魔法少女ヨウスケサンプル
2019/09/19(Thu)19:08
9/29に京都で開催するようこそベルベットルームfの新刊サンプルです。
今回は魔法少女の世界の主花です。
午前0時にあるサイトに入ると、魔法少女の世界に入れる…
その噂によって囚われた人たちを救出するため、特捜隊が立ち上がった。
その世界に入ると主人公と陽介はマスコットキャラクターと魔法少女(男)に変身していた!?大学生の付き合っている主花。女装注意です。
A5/36p/¥400(イベント価格)/R18
とらのあなで委託通販を扱っていただいてます。→★
自家通販はイベント後に開始する予定です。
本文サンプルはつづきのリンクからどうぞ。
天城屋の大部屋に集結した特捜隊メンバーたちは一台のノートパソコンの前に立ち、意を決したように頷いた。
皆、真剣な眼差しをしている。それは当然だ。これから俺たちはテレビの世界…ではなく、未知のサイトの世界に向かおうとしているのだから。
「この格好なら今日こそは入れるはずだ」
「よっしゃー、気合い入るぜ」
「その格好で真面目な顔しても………ふふ…」
緊迫した場面なのだが、天城の笑い上戸なところは相変わらずだ。だが、それは仕方ないのかもしれない。なにしろ俺と陽介と完二は動物の着ぐるみを着ている。そして里中、天城、直斗の三人はピンクや緑に赤、青と色とりどりの衣装を身にまとっているのだから。それらは魔法少女アニメのコスプレ衣装だ。ちなみにクマはいつも通りの着ぐるみ姿である。
「仕方ねーだろ。普通の格好じゃ弾かれて入れなかったんだから」
「サイトに集まるファンの思念による障壁のようなものなんでしょうね。そうじゃなかったら絶対こんな格好はしなかったです…!」
直斗が恥ずかしそうに短いスカートの裾を伸ばしてうつむいている。
「いやー、良いもんが見られてラッキーだな。な、完二」
陽介が完二の肩をたたくと、鼻血が出ている完二が照れ隠しなのかその手を払った。
「う、うっせー。直斗がイヤなら俺が代わりに着てやらあ」
「そうだな。俺たちが着ても遜色ないだろう」
「お前らの女装に対する自信、どっから来るわけ?」
すると部屋の中で電子音が鳴った。あらかじめタイマーでセットしておいた、深夜0時を知らせる音だ。
サイトのトップ画面に触れると、テレビの中に入るのと同様に、指が画面の中へと溶けた。それを見て、一同が頷いた。
「りせ、ナビは頼んだぞ」
「うん、ここからナビするから。皆、気をつけてね」
「行くぞ」
皆に声をかけて俺が入ると、続けて陽介が入った。
テレビの中のように吸い込まれるような感覚にとらわれながら、浮遊して落ちていく。
新しい魔法少女たちだ
お供のマスコットたちもいるぞ
どこかでざわめく気配がする。
だが、世界はまだはっきりと像を結ばない。
空気にのまれないよう、これまでのことを頭の中で整理した。
きっかけは桐条さんから来たテレビ電話だった。それは休日に陽介と食品の買い出しに行って帰ってきた時だった。
『鳴上。花村。君たちに助けてほしいことがある』
桐条さんの緊迫した様子に、挨拶もそこそこにふたりでリビングのテーブルの前に肩を並べて座って用件を聞いた。
『今、日本を中心に全世界で原因不明の意識不明で入院している人たちがいる』
それはどこかで聞いたような話だった。その人たちは男性が主で、年齢や職業もバラバラで、あるひとつだけ共通事項があるという。
その共通点とは魔法少女を愛する人たちが集うサイトへの来訪記録があるということだ。しかもみな、意識不明になる前までそのサイトを閲覧していたという。
『そのサイトを分析してみたが、不審な点は見つからなかった。一個人が管理し、愛好家と情報交換をしたり、好きな魔法少女について熱く討論を交わしたりする、ごく一般的な交流系サイトだ』
「魔法少女について討論をするのってわりと一般的なわけ…?」
陽介の小声でのツッコミに思わず頷いた。桐条さんには聞こえていなかったようで、彼女は続きを語った。
『だが、魔法少女の愛好家たちの間で、この頃おかしな噂が流れていたらしい』
「おかしな噂?」
『深夜0時にそのサイトを見ると、魔法少女の世界に自分も入れるという噂だ』
思わず陽介と顔を見合せた。
「それって…」
まるで俺たちが経験してきたマヨナカテレビのようではないか。
「つまり、意識不明の人たちはサイトの中に囚われになっていると?」
桐条さんが肯いた。
『私達はそう予測している。だが実際中に入ってみないことには何とも言えない。シャドウワーカーのメンバーが試しているが、今のところまだサイトの中には入れている者はいない』
サイトからシャドウ反応が検出されたらしく、桐条さんは厳しい表情をしている。
「このままだと、囚われた人たちが衰弱しちまう。もし望んでアッチに入ったんだとしても放ってはおけないな」
陽介の言葉に頷いた。
それに囚われた人たちがシャドウに襲われないとも限らない。現実世界で意識不明のまま最悪死んでしまうという可能性も否定できない。
「つまり、俺たちにその世界へ救出に行ってほしいということですね」
桐条さんは唇を噛みしめて心苦しい様子で「ああ」と頷いた。
『こんな時だけ君たちを頼りにするのは心苦しい。だが、今回はテレビの中を経験している君たちの方が適任であると思っている。すまないが原因の調査と可能であれば救出を頼めるだろうか』
陽介を見た。陽介も俺を見た。その真剣な眼差しに言葉にしなくてもわかる。気持ちは一緒だと。ふたりで頷き合った。
「俺たちにできることがあるのならやらせてください。他の皆にも声をかけてみますよ」
『恩に着るよ。こちらも全力でバックアップする』
久しぶりの特捜隊だ。俺と陽介、天城は大学生、完二も専門学校生だったため比較的都合をつけて集まりやすかったが、アイドルのりせや探偵としてあちこちから引っ張りだこの直斗、そして警察官になったばかりの里中の予定を合わせるのが最初の難関だった。
けれど困っている人がいたら助けになりたいという想いはみな同じだ。りせ達も「必ず予定を合わせる」と強い意志で応じてくれた。
それに桐条財閥からそれぞれの事務所や警察組織へ秘密裡に彼女たちの予定を最優先するようにとの要請を出してくれたようで、すんなりと全員の予定を合わせることができた。
さすがに深夜零時にフードコートに集合することはできない。そこで天城屋に女子の部屋と男子の部屋を一室ずつ借りて、男子部屋に全員集結したのだ。
次の難関はそのサイトにどうやって入るかという問題だった。
陽介と俺であらかじめ試してみたが、深夜0時にサイトに触れてみても反応はなかった。
そこで皆に意見を聞いて、雑談まじりに話し合った結果、魔法少女を好む人たちが集まるサイトなので、それっぽい格好をしたら受け入れられるんじゃないかということになったのだ。
半信半疑、ものは試しだと、女子は市販されている魔法少女の衣装、男子はその対となるマスコットキャラクターの着ぐるみを着てみた。
するとテレビに吸い込まれるように、パソコンの画面に触れると中に入ることができたのだ。
回想を終える頃にはサイトの中に風景が現れていた。
豊かな自然が溢れていて、美しい湖の真ん中にクリスタルの輝く城があるのが遠くに見える。が、ある程度地上に近づくと霧に覆われてしまい、それ以上は見ることができない。
地面に向かって落下していた。気がつけば、周囲には陽介しか見当たらない。他の皆はどこか別のところに落とされたんだろうか。
やがて地面に到着しそうだったので、着地に備えた。
しっかりと大地を踏みしめて着地しようと思った。が、気がつけば自分の足はフェルト製の簡単なつくりになっていた。
不安定な形状になってしまったので、コロコロと地面の上を転がったが、綿が詰まっているような弾力のある身体になったので、それほど痛みは感じない。体を見ると、ぬいぐるみのような二等身になっていた。
おそらく魔法少女を愛する人たちの認知により願望通りの姿になったのだろう。
「イッテー、尻が割れるぅ!」
後ろから声がして見ると、陽介が膝をついて、自分のお尻をさすっていた。
「…陽介。その服、どうしたんだ?」
「え?」
陽介は自分の格好に気づいてなかったようで、身にまとっているものを見て青ざめた。
「な、ん、だよこれー!」
陽介は立ち上がって、身につけているスカートを翻した。引き締まった細くて長い足には赤のピンヒール、引き締まった足には白のニーハイソックスを履いていて、下着が見えるか見えないかくらいの短い丈の赤いスカート、そして身体のラインを強調するような上着は白のサテン生地の着物だが、肩の部分が露出していて、陽介の長い手足を強調するような衣装だ。
可愛いお尻が見えそうで、短いスカートの裾をぎゅっと伸ばして恥ずかしそうにうつむく姿がたまらなく可愛い。
動くたび、背中の腰紐から垂れる赤いリボンがひらひらと蝶々のように舞って、巫女をイメージしたみたいな和風の衣装はどこか扇情的ですらある。
「うわ…ここ、テレビん中みたい…すっげー寒気がする…」
「ああ。たくさんの視線を感じるな」
すると天から声が降ってきた。
これはアリ
陽介ちゃん貧乳だな。お尻が可愛い。
男の娘なのがむしろ良い
口々に囁くような男達の声が聞こえる。
「どうやら陽介は魔法少女の方が似合っているとサイトを観ている人たちに判定されたようだな」
「なんかそれ、納得いかねえ!」
頬を膨らませているのもキスしたいくらい可愛い。
「まあまあ。似合っていて可愛いから」
「それ、全っ然フォローになってねえっての」
むうと唇をとがらせて、陽介が俺の首根っこを掴んできた。薄く化粧をしているらしい。目の前に迫ったプルプルと潤った唇はキスしたらどんな味がするだろうか。
「相棒はちっちゃくなっちゃったなあ」
言われた通り、俺はサイトに入る前は普通の人間サイズだったのが、着ぐるみを着て入った影響なのか、サイトに吸い込まれたとたん、手のひらサイズのぬいぐるみになっていた。ひらひらのレースがついたシャツと昔の貴族のような古めかしいデザインのブルーのジャケットを身につけている。
「こんな等身になってもお前ってカッコ良いっつーか、目力あるよな」
「ありがとう。陽介に褒められると嬉しいな」
「その異常事態に対して慣れるのが早いところ、マジですげーよ」
陽介と話していると、何だかいつもみたいな感じがしてほっとする。大切な仲間に押し上げられて、俺はリーダーとして頑張れるのだと改めて自覚する。
「これだと戦うのは難しいな。今回は陽介のサポートに徹するよ」
「頼むぜ。なんかこのコンビ、魔法少女と少女を導くマスコットキャラって感じだな」
「ああ、なるほど。そうやってサイトを見ている人に認知されたから一緒に落とされたのかもな」
小さなぬいぐるみになろうが、自分にできることを一生懸命やるだけだ。サイトの中に閉じ込められた人がいないか確認して、シャドウを倒すために知恵を絞ろう。
「りせ。聞こえるか」
何度か呼びかけたが反応はない。どうやらりせのナビはこの世界に届かないようだ。サポーターとしての役割がマスコットキャラクターである俺に移譲されているのかもしれない。
見回したが、霧がたちこめている。人の動く気配や音はしない。どうやら里中達とは別のところに飛ばされたみたいだ。
「よし、まずは他の仲間と合流をしよう」
「だな。その間にも情報収集していこうぜ」
陽介が霧の中を歩いて移動した。俺も肩に乗せてもらって陽介にしがみついて、辺りを観察した。一本道のまわりは草が生い茂っていて、目の前には暗い廃墟のような城が見える。他は霧に覆われていて下手に道から逸れると迷いそうだ。どうやら道なりに進んでいくしかなさそうだ。
方角もさきほど上空で見たクリスタルの城に向かっているようだし、このまま進んでいくのが正しいのだと思う。
「どうする? この城の中、散策してみるか?」
「そうだな。武器になるものが見つかるかもしれない」
「やっぱ丸腰だと不安だよな」
そういえば、この世界ではペルソナは使えるんだろうか。城に入る前に陽介に止まってもらって、確認した。
「イザナギ」
心の内に呼びかけると、イザナギが声に応じたのを感じる。が、手のひらにアルカナのカードは現れない。
「俺もやってみる。スサノオ」
陽介がやってみてもペルソナは現れない。
「ううん? 反応はあるんだけどなあ」
「ああ。どうやらこの世界では力の使い方が違うようだ」
アイドルを好む人たちの世界ではダンスがシャドウの心を響かせた。それならば、魔法少女の世界では何がシャドウを倒す武器となるだろうか。
「とりあえず、中に入ってみよう。なんかヒントが見つかるかもしんねーし」
「そうだな」
陽介の提案に頷いた。軋んだ音をたてる大きなドアを陽介が開け、暗い屋内に入った。崩れ落ちそうなシャンデリアは灯りなどつきそうもない。目の前に赤い絨毯が敷かれた螺旋階段がある。肖像画が飾られているが、それが鋭い爪で切り裂かれたような跡がある。
「やべえ感じがすんな…」
「ああ」
玄関ホールに武器になりそうなものはなく、螺旋階段を上がろうか、それとも左右にあるドアを入ろうかという時だった。
入ってきた玄関の扉が突然締まった。慌てて陽介が扉を確認した。押したり引いたりしてもビクともしない。
「閉じ込められたか…」
「どうする、相棒」
こうなったら前に進むしかないだろう。俺が視線を投げかけると、陽介も頷いた。
「招待にあずかるとするか」
「おう! 気合い入れていくぜ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 中略 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「へへっ。それ、気分が良いな」
嬉しそうにはにかんでくれた。愛おしさが募って、その頬にキスをした。陽介が顔を赤くして、やわらかく微笑んでくれた。
と、その時だった。
突然空に暗雲がたちこめて、雷が光った。
地雷だ
マスコットキャラクターといえど、魔法少女に手を出す者はゆるさん
マスコットは無性別、もしくは女子に限る!
何か良くない風向きだ。口々に怒号が飛び交っている。
と同時に、他の声がした。
いや待て、これは百合じゃないか。マスコットの性別がどうであれ、この仲良し感は百合みを感じないか?
たしかに。キャッキャウフフしている姿は微笑ましい
そもそも陽介ちゃんは男の娘なんだし、360度まわってこれは百合
何だろう、意見が迷走している感じだ。
ここは最後まで様子を伺ってから判定すべきじゃないか?
そのひと言に、たしかに最後まで知らずに批判はできないなと頷いている声がいくつも聞こえる。
「最後までって………?」
「最後までとは………」
俺と陽介は顔を見合わせて、やがて同じ結論に達した。言葉にしなくても目と目を合わせればわかる。
「いやいやいや、ナニ言ってんの! 俺らはここにシャドウを倒しに来て、ほら、救出する人たちもいるわけで、」
「気持ちはわかる。だが、これは早道かもしれないぞ」
「早道ぃ?」
「俺たちが最後まですることで、このサイトに訪れた人たちは満足して元の場所に帰ってくれるかもしれない。そうすれば、ここのシャドウたちの力も弱まって、倒しやすくなるんじゃないか」
陽介は自分の身体を両手で掴んだ。
「で、でも…」
その身体が震えている。陽介のあられもない姿を男達に見せるのは俺だって抵抗がある。
けれどこのまま同じように敵と戦っていって、果たして囚われた人たちは元の世界に戻りたいと思うだろうか。原因となるシャドウを倒し、かつ何かショックなことでも起こらないと難しい気がする。
「ここは思念の集合体みたいな場所だ。おそらく元の世界に戻れば、囚われていた人たちは夢だと思って忘れてくれるはずだ」
過去にも似たような体験をしたことがあるから大丈夫という確信はある。
「相棒だってその身体だし…」
確かにぬいぐるみの姿では陽介を抱くことができない。だが、今までの体験でそれは解決できると確信している。
たとえば魔法少女の世界の法則を崩さなければペルソナを使役できた。
そしてアリスが教えてくれた意味深な言葉。それがどういうことか、今ならわかる。
「乙女の聖なる口づけがあれば王子様はよみがえることができる。魔法少女の世界ではそれがきっと自然の摂理なんだろう」
逡巡する陽介を見守っていると、陽介は頬を紅潮させて、俺を強い眼差しで見た。
「乙女じゃねえし…色んなイミで」
ひそやかな声とともに、陽介が意を決したように顔を近づけ、俺の唇にキスをしてくれた。
今回は魔法少女の世界の主花です。
午前0時にあるサイトに入ると、魔法少女の世界に入れる…
その噂によって囚われた人たちを救出するため、特捜隊が立ち上がった。
その世界に入ると主人公と陽介はマスコットキャラクターと魔法少女(男)に変身していた!?大学生の付き合っている主花。女装注意です。
A5/36p/¥400(イベント価格)/R18
とらのあなで委託通販を扱っていただいてます。→★
自家通販はイベント後に開始する予定です。
本文サンプルはつづきのリンクからどうぞ。
天城屋の大部屋に集結した特捜隊メンバーたちは一台のノートパソコンの前に立ち、意を決したように頷いた。
皆、真剣な眼差しをしている。それは当然だ。これから俺たちはテレビの世界…ではなく、未知のサイトの世界に向かおうとしているのだから。
「この格好なら今日こそは入れるはずだ」
「よっしゃー、気合い入るぜ」
「その格好で真面目な顔しても………ふふ…」
緊迫した場面なのだが、天城の笑い上戸なところは相変わらずだ。だが、それは仕方ないのかもしれない。なにしろ俺と陽介と完二は動物の着ぐるみを着ている。そして里中、天城、直斗の三人はピンクや緑に赤、青と色とりどりの衣装を身にまとっているのだから。それらは魔法少女アニメのコスプレ衣装だ。ちなみにクマはいつも通りの着ぐるみ姿である。
「仕方ねーだろ。普通の格好じゃ弾かれて入れなかったんだから」
「サイトに集まるファンの思念による障壁のようなものなんでしょうね。そうじゃなかったら絶対こんな格好はしなかったです…!」
直斗が恥ずかしそうに短いスカートの裾を伸ばしてうつむいている。
「いやー、良いもんが見られてラッキーだな。な、完二」
陽介が完二の肩をたたくと、鼻血が出ている完二が照れ隠しなのかその手を払った。
「う、うっせー。直斗がイヤなら俺が代わりに着てやらあ」
「そうだな。俺たちが着ても遜色ないだろう」
「お前らの女装に対する自信、どっから来るわけ?」
すると部屋の中で電子音が鳴った。あらかじめタイマーでセットしておいた、深夜0時を知らせる音だ。
サイトのトップ画面に触れると、テレビの中に入るのと同様に、指が画面の中へと溶けた。それを見て、一同が頷いた。
「りせ、ナビは頼んだぞ」
「うん、ここからナビするから。皆、気をつけてね」
「行くぞ」
皆に声をかけて俺が入ると、続けて陽介が入った。
テレビの中のように吸い込まれるような感覚にとらわれながら、浮遊して落ちていく。
新しい魔法少女たちだ
お供のマスコットたちもいるぞ
どこかでざわめく気配がする。
だが、世界はまだはっきりと像を結ばない。
空気にのまれないよう、これまでのことを頭の中で整理した。
きっかけは桐条さんから来たテレビ電話だった。それは休日に陽介と食品の買い出しに行って帰ってきた時だった。
『鳴上。花村。君たちに助けてほしいことがある』
桐条さんの緊迫した様子に、挨拶もそこそこにふたりでリビングのテーブルの前に肩を並べて座って用件を聞いた。
『今、日本を中心に全世界で原因不明の意識不明で入院している人たちがいる』
それはどこかで聞いたような話だった。その人たちは男性が主で、年齢や職業もバラバラで、あるひとつだけ共通事項があるという。
その共通点とは魔法少女を愛する人たちが集うサイトへの来訪記録があるということだ。しかもみな、意識不明になる前までそのサイトを閲覧していたという。
『そのサイトを分析してみたが、不審な点は見つからなかった。一個人が管理し、愛好家と情報交換をしたり、好きな魔法少女について熱く討論を交わしたりする、ごく一般的な交流系サイトだ』
「魔法少女について討論をするのってわりと一般的なわけ…?」
陽介の小声でのツッコミに思わず頷いた。桐条さんには聞こえていなかったようで、彼女は続きを語った。
『だが、魔法少女の愛好家たちの間で、この頃おかしな噂が流れていたらしい』
「おかしな噂?」
『深夜0時にそのサイトを見ると、魔法少女の世界に自分も入れるという噂だ』
思わず陽介と顔を見合せた。
「それって…」
まるで俺たちが経験してきたマヨナカテレビのようではないか。
「つまり、意識不明の人たちはサイトの中に囚われになっていると?」
桐条さんが肯いた。
『私達はそう予測している。だが実際中に入ってみないことには何とも言えない。シャドウワーカーのメンバーが試しているが、今のところまだサイトの中には入れている者はいない』
サイトからシャドウ反応が検出されたらしく、桐条さんは厳しい表情をしている。
「このままだと、囚われた人たちが衰弱しちまう。もし望んでアッチに入ったんだとしても放ってはおけないな」
陽介の言葉に頷いた。
それに囚われた人たちがシャドウに襲われないとも限らない。現実世界で意識不明のまま最悪死んでしまうという可能性も否定できない。
「つまり、俺たちにその世界へ救出に行ってほしいということですね」
桐条さんは唇を噛みしめて心苦しい様子で「ああ」と頷いた。
『こんな時だけ君たちを頼りにするのは心苦しい。だが、今回はテレビの中を経験している君たちの方が適任であると思っている。すまないが原因の調査と可能であれば救出を頼めるだろうか』
陽介を見た。陽介も俺を見た。その真剣な眼差しに言葉にしなくてもわかる。気持ちは一緒だと。ふたりで頷き合った。
「俺たちにできることがあるのならやらせてください。他の皆にも声をかけてみますよ」
『恩に着るよ。こちらも全力でバックアップする』
久しぶりの特捜隊だ。俺と陽介、天城は大学生、完二も専門学校生だったため比較的都合をつけて集まりやすかったが、アイドルのりせや探偵としてあちこちから引っ張りだこの直斗、そして警察官になったばかりの里中の予定を合わせるのが最初の難関だった。
けれど困っている人がいたら助けになりたいという想いはみな同じだ。りせ達も「必ず予定を合わせる」と強い意志で応じてくれた。
それに桐条財閥からそれぞれの事務所や警察組織へ秘密裡に彼女たちの予定を最優先するようにとの要請を出してくれたようで、すんなりと全員の予定を合わせることができた。
さすがに深夜零時にフードコートに集合することはできない。そこで天城屋に女子の部屋と男子の部屋を一室ずつ借りて、男子部屋に全員集結したのだ。
次の難関はそのサイトにどうやって入るかという問題だった。
陽介と俺であらかじめ試してみたが、深夜0時にサイトに触れてみても反応はなかった。
そこで皆に意見を聞いて、雑談まじりに話し合った結果、魔法少女を好む人たちが集まるサイトなので、それっぽい格好をしたら受け入れられるんじゃないかということになったのだ。
半信半疑、ものは試しだと、女子は市販されている魔法少女の衣装、男子はその対となるマスコットキャラクターの着ぐるみを着てみた。
するとテレビに吸い込まれるように、パソコンの画面に触れると中に入ることができたのだ。
回想を終える頃にはサイトの中に風景が現れていた。
豊かな自然が溢れていて、美しい湖の真ん中にクリスタルの輝く城があるのが遠くに見える。が、ある程度地上に近づくと霧に覆われてしまい、それ以上は見ることができない。
地面に向かって落下していた。気がつけば、周囲には陽介しか見当たらない。他の皆はどこか別のところに落とされたんだろうか。
やがて地面に到着しそうだったので、着地に備えた。
しっかりと大地を踏みしめて着地しようと思った。が、気がつけば自分の足はフェルト製の簡単なつくりになっていた。
不安定な形状になってしまったので、コロコロと地面の上を転がったが、綿が詰まっているような弾力のある身体になったので、それほど痛みは感じない。体を見ると、ぬいぐるみのような二等身になっていた。
おそらく魔法少女を愛する人たちの認知により願望通りの姿になったのだろう。
「イッテー、尻が割れるぅ!」
後ろから声がして見ると、陽介が膝をついて、自分のお尻をさすっていた。
「…陽介。その服、どうしたんだ?」
「え?」
陽介は自分の格好に気づいてなかったようで、身にまとっているものを見て青ざめた。
「な、ん、だよこれー!」
陽介は立ち上がって、身につけているスカートを翻した。引き締まった細くて長い足には赤のピンヒール、引き締まった足には白のニーハイソックスを履いていて、下着が見えるか見えないかくらいの短い丈の赤いスカート、そして身体のラインを強調するような上着は白のサテン生地の着物だが、肩の部分が露出していて、陽介の長い手足を強調するような衣装だ。
可愛いお尻が見えそうで、短いスカートの裾をぎゅっと伸ばして恥ずかしそうにうつむく姿がたまらなく可愛い。
動くたび、背中の腰紐から垂れる赤いリボンがひらひらと蝶々のように舞って、巫女をイメージしたみたいな和風の衣装はどこか扇情的ですらある。
「うわ…ここ、テレビん中みたい…すっげー寒気がする…」
「ああ。たくさんの視線を感じるな」
すると天から声が降ってきた。
これはアリ
陽介ちゃん貧乳だな。お尻が可愛い。
男の娘なのがむしろ良い
口々に囁くような男達の声が聞こえる。
「どうやら陽介は魔法少女の方が似合っているとサイトを観ている人たちに判定されたようだな」
「なんかそれ、納得いかねえ!」
頬を膨らませているのもキスしたいくらい可愛い。
「まあまあ。似合っていて可愛いから」
「それ、全っ然フォローになってねえっての」
むうと唇をとがらせて、陽介が俺の首根っこを掴んできた。薄く化粧をしているらしい。目の前に迫ったプルプルと潤った唇はキスしたらどんな味がするだろうか。
「相棒はちっちゃくなっちゃったなあ」
言われた通り、俺はサイトに入る前は普通の人間サイズだったのが、着ぐるみを着て入った影響なのか、サイトに吸い込まれたとたん、手のひらサイズのぬいぐるみになっていた。ひらひらのレースがついたシャツと昔の貴族のような古めかしいデザインのブルーのジャケットを身につけている。
「こんな等身になってもお前ってカッコ良いっつーか、目力あるよな」
「ありがとう。陽介に褒められると嬉しいな」
「その異常事態に対して慣れるのが早いところ、マジですげーよ」
陽介と話していると、何だかいつもみたいな感じがしてほっとする。大切な仲間に押し上げられて、俺はリーダーとして頑張れるのだと改めて自覚する。
「これだと戦うのは難しいな。今回は陽介のサポートに徹するよ」
「頼むぜ。なんかこのコンビ、魔法少女と少女を導くマスコットキャラって感じだな」
「ああ、なるほど。そうやってサイトを見ている人に認知されたから一緒に落とされたのかもな」
小さなぬいぐるみになろうが、自分にできることを一生懸命やるだけだ。サイトの中に閉じ込められた人がいないか確認して、シャドウを倒すために知恵を絞ろう。
「りせ。聞こえるか」
何度か呼びかけたが反応はない。どうやらりせのナビはこの世界に届かないようだ。サポーターとしての役割がマスコットキャラクターである俺に移譲されているのかもしれない。
見回したが、霧がたちこめている。人の動く気配や音はしない。どうやら里中達とは別のところに飛ばされたみたいだ。
「よし、まずは他の仲間と合流をしよう」
「だな。その間にも情報収集していこうぜ」
陽介が霧の中を歩いて移動した。俺も肩に乗せてもらって陽介にしがみついて、辺りを観察した。一本道のまわりは草が生い茂っていて、目の前には暗い廃墟のような城が見える。他は霧に覆われていて下手に道から逸れると迷いそうだ。どうやら道なりに進んでいくしかなさそうだ。
方角もさきほど上空で見たクリスタルの城に向かっているようだし、このまま進んでいくのが正しいのだと思う。
「どうする? この城の中、散策してみるか?」
「そうだな。武器になるものが見つかるかもしれない」
「やっぱ丸腰だと不安だよな」
そういえば、この世界ではペルソナは使えるんだろうか。城に入る前に陽介に止まってもらって、確認した。
「イザナギ」
心の内に呼びかけると、イザナギが声に応じたのを感じる。が、手のひらにアルカナのカードは現れない。
「俺もやってみる。スサノオ」
陽介がやってみてもペルソナは現れない。
「ううん? 反応はあるんだけどなあ」
「ああ。どうやらこの世界では力の使い方が違うようだ」
アイドルを好む人たちの世界ではダンスがシャドウの心を響かせた。それならば、魔法少女の世界では何がシャドウを倒す武器となるだろうか。
「とりあえず、中に入ってみよう。なんかヒントが見つかるかもしんねーし」
「そうだな」
陽介の提案に頷いた。軋んだ音をたてる大きなドアを陽介が開け、暗い屋内に入った。崩れ落ちそうなシャンデリアは灯りなどつきそうもない。目の前に赤い絨毯が敷かれた螺旋階段がある。肖像画が飾られているが、それが鋭い爪で切り裂かれたような跡がある。
「やべえ感じがすんな…」
「ああ」
玄関ホールに武器になりそうなものはなく、螺旋階段を上がろうか、それとも左右にあるドアを入ろうかという時だった。
入ってきた玄関の扉が突然締まった。慌てて陽介が扉を確認した。押したり引いたりしてもビクともしない。
「閉じ込められたか…」
「どうする、相棒」
こうなったら前に進むしかないだろう。俺が視線を投げかけると、陽介も頷いた。
「招待にあずかるとするか」
「おう! 気合い入れていくぜ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 中略 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「へへっ。それ、気分が良いな」
嬉しそうにはにかんでくれた。愛おしさが募って、その頬にキスをした。陽介が顔を赤くして、やわらかく微笑んでくれた。
と、その時だった。
突然空に暗雲がたちこめて、雷が光った。
地雷だ
マスコットキャラクターといえど、魔法少女に手を出す者はゆるさん
マスコットは無性別、もしくは女子に限る!
何か良くない風向きだ。口々に怒号が飛び交っている。
と同時に、他の声がした。
いや待て、これは百合じゃないか。マスコットの性別がどうであれ、この仲良し感は百合みを感じないか?
たしかに。キャッキャウフフしている姿は微笑ましい
そもそも陽介ちゃんは男の娘なんだし、360度まわってこれは百合
何だろう、意見が迷走している感じだ。
ここは最後まで様子を伺ってから判定すべきじゃないか?
そのひと言に、たしかに最後まで知らずに批判はできないなと頷いている声がいくつも聞こえる。
「最後までって………?」
「最後までとは………」
俺と陽介は顔を見合わせて、やがて同じ結論に達した。言葉にしなくても目と目を合わせればわかる。
「いやいやいや、ナニ言ってんの! 俺らはここにシャドウを倒しに来て、ほら、救出する人たちもいるわけで、」
「気持ちはわかる。だが、これは早道かもしれないぞ」
「早道ぃ?」
「俺たちが最後まですることで、このサイトに訪れた人たちは満足して元の場所に帰ってくれるかもしれない。そうすれば、ここのシャドウたちの力も弱まって、倒しやすくなるんじゃないか」
陽介は自分の身体を両手で掴んだ。
「で、でも…」
その身体が震えている。陽介のあられもない姿を男達に見せるのは俺だって抵抗がある。
けれどこのまま同じように敵と戦っていって、果たして囚われた人たちは元の世界に戻りたいと思うだろうか。原因となるシャドウを倒し、かつ何かショックなことでも起こらないと難しい気がする。
「ここは思念の集合体みたいな場所だ。おそらく元の世界に戻れば、囚われていた人たちは夢だと思って忘れてくれるはずだ」
過去にも似たような体験をしたことがあるから大丈夫という確信はある。
「相棒だってその身体だし…」
確かにぬいぐるみの姿では陽介を抱くことができない。だが、今までの体験でそれは解決できると確信している。
たとえば魔法少女の世界の法則を崩さなければペルソナを使役できた。
そしてアリスが教えてくれた意味深な言葉。それがどういうことか、今ならわかる。
「乙女の聖なる口づけがあれば王子様はよみがえることができる。魔法少女の世界ではそれがきっと自然の摂理なんだろう」
逡巡する陽介を見守っていると、陽介は頬を紅潮させて、俺を強い眼差しで見た。
「乙女じゃねえし…色んなイミで」
ひそやかな声とともに、陽介が意を決したように顔を近づけ、俺の唇にキスをしてくれた。
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No.281|オフ活動|Comment(0)|Trackback