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ラフレシ庵+ダブルメガネ


家族ごっこ5

2018/09/12(Wed)22:48






ペルソナやテレビの世界がなく、事件も起こらなかった八十稲羽の数年後のお話。主人公(鳴上悠)が小西先輩の息子という特殊設定です。

念のため年齢制限が必要そうな最後の部分は削除して掲載しています。その部分はpixivにて公開していますので、成人の方は良かったらそちらでご覧ください。
そろそろ主花へスタートダッシュしそうな感じです^^

素敵な表紙イラストは茶絣ぶみさんに描いていただいています。ふたりの世界を鮮やかに描き出していただいて感謝です!







 イヤな夢を見た。だけど、夢からさめるとどんな夢だったか思い出せない。
 ただこわくて、そこからにげ出したくて、でもにげられない。そのことだけは覚えていた。


 起きてとなりのお布団を見ると、陽介が大きな口を開けてねていたので、なんだかホッとした。
 さむいのをガマンしてお布団から出て、顔を洗って、学校に着ていく服をえらんで着がえた。
「ふあー…おはようさん」
 今日はお昼から仕事って言ってたのに。ねむたそうな顔で陽介が起き上がった。寝てて良いよって言っても、いつも起きられる時は起きて、ぼくに「行ってらっしゃい」って言ってくれる。
「おはよう、陽介」
 陽介が顔を洗っている間にパンをトースターに二枚入れて、フライパンでたまごとハムを二つずつ焼く。
 じゅうジュウジュウと音がして、良いにおいがする。たまごがきつね色になったらできあがり。
 花村のママさんが「なるべく緑色や赤色の野菜も一緒にね」って言っていたから、ちぎったレタスとプチトマトもいっしょにならべると、とっても色がきれいだ。
 自分のコップにオレンジジュースを入れていると、陽介も顔を洗ってやってきた。
「おっ、俺の分も作ってくれたのか? サンキュー」
 陽介が自分のコーヒーを入れて席につくと、手を合わせて一緒に「いただきます」をした。
 テレビをつけて、朝のニュースを見ながら朝ご飯。陽介がいっしょにいるだけで何だか楽しいきもちになってくる。
「ゆうー、ソレとって」 
「はい」
 おしょうゆを渡すと、まだねむそうな顔で陽介はめだまやきにおしょうゆをいっぱいかけている。
「もう。あんまりしょっぱいのをかけると体に悪いってママさん言ってたよ」
「んあ? 大丈夫だって。俺、身体こわしたことないし」
 そう言いながら、パンに上にレタスとめだまやきを一緒に乗せて半分に折りたたんで、口いっぱいにほおばった。
「でも陽介、この前雪にすべってコンクリートに頭うってたよ」
 そういうと、陽介はほっぺたを真っ赤にした。それを見ながらぼくもパンを半分にたたんでほおばった。黄身がとろけて、口いっぱいにしあわせがひろがる。パンの端からこぼれそうになる黄身をあわてて吸った。
「あ…あれは身体こわしたとは違いますー!」
 もぐもぐしながらも陽介はしゃべり続ける。それを聞きながらぼくもパンを食べる。
「いただきました」
 手を合わせてお皿やコップを流し台に片付けた。陽介が「それ、片しとくからそのままで良いぜ」と言ってくれたので、お願いした。
 歯をみがいて、学校に行く道具に忘れ物がないか確認してからランドセルを背負った。そしたら後ろから陽介が玄関までついてきた。
「凍ってるところもあるから気をつけろよな。…って俺が言っても説得力ねえけど」
「あはは! うん。行ってきます」
 陽介に手を振って外へ出た。空気がとっても冷たい。はあっと吐く息が白い。
 美々ちゃんが「悠君は美々の彼氏だから、美々の家から学校まで送り迎えしてね」って言うから、毎日美々ちゃん家へ寄った。


「みーみーちゃん!」
 家の外から大きな声で呼びかけた。
 しばらくすると美々ちゃんが玄関から出てきた。
「おはよう、美々ちゃん」
「おはよ、悠くん」
 なぜか美々ちゃんがくるりと回った。ふわっとした白とピンクのスカートが後からくるっとまわった。なぜかよくわからないから顔を傾けたら、美々ちゃんがぷくりとほっぺたをふくらませた。
「もう! 今日のお洋服、どう思うかちゃんと感想を言ってよ」
「え?……えっと、かわいいよ。似合ってる」
 こう言えば良いんだって。前に女の子の服についてよくわからないと陽介に言ったら、「何でもいいから褒めとけ。なるべく二言以上でな」って教えてくれた。特に「かわいい」って言えば女の子は何でもオッケーらしい。
 美々ちゃんがにっこりと笑ったから、たぶんそれで良かったんだろう。
「今日ね、保健の時間があるでしょ。女子と男子、別々なんだって」
「そうなんだ」
 いつの間にか、もうちがう話みたいだ。手をつないで、川沿いの歩道をふたりで歩いた。
 陽介が「女の子を守るように歩くんだぞ」って教えてくれたから、ぼくが車の通る側を歩いた。陽介はぼくと歩く時、いつも車が通る方を歩いてくれていた。いつもぼくのこと、守ってくれてたんだなあ。そのことを思うと胸がなんだかポカポカあったかくなる。
 いつかぼくも陽介のことを守れるようになりたいなあ。
「きのうね、ママといっしょにあみものをしたんだ。あむじゅんばんがあってね」
 美々ちゃんがいっしょうけんめいお話してくれるから、ぼくも「うん」とうなずいて聞いた。
「悠」
 どこからか、呼ばれた気がして前を向いた。すると、ぼくたちの正面から男の人が近づいてきた。
「悠、会いたかった。長い間、そばにいられなくてすまなかった。顔をよく見せてくれ」
 その男の人の顔を見たら、急に動けなくなってしまった。
 なんでだろう。笑って手を広げて近づいてくるのが、なんだかこわい。
「悠くん、あの人だあれ?」
 美々ちゃんがぼくの手をゆさぶってくるから、ハッとして、美々ちゃんの手を引っぱって走った。美々ちゃんを守らなくちゃ。
「知らない人だよ、行こう」
 そう答えて、ふたりで男の人の横をすり抜けて走った。だいぶ走ってから振り返ったけど、男の人は追いかけてこなかった。
「またな」
 そう言った気がしたけど、何も聞こえないフリをして学校まで走った。





 学校が終わって家に帰ると、なぜか陽介が家にいた。いつもならもっと遅くに帰ってくるのに。
「陽介、お仕事どうしたの?」
 陽介は目を丸くして、ケイタイ電話を持っていた。
「や、なんか、『俺が悠を虐待してる』っつー通報があったらしくて、これから児童相談所の人が面会に来るんだと」
「ギャクタイって何?」
 陽介は言いにくそうにほっぺたを指でかいた。
「あー…悠を殴ったりとか、メシを食べさせないとかー、まあそんな感じ?」
「陽介はそんなことしないよ」
 だよなあと陽介は苦いものを食べたみたいな顔をしている。
「…あっ、もしかして悠にメシ作らせてるのってアウト? 洗濯ものもたたんでくれるし、皿もふいてくれてるし、家事をやらせてるのってマズイ…のか?」
 陽介が頭をかかえている。
 もし陽介がギャクタイしてるってなったらどうなるのかな? そう考えていたら、部屋のチャイムが鳴った。思わず陽介と顔を見合せた。
「は、はーい!」
 陽介が玄関まで出ると、知らない女の人がやってきた。
「児童相談所の田村です。色々お尋ねしたいので、中に入ってもよろしいでしょうか?」
「ど、どうぞ」
 ぼくを見かけると、黒い髪を後ろに束ねた女の人が歯を見せて笑った。
「鳴上悠君ね。色々質問するけど、いつもしていることをそのまま答えれば良いだけだからね」
「はい」
 ぼくがうなずくと、いっしょに家の中に入った。
「あー…じゃ、お茶でも煎れます」
 陽介がキッチンでお茶の缶を探してウロウロしている。
「陽介、そっちじゃない。ここだよ」
 ポットの横にあるお茶缶を渡すと、「おお、サンキュ」と受け取った。きゅうすに量をはからないでそのまま入れようとするから、「はい、これに入れて」と缶のフタを渡してあげる。ようやくお茶が入れられたので、ぼくぼくが運んでタムラさんに渡した。
「ふふ、ありがとう」
 なぜだかわからないけど、タムラさんが笑っている。陽介は恥ずかしそうに頭をかいている。
「やー、すいません、キッチンのことは俺より悠の方が詳しくて」
「いつも家事をやっているのはどっちかしら?」
 陽介じゃなくて、ぼくにしつもんした。
 そのまま答えても良いのかな。陽介がこまったりしない? そう思って陽介を見ると、陽介は「大丈夫。ありのまま話そうぜ」と言ってぼくの頭を撫でた。
「お米をたくのはぼくです。コンロや包丁を使う時はあぶないから大人がいるときだけって約束してて、ふたりで作ってます。洗たくものは陽介が干して、ぼくが折りたたんでます。おふろは陽介がいれて、ぼくが洗ってます」と答えた。
「そう、たくさん家事を手伝ってえらいのね」
 ほめられたので、うれしくてうなずいた。
「ぼくができることは何でもやりたいです。だって、家族だから」
 そう答えると、うんうんとタムラさんもうなずいてくれた。
 それ以外にも、家に陽介がいない時はどうしてるかとか、れいぞうこにいつもご飯が入ってるかと聞かれて、ぼくはママさんの家に行っていることやれいぞうこの中がなくなったら陽介に話して、いっしょに買い物に行っていると答えた。
「それじゃ、ちょっと花村さんは席を外してもらってもよろしいですか? 悠君とふたりで話したいので」
「え?」
 陽介がびっくりした顔でタムラさんとぼくを見た。しばらくして、「…わかりました。玄関の外にいるので、終わったら声をかけてください」と出ていった。知らない人とふたりになるのは何だかきんちょうする。
「ごめんね。知らない人とふたりで話すのは緊張するかしら」
「えっと…、はい」
「素直ね」
 タムラさんは優くて小さな声でぼくにたずねた。
「花村さんと一緒にお風呂に入っている?」
 ぼくは首を横に振った。
「花村さんとは一緒のおふとんで寝ているかしら?」
 聞かれて、よくわからないけど、首を横に振った。
「花村さんから身体を触られたりしたことはない?」
「え?」
 何でそんなことを聞かれるのか意味がわからない。だけどタムラさんはじっとぼくの目を見て答えるのを待っている。
「…えっと、ぼくをほめる時、頭をなでてくれます。あと、時々、ぎゅっとしてくれます」
 タムラさんが目を細めた。
「そう。そうされると悠君はどんな気持ち?」
「えっと…胸がぽかぽかして、うれしいです」
「花村さんが好きなのね」
 そう言われると、なんだかむずむずとかゆいような、恥ずかしいような、顔が熱くなってくる。
「それと、辛いことも聞いていいかしら。悠くんは自分のお父さんとお母さんのことは覚えている?」
 突然お母さんたちのことを聞かれて、顔を上げた。タムラさんは真剣な顔でぼくを見ている。
「……お母さんのことは覚えてます。お母さんが死んじゃった時のことも、その前のことも。お父さんのことは……わかりません」
 ことばにすると、お母さんの優しい笑顔が思い浮かんでくる。でも、お父さんのことは全然思い出せない。
「お父さんとお母さんのことは好きだった?」
「お母さんは大好きです。…お父さんのことは、よくわかりません」
 お母さんの声や笑った顔はなんとなく思い出せる。だけどお父さんのことはぼんやりとして思い出せなかった。どんな顔だったかも、声も、よくわからない。いつもぼくに背中を向けていた気がする。お母さんが「お父さんは忙しいから」といつも言っていた。
「ごめんね、辛いことを思い出させて」
 頭を横に振ると、「ありがとう、もう大丈夫よ」とタムラさんがぼくの頭をなでた。
 そして小さな四角い紙とカードを渡された。紙には「田村秋江」という名前と電話番号が書いてあった。カードは公衆電話をかける時に使うテレホンカードだと教えてくれた。
「なにか花村さんに話し辛いようなこととか、助けてほしいことがあったらいつでも電話してちょうだい」
「え…と」
 陽介に話しづらいことってどんなことだろう。よくわからなくて、顔を傾けると、田村さんはぼくの手をぎゅっとにぎって言った。
「私は貴方の味方よ。今はなくても、これから、困ったことが起きるかもしれない。その時はここに電話してちょうだい。いつでも悠君に会いに行くから。夜中でもね」
田村さんがぼくのことを心配してくれてる気持ちが伝わってきた。
「はい」
うなずくと、田村さんはまた歯を見せて笑った。



 陽介を呼んで、今度は陽介と田村さんがふたりでお話した。ぼくが外で待っていると、しばらくしてから陽介に呼ばれた。
もう一度三人でおはなしをした。
「匿名の通報があって、今日はお話を聞きにきました。色々不躾な質問をしてしまってすみません。周囲の方にお尋ねして、お二人にも直接話を聞いて、相談所としては問題無しと判断しました。ふたりで協力して頑張ってるのが良くわかりました」
それを聞いて、陽介がほっとしたような笑顔を見せた。
「悠君が花村さんと一緒に生活をするようになった経緯は引き継ぎを受けています。これからも悠君が独り立ちするまでの間、様々な支援はしていきたいと思っています。良かったらこれからも定期的に訪問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。悠のことを助けてくれるなら歓迎します」
 玄関先で陽介とタムラさんが小声でお話をしている。何を話しているかわからない。これからも陽介といっしょに住んで良いのかな。
 じっと見ていると、タムラさんがぼくの方を振り返って笑いかけた。
「悠君、それじゃあまたね」
「さよなら」
 手を振って見送ると、陽介が大きな息を吐いた。
「はー、めっちゃ緊張した!ったく誰だよ、人騒がせな通報するヤツは」
「陽介」
「ん?」
 携帯電話を手に持った陽介を呼び止めた。
「ぼく、ここにいてもいいんだよね?」
「はぁ? 当たり前だろ。この家は俺とお前の家なんだから」
 ちょっと怒ったように言われて、ぼくは何だかすごくホッとした。
「うん!」
 大きくうなずいた。ここはぼくと陽介のおうちだ。


 そんなことがあったので、何か陽介に話さなければいけないことがあったような気がしたけど、すっかり忘れてしまっていた。


 その日、夢を見た。
 陽介と一緒のお布団で眠っている夢を。
 そういえば、この家に来た時、さいしょだけ陽介の布団で眠ったなあ。
 陽介に抱きしめられて、ほっとして、きもち良くて、だけどちょっとだけドキドキした。





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