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ラフレシ庵+ダブルメガネ


【主丸SS】バレンタインのキスは甘く

2025/02/14(Fri)22:32

バレンタインイベントで丸喜とデートできなかったのがゲームのバグすぎて書きました。
主人公(暁 透流)とモルガナと丸喜が一緒に暮らしている設定です。

つづきリンクをクリックすると本文です。




『まだ間に合う! バレンタインデー当日でも作れる簡単チョコスイーツレシピをご紹介します』

 朝食をとりながら情報番組を何となく見ていた時だった。
 横でトーストをかじっていた透流君が言った。
「今日はバレンタインデーですし、せっかくだから外でディナーしませんか?」
 そう誘われて頷いた。
「うん、いいよ。いつもご飯作るのは大変だろうしね。どこで食べようか?」
「俺が良い店を知っているんで。たまには外で待ち合わせてデートしましょう。丸喜の仕事が終わるの何時頃ですか?」
 定時の時間を伝えると「わかりました。店の予約をしておきます」と透流君が眼鏡を指で押し上げた。なんだかほのかにやる気を感じるような笑顔だった。
 モルガナ君はどうするかと尋ねたけれど、「おいおいヤボなことを言わすなって。ま、土産にウマいもんでも頼むぜ」言われてしまったので「デパ地下で何かモルガナ君が好きそうなものを買って帰るよ」と約束した。


 その日の夕方、仕事を営業所の事務員さんたちに挨拶して帰ろうとすると、その中のご年配の女性から「丸喜さん、これ良かったら」と小声で小さなものを手渡された。見るとそれは手のひらサイズのチョコレートだった。包み紙がキラキラして外国製みたいだ。
「わあ。いいんですか? ありがとうございます」
「いつも丸喜さんの笑顔に癒されてるからね」
 大したものじゃないけどと事務員さんは謙遜して笑顔を見せた。以前バレンタインのチョコレート売り場を通りがかるとチョコレート一粒がこんなに高いのかと驚いたことがある。それにたくさんある商品の中から選ぶのもきっと大変だっただろう。
「大事にいただきますね。それじゃ、お先に失礼します」


 電車に乗って、透流君と待ち合わせしている駅前まで向かう。電車に乗っていても女子高校生たちが「渡せた」とか「渡せなかったよー!」とか悲喜交々の様子を見せている。
 バレンタインデーって女性が楽しそうにしているイベントだなあと思わず笑みが浮かぶ。
 そういえば昔、留美にチョコレートをもらったことがあったな。あれは付き合う前だっただろうか。
『お返しの相場は3倍だからね。楽しみにしてる!』
 そう笑顔で渡されてお返しに困ってしまったんだっけ。結局彼女が行きたいところへ僕のおごりでお出かけするってことになったのも彼女の提案だった。いつも頼りない僕をなにかとリードしてくれたな。
 元気にしてくれたら良いな。彼女が幸せだったら。笑顔でいられるなら。僕が言うことは何もない。
 僕が自分の手で幸せにしたいと思うひとは今、別にいるのだし。


 僕を悲しみからすくい上げてくれた。どんなに雨が降っても、どんなに真っ暗闇でも輝きを失わない。その強さとしなやかさに憧れた。傍にいたい。
 彼に逢いたい。そう強く想った。


 目的の駅に着くと、連絡のあった待ち合わせスポットへ向かった。
 オブジェがあるところに行くとたくさんの人たちがいる。その中でも不思議と透流君だけが浮かび上がってすぐに見つけることができた。黒を基調にしたいつもよりフォーマルな服を身に着けている。
「透流君。待たせちゃったかな?」
 声をかけるとスマホを見ていた透流君が顔を上げて目を細めた。
「丸喜。仕事お疲れ様。俺も今来たところだ」
 そうは言っているけど、鼻の頭がすこし赤い。かなり待ったんじゃないだろうか。彼の両方の冷たくなった頬に自分の手のひらを押し当てて温める。
 透流くんはふわりと微笑んだ。いつもはポーカーフェイスだけど、こういうたまに見せてくれる笑顔がいいなあ。年相応の青年らしい素が見えて好きだなあと思う。
「歩いてすぐそこのビルの中にあるレストランです。行きましょう」
「うん」
 手を差し出されて自然とそのまま恋人繋ぎをした。仕事帰りに外で彼と逢うなんて久しぶりだ。
「一緒に住んでるからかな。外で待ち合わせをして行くのって何だか新鮮だね!」
「うん。たまには恋人気分を丸喜に思い出してほしくて」
「ええ。僕だけ?」
「はい。俺はいつでも恋人気分なんで」
 僕だってそうだよと言い返したけど「丸喜は付き合う前と今、全然変わらない」とツンとすました顔で彼に言われてしまい、思わず肩をすくめた。


「いらっしゃいませ」
「予約の暁です」
「お待ちしておりました。コートはお預かりいたします。どうぞこちらへ」
 彼が連れていってくれた店は夜景の見える素敵なレストランだった。
「わあ。夜景が綺麗だね! あ、もしかしてドレスコードとかあった?」
 きょろきょろと見渡すが、それぞれの席がボックスになっていて、こちら側からは他のお客さんの姿が見えない。
「ドレスコードはないのでカジュアルな格好でも大丈夫ですよ」
 透流君は僕に「奥の席をどうぞ」と促してくれた。ふたりで並びながら夜景を楽しみながら食事できる席だ。なんだかワクワクする。
「素敵なお店だね」
「はい。食事も美味しいですよ。お酒、頼みます?」
「えっと。じゃあワインを」
 メニューを一緒に見ながら慣れた様子だから誰かと来たことがあるんだろうかとふと気になった。けれど、そういうことを聞き出すのはマナーが悪いし彼に良い印象を与えないだろうからあえて聞かないことにした。
 メニューを見ても横文字だらけで肉とか魚以外の料理名以外の細かいことがわからない。
「メインは肉料理にします。丸喜は?」
「僕はじゃあ魚にしようかな」
「わかりました」
 ウエイターに視線を向けると、すぐにやってきてオーダーを聞き取る。
「肉と魚それぞれでおおすすめはどれですか?」
「こちらとこちらになります。肉は……」
 店員が説明してくれて、頷いた透流君は自分のオーダーをする。
「丸喜は仕事で疲れているだろうし、さっぱり系が良い?」
「ああ、うん。そうだね」
「じゃあこちらを。ワインはそれに合うものを」
「かしこまりました」
 僕だったらこんなスマートに注文できないな。大学生なのにこんな素敵なお店を知っていて、注文もスマートにできる。彼の方がずっと年下なのに尊敬するところがいくつも挙げられる。
「格好良いなあ君は。僕だったらまずお店選びから失敗するよ」
 透流君は少し頭をかいて微笑を浮かべた。
「いえ。実は惣治郎のオススメの店で。聞いてはいたけど入るのは初めてです。予約も普通だったらこんな直前には入れられないみたいで。なんか惣治郎にはコネがあるみたいですよ」
「ルブランのマスターが? ……そっか」
「……幻滅しました?」
 首を横に振って否定した。
「いや。君のことを大事に思う人がいて良かったなって思って。そうじゃなかったらこんな素敵なお店を紹介してくれないだろう?」
「たしかに……そうですね。丸喜と一緒にいると気づくことがいっぱいあるな」
「それは僕もだよ。僕もね、たくさんの人に大切にしてもらって愛情をもらうばかりの人生だったなって気がついたよ。……それなのに大したお返しができてない」
 留美にも気にかけてもらうばかりで結局何も返すことができなかった。
「丸喜はモテますからね。まあ、でも相手はお返しを期待してないんじゃないかな」
「そう……なのかな?」
「まあ全く期待してないといったらウソになるかもしれないけど。いつも一緒にいるだけで丸喜に癒されてる俺が言うんですから確かです。ただ丸喜を喜ばせたくて、自分の想いを気持ちを伝えたくてやっていることだから。だから丸喜はお返しをあまり気にしない方がいいと思います。相手に気があるって誤解を与えてもいけないし」
 そう聞いて、思わずほっとため息をもらした。一方的な関係でなかったのなら良かった。
「そっか……それなら良かった」
 とはいえ透流君には何かお返ししたい。何だったら喜んでくれるかな。考えながら食事をした。
 食事はフルコースで前菜からデザートまでぜんぶ美味しかった。バレンタインの特別メニューらしく、特にデザートのチョコケーキはほろ苦さの中にもしっかり甘さがあって仕事で疲れた脳に染み渡った。
 トイレに行って帰ってきたらバラの花束を手渡された。
「うわっ、それどこにしまってたの? 手品?」
「丸喜……ちょっとはムードを考えてください……」
「えっ。ご、ごめん……」
 花束を受け取って、もう会計も済ませてあるというのでコートを着て、一緒にお店を出た。そのバラの薫りをすうっと胸に吸い込む。やさしい薫りに包まれて心がほぐれる。
「花束をもらうのなんてカウンセラーで期間が終了した時くらいだよ。食事代を奢ってもらってしかもこんなに素敵な花束まで。嬉しいけど、なんだか申し訳なくなっちゃうなあ」
 一緒に過ごしているから彼が普段節制していることも知っている。きっとバイト代をこつこつ貯めて今日の日の準備をしてくれたんだろうな。
 彼は不適な笑みを浮かべた。そしてトントンと指で自分の唇を指した。
「そういう時は俺にキスでもしたらこっちも充分報われますよ」
「ええ……そんなのいつもしてるじゃないか」
 彼が悠然とした構えで手を広げて待っている。外で目立つような真似はしたくないんだけどな。周りを見渡すとちょうど人通りが途切れている。キスするなら今がチャンスだ。
 そっと近づき、彼の目を見た。
 さっき見たばかりの夜景にも劣らない、美しく澄んだ輝きをもつ瞳。
 あとどれくらいこの若くて素敵な彼と一緒にいられるのかなと時々不安になる時もある。けれど彼はいつも変わらず気持ちを伝えてくれる。言葉や態度で好意を示してくれる。だから僕も安心できる。
 花束を脇に寄せ、彼の肩に手を置いた。
「いつもありがとう。大好きだよ」
 キスしようと顔を近づける。引力のように自然と惹かれ合う。
 唇を重ねようとして、ふとイメージが湧いてきた。
 夜空、温泉、卓球。
「そうだ。ホワイトデーのお返しに一泊旅行ってどうかな?」
 ワクワクしながらそう提案すると、透流君は眉を寄せて遠い目をした。
「丸喜って……はあ」
「あれ?……僕、またなんかやっちゃった?」
 透流君は僕の肩に顔を埋めてふて腐れてしまった。何度も謝った。
「そういう時は謝らないで。どうしたら俺が喜ぶか、もうわかってるでしょう?」
 角度をつけて自分の頬を差し出してくるものだから、照れるのを我慢してその頬にキスをした。
 彼からは唇にちゅっとキスを返された。
「ホワイトデー、楽しみにしてます」
 最後は満面の顔で笑ってくれたからまあ良いか。
 ふたりで手を繋ぎながら家へと帰った。


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No.339|主丸SSComment(0)Trackback

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