットを探っている。
 しばらくするとそのまま玄関へ向かった。
「朝ごはん、食べないのか?」
「いらない。つか、俺の状況を察しろよ!」
 苛立っている陽介にため息をついた。仕方ない、俺がふたり分食べるか。
 すると陽介がつっかかってきた。
「何だよ、その顔。ったく、学生はお気楽で良いよな」
「……俺は自分の研究を真剣にやっている。そのことは今の話と関係ないと思う」
「はあ。もう良いよ。……やべ、もう行かないと」
 俺の言葉には耳を貸さず、腕時計で時間を見ている陽介に悲しくなった。
「……俺たち。もう一緒に住まない方が良いのかもな」
「は……? 何、言って……」
 やっと陽介が俺の方を見た。
「陽介は自分の仕事を頑張るために。俺は研究に没頭するために、別々に住んだ方がお互いのために良いんじゃないかってこと」
 これ以上は陽介も遅刻しそうだし、頭に血がのぼっている時に良い結論は出ないだろう。
「またお互い、時間がある時に話そう」
 そう伝えると、俺はダイニングに戻って自分が用意した朝ごはんを食べはじめた。
 陽介は無言で家を出て行った。

 最悪な木曜日の朝だった。




 相棒から昼頃「しばらく研究室にこもる」と素っ気ないメッセージが来た。
 腹が立った。なんだよ、それ。言うだけ言ったら俺のことは無視かよ。
 その日は仕事でミスを連発してしまい、上司から「花村、お前腹でも壊したのか」と言われた。まだ取返しのつかないようなミスじゃなかったことが不幸中の幸いだ。
 上司には愛想笑いを浮かべたが、内心では相棒に対して腹の虫がおさまらない。


 仕事を終えると、クタクタだったけど、昨日みたいなことがないようにベランダで干しっぱなしになっていた洗濯物を取り込んで、必要なものにはアイロンをかけた。
 相棒のいない部屋は静かで、テレビをつけたけれど何となく落ち着かない。
 買ってきた弁当も味気なくて、疲れもあって、そのままリビングのテーブルに突っ伏した。相棒がいなくて清々するかと思ったけれど、ただモヤモヤとした気持ちが募るだけだった。


 週末の日曜日になっても相棒は帰ってこなかった。
 もし俺たちが別々の家で住むことになったらこういう感じになるんだろうか。
「あー…考えても仕方ねえ。資格の勉強……」
 掃除担当の俺がさぼっていたから部屋は埃がたまっていて、なんだか勉強する気分になれない。
 だからといって広い部屋を掃除をするのも面倒で、気分転換を兼ねて家を出て、近所の喫茶店でやることにした。
 細い道に入ったところにあるルブランという店はたまたま学生時代に見つけた店で、コーヒーが美味しいからたまに飲みに行く。
 ドアを開けると、一緒にドアベルが鳴った。
「いらっしゃい。ああ、花村さん」
 マスターはおらず、たまにいるバイトの暁君だけだ。暁君にはこの店で相棒と待ち合わせしていた時に話しかけられて仲良くなった。
 本とノートを拡げるのでテーブル席が良かったけれど、今日は空いてないので、カウンター席に座った。
 コップに入った水とおしぼりをカウンター越しに差しだされて、すぐに注文した。
「今日もブレンドをよろしく」
「はい。鳴上さんは今日は一緒じゃないんですね」
「……ちょっとケンカしちまって」
 もしかしたら別居になるかも。そう口に出すのが怖くて、手で顔を覆った。
 コーヒーが目の前に置かれた。良い匂いが心を少しだけほぐしてくれる。
「何だか深刻そうですね。俺で良かったら話を聞きますよ。暇なんで」
「暇って……」
 確かに見回すと、他のお客には注文の品がすでに出ているし、俺にコーヒーを淹れたらやることがないんだろう。暁君も俺を見て、両手を拡げて「ごらんの有り様です」と笑っている。
 誰かに話を聞いてもらいたい気分ではあったので、俺の愚痴に付き合ってもらった。
 こっちが慣れない仕事や資格の勉強で疲れているのに、学生の相棒には俺の気持ちをわかってもらえないこと。
 ちょっとしたことで注意されると、こっちもイライラしてしまうことなど。
「ったく、小言ばっかり、俺のお母さんかよ……」
「うーん、つまりお互いに忙しくて、自分のこともままならないって感じですか?」
「そう。あっちだって余裕がないクセにいちいち口出ししてくるんだよ」
 喋る合間にコーヒーを飲むと、いつもより苦く感じる。
「だいたい、人に言うだけ言って、勝手に出てくって何だよ。こっちの話も聞かないで」
 暁君は真顔で頷いた。
「俺も身近にそういう人いますよ。自分の考えを言うだけ言って、話も聞かずに飛び出していっちゃう人」
「腹が立つよなあ?」
 彼は何とも言えない顔を浮かべた。諦めにも似たような苦笑いが何だか意味深だ。
「それで。花村さんはどうしたいんですか?」
「え?」
 暁君が顔を傾けた。
「花村さんは鳴上さんと別々に暮らしたい? それともまだ一緒に住みたい?」
「それは……」
 自分でも不思議だ。相棒に腹は立つけど、相棒と離れ離れになりたいとはちっとも考えなかった。
「鳴上さんとは一緒に暮らしたいけど、できるだけ家事の負担を減らしたい?」
「そう、それだ!」
 暁君に言われて、自分が色々なことを混同していたことに気が付いた。腹が立っていたのは仕事や家事が両立できない自分に対してで、自分の理想通りにいかないイライラを相棒にぶつけてしまっていたんだ。
 相棒に寄りかかって、甘えていた自分が恥ずかしい。
「俺は学生だから社会人の花村さんの気持ちはわからないけど。自分が忙しかった時、家事代行を頼んだことがあったので。掃除や洗濯やマッサージとか色々やってくれますよ。」
 そう言われて、目から鱗だった。
「そっか……。そういうのってぜんぶ自分達でやらなきゃって思ってた……」
 貧乏学生だった頃の生活がすっかり沁みついていた。これは金銭的に余裕がある俺が考えなくちゃいけないことだった。
 相棒は自分が手一杯な中、心配してくれたのに、俺はイライラするばかりで、目の前の何が問題なのかまったく気づかないで、苛立ちを相棒にぶつけるばかりだった。
「料理も最近は冷凍食品やレトルトでも美味しいものが多いですし、そういうのに頼るのもアリだと思いますよ」
「そうだよな。今まで手作りが当たり前って思ってたから、相棒がそういうのを使うのが何か手抜きみたいに感じていたけど……相棒も忙しい中頑張ってくれたんだよな……それなのに、俺……」
「花村さんにとって一番大事なこと。それを中心に考えていけば、きっと答えは出ると思います」
 俺にとって一番大事なこと。その言葉に、自然と相棒が思い浮かんだ。
「俺は……相棒と一緒に笑って過ごしたい」
 言葉にすると、とてもシンプルなことだった。
 仕事も家事も本当は二の次で、相棒との暮らしが一番大切なことだったのに。目の前のことに必死で本末転倒になっていた。
「ありがとう、暁君。俺、全然気が付かなくて、相棒を傷つけてばかりで。ダメだな……」
「誰だって疲れている時はまともな判断ができませんよ」
 暁君は静かに微笑んだ。まだ若いだろうに、この落ち着き、包容力はなんだろう。
 高2の特捜隊のリーダーをしていた頃の相棒にどこか似ている気がする。家事代行を頼んでいたという過去も気になるし。
 すると尻ポケットの中のスマートフォンが震えた。
 見ると、相棒からメッセージが届いている。
『やっと時間がとれた。今から家に帰るから話さないか』
 そのメッセージに、緊張が走った。どうしよう、もし正式に別居を言い渡されたら。
「もしかして鳴上さんからですか?」
「うん……」
 ちゃんと話せるだろうか。また顔を合わせたら言い合いになってしまうかも。
 スマートフォンを見つめたまま、そこから一歩も動けない。
「自分の気持ちを素直に話したら、きっと伝わりますよ。花村さんの気持ち」
 暁君の言葉に顔を上げた。
「だって二人は相棒なんでしょう?」
 その言葉にハッとした。そうだ。俺と相棒の間に築いてきた絆は簡単に壊れるほど薄っぺらいものじゃないはずだ。
 事件を解決しようと、命をかけて戦った日々。
 自分の胸を打ち明けて涙して胸を借りたこともあった。殴り合いまでした。
 相棒と同じ大学に行きたくて必死に勉強して、二人とも合格した時は一緒に喜び合った。
そうやって肩を並べて、あいつの相棒としてふさわしい自分になりたくてここまで頑張ってきたのに。
 このまま相棒を失望させたままでいたくない。
 簡単に失ってたまるか。
「ごちそうさん!」
「はい。またどうぞ」
 お金を払って、ルブランを飛び出した。


「相棒!」
 家に走って戻ると、すでに相棒が帰っていた。ダイニングの椅子に座っていて、俺が息を切らしているのにビックリしている。
「どうしたんだ? そんなに急いで……」
 相棒の顔を見て、大きく頭を下げた。
「ごめん! 俺、お前のことが一番大事なのに。お前と暮らすこの家が大好きなのに。全然お前のことを大事にできなくて、自分のこともちゃんとやれなくてイライラして八つ当たりして……。もう一度やり直させてほしい! 家事代行を頼んで、できるだけ俺も相棒も家事の負担を減らすようにする。それでお前との時間を大切にするから、だから……」
 息がきれて、胸がいっぱいで、言葉がそれ以上出てこない。
「だから……」
「陽介……?」
 胸が苦しくて、急に涙が出てきた。ぼろぼろと、頬を伝って落ちる。
「別居なんて、言わないでくれ……!」
 相棒が大きく目を見開いた。
「落ち着け、陽介。俺も家事のやり方を変えていこうと思って、その相談をしに戻ってきたんだ」
「…………へっ?」
 とにかく座ってと促されて、正面に座ると、相棒があったかいお茶を出してくれた。
 ひと口飲むと、止まらなかった涙がようやく治まった。
「研究室で頭を冷やしながら考えたんだ。別居したってそれぞれ家でやることが増えるだけで、会う時間がよけいに減っちゃって、なんの解決にもならないって。とにかく家事の負担をお互いに減らすことが大事だなって」
 相棒も同じことを考えていたんだ。少なくとも俺に愛想を尽かして別居したいって言ったわけじゃないみたいでホッとした。
「陽介にあったかいご飯をと思ってなるべく料理を頑張ってきたけど、それで研究に費やす時間が減って、結果的に陽介と過ごす時間も減ったら何の意味ないって気がついて。冷凍ものが最近増えてごめん」
「……俺、冷凍食品の時に嫌そうな顔してごめん。いつも手間暇のかかるものを心をこめて作ってくれてたのに、そのことへの感謝も忘れていた」
 そう伝えると、悠の瞳が和らいだ。


 それからふたりで家事の分担について改めて話し合った。
 少なくとも半年間は家事代行業者に週一で来てもらい、掃除や洗濯を頼むことにする。
 料理は皮むきやカットの済んだ食材を家に届けてくれるサービスを利用して、相棒が忙しくて家に帰れない時は料理も業者に頼む。
 半年後も同じ状況が続くようならそのまま継続して頼む。
 俺のボーナスが出たらお掃除ロボットや最新型の乾燥やアイロン機能のある洗濯機を購入していく。
 平日に各自のやるべきことをできるだけ済ませて、休みの日だけはふたりで過ごせるようにして、家事の分担はせずに一緒にやって、疲れた時はふたりで外食をする。ふたりでマッサージし合う。
 家事代行にかかったお金については俺が出すと言ったけど、相棒は首を横に振った。
「これを見てくれればその理由がわかると思う」
 美鶴さんのラボでやっているバイトの明細を見せられてギョッとした。
「……これ。桁、間違ってねーよな……?」
「美鶴さんの金銭感覚、おかしいよね」
それは俺の初任給を遥かに超えたバイト料で、美鶴さん曰く、たくさんのペルソナが使える貴重な人材だからという理由があるらしい。
「じゃあ、危険手当みたいなものじゃないのか」
「俺も気になったけど、実際そういう危険な仕事じゃなかったよ」
ラボで疑似的に作り出したテレビの中みたいな空間で色んなペルソナを発現させて脳波とかのデータを収集するという内容らしく、今まで危険な目に遭ったことは一度もないという。
「こんな簡単な仕事で大金をもらっているから、一生懸命働いてお金を稼いでいる陽介には言い辛くて。そんなわけでお金に関しても折半で大丈夫だから」
「ハハハ……はあ。……なんか俺、社会人だからとか色々偉そうなこと言って、すんませんでした!」
「俺も。ちゃんとした提案もできずに別居なんて言って驚かせてごめん。陽介がわかってくれると思って、つい説明を省いてしまう癖、良くないな」
 ふたりで苦笑いした。何だかこんな風に気持ちが通じ合えたのは久しぶりだ。
「俺もそうだよ。陽介」
「ん?」
「陽介と笑って過ごすことが俺にとって一番大切なことだから」
 テーブルの上に置いた俺の手を、相棒が両手で取った。
「だから、これからも俺と一緒に居てほしい」
「うん……俺も。改めて、お前がかけがえのない相棒だって気が付いたから。改めてよろしくな」
「よし、陽介。さっそく仲直りだ!」
 満面の笑みを浮かべて、相棒が椅子から立ち上がった。
「ええっと、それって……?」
 最近、ご無沙汰だったけど。もしかして。
「研究室にこもったおかげで、論文は超速で終わらせてきたし、実験も無事に終わった。というわけで今日はフリーだ。陽介は?」
 資格の勉強があるけど、それは別に今日じゃなくても良い。手に触れられたからだろうか。無性に相棒に触りたい。ぎゅっと抱きしめてほしい。
「お、俺も……」
 ぱあっと相棒の顔が輝いた。
「じゃあ手始めに一緒にお風呂に入ろうか。俺、もう3日風呂に入ってないんだ」
「そう言われてみれば……やべえよ、お前。その匂い!」
 ふたりでドタドタと支度して脱衣所にかけこんだ。


 繋いだ手のひらが、唇が、お互いに熱かった。


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No.302|主花SSComment(0)Trackback

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