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ラフレシ庵+ダブルメガネ


【主丸SS】口寂しくなったら

2020/08/16(Sun)18:16


ろくろてんてーのタバコを吸う善吉と丸喜先生イラストに萌え剥げたので書いた善吉+主丸SS
主人公名(暁 透流)
前半の善吉パートは一体何のために…って感じになってしまいましたw


「…あ」
「どうも」
 企業でのカウンセリングの帰りに、渋谷のスクランブル交差点近くにある喫煙スペースの吸い殻入れの横に立った時のことだ。見知らぬ人が同時にその向こう側に立ったので、思わず会釈した。
 吸い殻入れの向こう側に立った男性は黒スーツを身に纏っているのに長髪と顎髭。一体どういう職業なのだろうか。
 とりあえず自分の目的を果たそうとタバコに火をつけてくゆらせる。
 肺の中に取り込んだ煙を吐き出すと、自分の中に溜まったモヤモヤまで空へ飛んでいく気がする。
 そしてちょうど良い高さのコンクリートの上に腰かける。
見ると、彼も腰かけて、タバコを咥えたままスマートフォンを見ながら苦悶の表情を浮かべている。何かトラブルだろうか。
 するとこちらの視線に気がついたのか、彼が僕を見た。なので好奇心につられて話しかけてみた。
「最近こういうスペースもめっきり減りましたよね」
「ああ。愛煙家にはたまったもんじゃない。これも世の流れってやつかね」
 そう言って、煙を吐き出した彼は頭を抱えた。
「あの、何か困りごとですか?」
「いやあ…年頃の娘が難しくて。何て返しても怒るしキレるし」
 僕の力が必要な類の悩みじゃなくて良かった。きっと時間が解決してくれる問題だ。
「ああ。娘さん想いなんですね」
 そう伝えると、彼は何とも言えない複雑な表情を浮かべた。
「…どうかな」
 遠くを見つめるような目をして、その訳は少なくとも初対面の人に話すようなことじゃない気がした。
 すると、彼のスマートフォンが鳴った。そのディスプレイを見て、彼はすくっと立ち上がり、吸いかけのタバコを吸い殻入れに押し付けた。
「どうした? いや、こっちは東京で…いや、そうじゃなくて。仕事だって」
 こちらを一瞥し、視線で別れを告げられた。そのまま彼は雑踏の中へと消えていった。残されたのは吸い殻入れから立ち上る煙のみ。
 娘さんとの関係がうまくいくと良いな。そう思いながら煙を吐き出した。
「丸喜…?」
 声をかけられて見ると、目の前に暁君が立っている。夏休みだし買い物に来たんだろうか。今日はひとりのようだ。
「やあ、暁君。こんな所で会うなんて奇遇だねえ」
「通りがかったら丸喜の声が聞こえたんで…」
 いつも保健室で会っているから街の中で会うなんて新鮮な気分だ。そう言えばタバコを吸っているところを見られたのも初めてだ。
 タバコを揉み消して吸い殻入れに入れた。振り返ると彼は呆然と口を開けて僕を見ている。
「…タバコ、吸うんだ。なんか意外です」
「ああ。たまにね。臭かったらごめんね」
 すると彼は僕に歩み寄り、顔を胸に近づけてスンスンと鼻を吸った。タバコを吸わない人にとってはあまり良い匂いじゃないだろうし、副流煙は体にも良くない。なのに嗅がれるのはなんだか罪悪感めいたものがある。
「えーと?」
 顔を上げた彼は複雑な表情を浮かべている。
「…俺も早く吸えるようになりたい」
「えぇ? タバコなんて害しかないよ」
「じゃあ何で吸うんですか」
 返す言葉が見つからない。たまに食べたくなるジャンクフード。飲みたくなる酒。そういう嗜好品の類だ。あまり彼には真似ほしくないのだけれど。
「うーん…口寂しいから、かな」
 そう答えると、彼はなぜだか大きく目を見開いた。そして僕の手を取った。その手が熱い。
「えっ、どうしたの?」
 彼は無言で駅の反対側に向かって僕を引っ張った。
 坂を上がって道を曲がり、やがて、人気のない路地裏まで来ると、くるりと軽快な仕草で振り返った。その無駄のない動きに見とれていると、彼が僕のネクタイを引っ張った。
「うんんっ?」
 強引に奪われた口づけ。腰を抱き寄せて、何度も押し付けてくる唇、眉を寄せ、拗ねたように眉を上げて見上げてくる熱っぽい瞳。それらに愛しさがこみあげてくる。
 たまらず僕も手を伸ばし、彼の背中に触れて抱きしめながら口付けを返す。
 路地裏とは言え、いつ人が来てもおかしくない。そんな中でキスをするのは何だかドキドキする。
 何度も唇を重ね合わせ、頭がぼうっとしてきたところで、彼がはあっとため息のような声を漏らした。
「こういう味なんだ…」
 自分がタバコを口にしていたばかりだったと思い出して、ハッとした。
「ご、ごめん! 僕、タバコ、吸ったばかりなのに…!」
 慌ててハンカチを取り出して、彼の口を拭こうとしたら、手で遮られてしまった。
「お水買ってくるから、それで口、ゆすいで!ちょっとここで待ってて、」
 彼の身体を離して、近くのコンビニに行こうとすると、後ろから抱きつかれた。身動きが出来なくて立ち止まると、耳元に囁かれた。
「口寂しくなったら…いつでも俺のところに来てください」
 高校生とは思えないその誘い文句にゾクゾクした。ようやくキスの意味を理解し、彼を振り返る。
 ああ、タバコに嫉妬したんだ。そして僕がタバコを吸う動機を的確に理解している。
 抗いがたい誘惑に、満たされたばかりの唇がまた疼きを覚える。
「まったく君は……」
 僕の表情を見て満足したように、彼は微笑んで自らの唇を長い舌でペロリと舐めた。




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