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ラフレシ庵+ダブルメガネ


主丸SS「最高のプレゼント」

2020/12/24(Thu)23:20

初めて一緒に過ごす主丸クリスマス

・主人公(暁 透流)× 丸喜拓人
・ふたりとモルガナが一緒に暮らしている設定
・ロイヤル3学期以降のネタバレもあるのでご注意ください。



 渋谷駅の前を仕事中に通るたびに、大きなクリスマスツリーやきらびやかなイルミネーションで街が彩られているのを見かけて、もうすぐクリスマスだなあとわくわくしてくる。
 彼と初めて会った年はクリスマスどころじゃなくて。
 その次の年は遠距離で会えなくて。
 そして今年は、透流君とモルガナ君と一緒に暮らすようになって初めてのクリスマス。だからなおさら気分が上がる。
「今年はクリスマスプレゼント、どうしようかなあ」


 非番の日、夕飯の支度をしながらソファでうたた寝をしている猫のモルガナ君に話しかけた。
「ねえ、モルガナ君」
「んー。なんだ? マルキ」
 モルガナ君は寝転がったまま耳だけこちらに向けた。
「透流君にクリスマスプレゼントを贈りたいと思っているんだ。何をあげたら喜ぶと思う?」
 12月に入る前から色々カタログを見たり、人にアドバイスを求めたりして考えていた。衣服は彼のセンスに合うものを選ぶ自信がないし、装飾品を好むような性格でもないし。マフラーとか手袋が定番だろうか。
「うーん……ほしいものとはちがうけどな、去年はマルキにあえなくてすごくザンネンがってたぞ」
「うん。寂しそうな声だったのを覚えているよ」
 去年はまだ彼が地元にいてお互いに遠距離だった。
 クリスマスに彼がこっちに遊びに来ると言ってくれたけど、僕は仕事が繁忙期でクリスマス当日に休めなかったし、透流君も受験の大詰めの時期に貴重な時間をかけて来てもらうのは心苦しくて、申し訳ないけど来ないようにお願いした。
 それでお互いにクリスマスカードやプレゼントを送り合った。彼からは白いセーターが届き、僕が送ったクリスマスカードが届いた時には透流君から感謝の電話が来た。その時、電話越しに彼の声は少し震えていた。
『逢いたい』
 そのシンプルな言葉にすべての想いが凝縮されているようで、思わず僕も頷いた。
 寂しかったけど、今振り返ると彼への気持ちを再認識したり、彼からの気持ちを実感できるクリスマスだったなと思う。


「あとそれからその前の年は、クリスマスだからってだけじゃなくて……アイツがケーサツに出頭するタイミングだったからな。マルキとデンワがつながらないってボヤいてたぜ」
「そうか……あの日、電話をくれたんだ」
 たしかあの日、僕は教授に会いに行った。そして僕にとってはまさにクリスマスの奇跡が起こった。
 怪盗団が世界をかけて戦っている間、現実世界は認知世界と融合した。アザトースの導きもあって、僕は認知世界へと行くことができた。そして自分には過ぎる程の力が与えられた。
 結果的に彼らに僕の欲望は盗まれてしまったし色々と迷惑をかけてしまったけれど、後悔のない選択ができたと思う。
 本当に秀尽で彼に会った時から色んなことがあって、思い返すとしみじみとしてしまう。
 色々な思い出の中心にはいつも透流君がいた。
 そしてそんな過去があるから今の自分がいる。
「今、僕がここにいるのって、モルガナ君たちや彼のおかげなんだなって最近すごく思うよ」
 色んなことが積み重なって、そして今年のクリスマスは、彼とモルガナ君と一緒に過ごせる。
 もし彼の手を取らなかったら、彼とこんな風に心が通じ合うことはなかったのかもしれない。そもそも僕が生きていたかどうかも危うい。
 毎日ちょっとしたことで笑って、泣いて、たまには怒って。あふれ出す感情で胸がいっぱいになって、毎日が色鮮やかに輝いていて、こんな風に幸福な人生を歩めるなんてあの時の自分はちっとも想像できなかった。
 そう思うと、感謝の念でいっぱいになる。
 モルガナ君はツンと鼻を高くつり上げた。
「まーな。マルキはカンシャして、オレにうまいもん食わせたっていーんだぜ?」
 しっぽをぶんぶんと振り回しながらモルガナ君は「ああ、アイツのハナシだっけな」と話を戻した。
「だからさ、アイツにとってはマルキがここにいて、一緒にいられるってことがサイコーのプレゼントなんじゃねーの?」
「そうか………。モルガナ君、大切なことを教えてくれてありがとう」
 まずは仕事のシフトを見直して、できるだけクリスマスに休みを入れられるよう努力してみよう。
 そしてもうすぐやってくるクリスマスをどう過ごすか、改めて考えてみた。
「そうだ……! 良いアイデアを思いついた。モルガナ君。手伝ってくれる?」



 鼻歌を歌いながら、日が暮れてすっかり暗くなった帰路を急いだ。
 今日、クリスマスイブが丸喜の非番だと聞いて、嬉しくて大学帰りにノンアルコールのシャンパンや美味しいと評判のケーキをデパ地下で並んで買って帰った。モルガナのためにワサビ抜きの寿司も買ったし、準備はバッチリだ。家で丸喜が何か手料理を振る舞ってくれるって言ったし、楽しみで仕方ない。
「ただいま」
 部屋の中は灯りがついて明るいけど、返事が返ってこない。
 非番の日の丸喜ならいつも顔を出して出迎えてくれるのに。料理の途中なんだろうか。
 耳を澄ませると、リビングの方から声がする。
「あっ、モルガナ君。そんな、そこはダメだよ……!」
 耳を疑ったけれど、焦ったような声は確かに丸喜のものだ。
「ああっ!」
 今度は人が床に倒れこむような重い音がした。慌てて玄関で靴を脱いた。
「ム、ムム? わ、ワリイ。口だとどうも、うまくいかなくて……」
「ああっ、キツくて、これじゃ、僕……」
「だから動くなって!」
 頭の中で丸喜とモルガナが裸(?)でもつれ合っている妄想が止まらなくなって、慌ててリビングへのドアを押し開けた。
「丸喜ッ!」
 リビングに入ると、想像通り、カーペットで丸喜とモルガナがもつれ合っている。
 振り返った丸喜とモルガナがバツの悪そうな顔でこちらを向いた。
「………お、お帰り……」
「………何、やってるんだ?」
 おそるおそる近づいて見ると、丸喜の白いVネックセーターの上に赤いリボンがめちゃくちゃな感じで身体中に巻かれている。おまけに丸喜の腕が後ろ手になって束縛されていて、身動きがとれずに床の上で芋虫の様にもがいている。
「丸喜……俺というものがありながら、モルガナと緊縛プレイで火遊びしてたのか……!」
「ごっ、誤解だよぉ。プレゼントっぽく体にリボンを結びたかったんだけど、うまくいかなくて。それでモルガナ君に手伝ってもらってて…!」
「動くなって言ったんだけどな。もうオマエが帰ってくる時間だからって、焦って余計に絡まっちまったんだ」
 ふたりの話を総合すると、どうも意図があってリボンを身体に巻いていたようだ。
「プレゼントって?」
 身体を起こすのを手伝ってあげると、丸喜は俺の顔を見て恥ずかしそうにはにかんだ。
「メリークリスマス、透流君。えっと、その……僕がプレゼントだよ」
 そう言うから、思わず「えっ」と声に出してしまった。丸喜がプレゼント。ピンク色の妄想が頭の中で一通り展開されてから、いやそうじゃないと、だんだん冷静さが戻ってくる。丸喜の思わせぶりな言動につい振り回されてしまう。
「何をプレゼントしたら君が喜ぶか色々考えたんだけど、物じゃない気がしてね。それでモルガナ君と相談して当日を一緒に過ごすことをプレゼントにしようって決めたわけさ」
「どうだ。最高のプレゼントだろ?」
「丸喜……モルガナも……」
 たしかに、ずっとクリスマスを丸喜と過ごしたいと思っていた。
 俺の願いを叶えたくてこうして準備してくれたのだと思うと胸がジンとしびれた。
 嬉しくて、自然と笑みが浮かぶ。丸喜とモルガナを抱き寄せて、一緒くたに抱きしめた。
「うん。最高のプレゼントだ」
 丸喜はきっと仕事の忙しい時期だろう。だけど俺のためになんとか調整して仕事を休みにしてくれたんだろう。
 抱擁を解くと、丸喜が目線でテーブルを示した。
「クリスマスっぽくチキンをオーブンで香草焼きにしてみたんだ。あと、温かいポトフと手作りの焼きたてピザもあるよ」
「楽しみだ。俺もシャンパンとデザートを買ってきた。モルガナ用の寿司もな」
「スシー! 気が利いてるじゃねえか!」
 モルガナに寿司が入った袋を渡すと、モルガナはその袋を口にくわえてカウンターテーブルへと運んだ。ハイチェアの上に座って寿司の中身を確かめている。
 その間に丸喜に巻き付いているリボンを少しずつ解いてあげる。
 白いセーターに巻き付いた赤いリボンがよく映える。
「そのセーター、去年俺がプレゼントしたヤツだ」
「うん。すごく着心地が良くて気に入ってるよ」
 男が服を贈る時、脱がせたいという願望があるというのを丸喜はわかっているだろうか。
 こっそり丸喜に耳打ちする。
「食後に丸喜もちゃんともらうから、楽しみにしてる」
 丸喜は目を見開いてから3秒後、言葉の意味を理解したのだろう、顔を真っ赤にした。
「……うん。僕も……その、準備はしてあるから。……プレゼントに君が欲しいな」
 そう言って嬉しそうに微笑んだものだから、思わず赤くなっている可愛い頬にキスをした。
「メリークリスマス、丸喜」
「早く、早く食おうぜ!」
モルガナの催促と同時にリボンがようやく全部解けたので、丸喜の手を取って一緒に立ち上がった。


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