【主花SS】猫の夢
2024/03/03(Sun)12:33
猫の日にちなんで書いたSSです。
本文はつづきリンクに折りたたみました!
気がついたら路上にいた。
地面スレスレでやけに視点が低い。
「あれ……え?」
自分の手元を見たはずが、猫の手がある。ふわふわとした茶色い毛、手のあたりは手袋みたいに白色をしている。しかも自分の意思で猫の手を動かせるし、ひっくり返してピンク色の肉球を見ることもできる。
慌てて近くにあったカーブミラーに自分を映した。映っているのはお腹の白い茶とオレンジ模様の混じった三毛猫だ。
「……俺」
声を発しているはずがニャーという声しか生まれない。
「俺、猫になっちゃった?」
ペルソナやテレビの世界というものを知り、クマというわけわからん生き物に出会ったせいだろうか。自分の身に起こったことをわりと冷静に受け止めていた。いやビックリなんだけどわりと何とかなるような気がして。
とりあえずどこにいるのか辺りを見渡した。暗さで少なくとも今は夜だとわかる。電灯がともっているところまで近づく。
「あ、ここ。相棒の家に近い!」
堂島さん家の坂の上だと気がついて降りていった。相棒はいるだろうか。夜でも結構商店街を出歩いているからな。
もしいたら俺だと気がついてもらえるかもしれない。歩いていくと、なぜか堂島さん宅の駐車スペースに猫がいっぱいいる。
「……もしかして」
覗いて見ると猫たちが同じ方向を向いてしきりに騒いでいる。
「あれが噂のゴッドハンドかにゃー」
「おう、お前さん見るのは初めてかい? そうだよ。あのヒトが伝説のゴッドハンドさ。俺たちがなでなでされて気持ちいいところを知り尽くしたヒトなのにゃ」
「それだけじゃない。何でも子どもがいるおっ母さんに釣った魚を毎日くれたってえウワサだよ」
「にゃんとも情深いヒトだにゃあ」
俺、今、猫たちの言葉を理解している?
気がつけば目の前に相棒がいた。
「あっ、いた。相棒!」
大声を上げるが、相棒には猫がにゃーにゃー言っているようにしか聞こえないらしい。反応なしだ。
「お前たち、毎日ちょっとずつ増えてないか? 可愛いけど困ったな……エサをあげてるんじゃないかって堂島さんに疑われそうだな」
相棒は猫の頭を撫でながら眉を下ろした。この高さから見る相棒もイケメンだなあって見とれていたら、なぜか相棒がこっちを見た。
え、もしかして俺のことに気がついてくれた?
「……お前、なんか陽介っぽいな。首のところの模様がヘッドホンっぽい。三毛猫のオスは珍しいな」
たくさんいる猫たちの中から俺の身体をすくいあげた。タマを下から覗き込まれたので思わず手で隠した。
「……うん。日向っぽいにおいも陽介みたいだ」
そう言って、思いっきりお腹のにおいをかがれるとどうして良いのかわからず言葉につまってしまう。
「ちょっとマッサージしながら恋の相談をしてもいい?」
そう言って、俺をコンクリートの上に寝かせると、背中を指で掻き始めた。
「うっひゃ……あッ、ァ……え、ちょ、そんなとこっまで……アー!」
「兄さん見ない顔だね。初めてなのにラッキーだねえ」
「最高だろ。このヒトのなでなで」
周りの猫たちが羨ましそうに見ている。けれどそれどころじゃない。頭や背中や腰、お腹までくすぐったいし気持ち良いし、なんか、蕩けそうでヘンな声が出てしまう。
「ふにゃ~」
いや、もう声出てるわ。たまに猫を撫でているなあと思って見てたけど、まさか猫がこんな気持ちなんて思わなかった。
ああ、そうか。俺、猫が羨ましいからこんな夢を見ているんだな。妙に納得してしまった。
「陽介に似ているからお前のことヨースケって呼ぶな。その陽介って人が俺の好きな人」
突然の告白に声を出すのも忘れて見上げた。愛しい人を見るような目でどこか遠くを見ていて、その目はまさしくいつもの俺に向けてくる目で……。
「どうやったら好きになってもらえると思う?」
その言葉に、周りの猫たちから答えが返ってくる。
「好きってその子と交尾したいってことだろ?」
「こっ、交尾!?」
「そりゃ交尾したい子にはやさしくするのが一番だよ。ゴハンを捕まえてあげたり、舌でマッサージしてあげたり」
「舌で!?」
いちいち反応してしまう。いやいや、猫の世界の話は置いといて。本当に俺のことが好きなのかな。
そういえば、学校でも相棒の作った弁当を一番食べているのは俺だ。相棒枠ってことで大切にしてくれるのかなって思っていた。
バイト帰りに何となく商店街に行くとほとんどの確率で逢いに来てくれるし。
じゃあ、俺が小西先輩の話をしていて感極まって涙が出てしまった時、本人いわく胸を貸してくれた時、どちちかというと抱きしめられた感じだったなあと思ったのも……。
うわ、やばい。顔が熱くなってきた。どういう顔で相棒を見ていいのかわからない。心臓の音がドキドキとせわしない。そして相棒の気持ちが嬉しいとも感じている自分がいる。
「まずは勇気を出して告白しないと……だな」
周りが「ガンバレにゃー」という応援で湧き上がった。俺も何か相棒に言いたい。いや、これは応援すべきなのだろうか。それとも……。
「話、聞いてくれてありがとう。何か俺、励まされてる?」
喉の辺りを撫でられて、最高に気持ちよくてうっとりしてしまう。ああ、だんだん意識が遠のいてしまう。これが昇天というやつだろうか。
ぱちりと目が覚めた。
見慣れた天井。手をかざすと、ちゃんと人の手だ。
「……夢だったかー……」
バイトから帰ってきてちょっと横になっていたらそのまま寝ていたらしい。携帯電話を見ると夜の9時。いつもなら商店街に行って自販機でやそぜんざいを飲んでいる時間帯だ。
その携帯が鳴り出して思わず飛び起きた。
「うわっ」
しかもディスプレイに「相棒」と表示されている。
思わずベッドの上に正座になってしまう。通話ボタンを震える指でなんとか押した。
「……も、もしもし」
『どうしたの。なんか取り込み中だった?』
「いや、全然。バイトから帰って寝落ちしてた……ハハ」
電話の向こうからくすくすと笑い声がする。なんだかやけに耳がくすぐったく感じる。
『そっか。商店街に行っても陽介がいなかったから気になって。起こしちゃったらごめん』
「や、全然。起きてから鳴ったし……つか、待っててくれたならゴメン」
『いや。今日はもう来なさそうだったから猫を撫でていた』
その言葉にドキンと胸が鳴った。
『陽介に似た柄の猫がいたいんだ』
さっきのは夢……だよな?
『その猫と話してたら陽介に逢いたくなっちゃって。明日も学校で逢えるのにな』
甘さを含んだ優しい声。いつまでも聴いていたくなる。
「俺も……俺も話したい。今から話せない? そっちに行くからさ」
『え、遅いし……それなら俺が行くよ』
「いいって、行くから。待ってて!」
そう言って、通話を切ると部屋を出て階段をかけ降りた。お風呂上がりのクマに衝突しそうになって「わりい、ちょっと外出てくる!」とだけ伝えて家を飛び出した。
どうしよう、逢って、何て話そう。
今、夢を見たこと?
相棒が言ったことについて?
いや違う。そうじゃない。
もし逢って、甘ったるい瞳を向けてくれたなら。勇気を出して俺の方から告白しよう。
お前のことが大大大大好きだって。
にゃあん。どこかで猫が鳴いた。
本文はつづきリンクに折りたたみました!
気がついたら路上にいた。
地面スレスレでやけに視点が低い。
「あれ……え?」
自分の手元を見たはずが、猫の手がある。ふわふわとした茶色い毛、手のあたりは手袋みたいに白色をしている。しかも自分の意思で猫の手を動かせるし、ひっくり返してピンク色の肉球を見ることもできる。
慌てて近くにあったカーブミラーに自分を映した。映っているのはお腹の白い茶とオレンジ模様の混じった三毛猫だ。
「……俺」
声を発しているはずがニャーという声しか生まれない。
「俺、猫になっちゃった?」
ペルソナやテレビの世界というものを知り、クマというわけわからん生き物に出会ったせいだろうか。自分の身に起こったことをわりと冷静に受け止めていた。いやビックリなんだけどわりと何とかなるような気がして。
とりあえずどこにいるのか辺りを見渡した。暗さで少なくとも今は夜だとわかる。電灯がともっているところまで近づく。
「あ、ここ。相棒の家に近い!」
堂島さん家の坂の上だと気がついて降りていった。相棒はいるだろうか。夜でも結構商店街を出歩いているからな。
もしいたら俺だと気がついてもらえるかもしれない。歩いていくと、なぜか堂島さん宅の駐車スペースに猫がいっぱいいる。
「……もしかして」
覗いて見ると猫たちが同じ方向を向いてしきりに騒いでいる。
「あれが噂のゴッドハンドかにゃー」
「おう、お前さん見るのは初めてかい? そうだよ。あのヒトが伝説のゴッドハンドさ。俺たちがなでなでされて気持ちいいところを知り尽くしたヒトなのにゃ」
「それだけじゃない。何でも子どもがいるおっ母さんに釣った魚を毎日くれたってえウワサだよ」
「にゃんとも情深いヒトだにゃあ」
俺、今、猫たちの言葉を理解している?
気がつけば目の前に相棒がいた。
「あっ、いた。相棒!」
大声を上げるが、相棒には猫がにゃーにゃー言っているようにしか聞こえないらしい。反応なしだ。
「お前たち、毎日ちょっとずつ増えてないか? 可愛いけど困ったな……エサをあげてるんじゃないかって堂島さんに疑われそうだな」
相棒は猫の頭を撫でながら眉を下ろした。この高さから見る相棒もイケメンだなあって見とれていたら、なぜか相棒がこっちを見た。
え、もしかして俺のことに気がついてくれた?
「……お前、なんか陽介っぽいな。首のところの模様がヘッドホンっぽい。三毛猫のオスは珍しいな」
たくさんいる猫たちの中から俺の身体をすくいあげた。タマを下から覗き込まれたので思わず手で隠した。
「……うん。日向っぽいにおいも陽介みたいだ」
そう言って、思いっきりお腹のにおいをかがれるとどうして良いのかわからず言葉につまってしまう。
「ちょっとマッサージしながら恋の相談をしてもいい?」
そう言って、俺をコンクリートの上に寝かせると、背中を指で掻き始めた。
「うっひゃ……あッ、ァ……え、ちょ、そんなとこっまで……アー!」
「兄さん見ない顔だね。初めてなのにラッキーだねえ」
「最高だろ。このヒトのなでなで」
周りの猫たちが羨ましそうに見ている。けれどそれどころじゃない。頭や背中や腰、お腹までくすぐったいし気持ち良いし、なんか、蕩けそうでヘンな声が出てしまう。
「ふにゃ~」
いや、もう声出てるわ。たまに猫を撫でているなあと思って見てたけど、まさか猫がこんな気持ちなんて思わなかった。
ああ、そうか。俺、猫が羨ましいからこんな夢を見ているんだな。妙に納得してしまった。
「陽介に似ているからお前のことヨースケって呼ぶな。その陽介って人が俺の好きな人」
突然の告白に声を出すのも忘れて見上げた。愛しい人を見るような目でどこか遠くを見ていて、その目はまさしくいつもの俺に向けてくる目で……。
「どうやったら好きになってもらえると思う?」
その言葉に、周りの猫たちから答えが返ってくる。
「好きってその子と交尾したいってことだろ?」
「こっ、交尾!?」
「そりゃ交尾したい子にはやさしくするのが一番だよ。ゴハンを捕まえてあげたり、舌でマッサージしてあげたり」
「舌で!?」
いちいち反応してしまう。いやいや、猫の世界の話は置いといて。本当に俺のことが好きなのかな。
そういえば、学校でも相棒の作った弁当を一番食べているのは俺だ。相棒枠ってことで大切にしてくれるのかなって思っていた。
バイト帰りに何となく商店街に行くとほとんどの確率で逢いに来てくれるし。
じゃあ、俺が小西先輩の話をしていて感極まって涙が出てしまった時、本人いわく胸を貸してくれた時、どちちかというと抱きしめられた感じだったなあと思ったのも……。
うわ、やばい。顔が熱くなってきた。どういう顔で相棒を見ていいのかわからない。心臓の音がドキドキとせわしない。そして相棒の気持ちが嬉しいとも感じている自分がいる。
「まずは勇気を出して告白しないと……だな」
周りが「ガンバレにゃー」という応援で湧き上がった。俺も何か相棒に言いたい。いや、これは応援すべきなのだろうか。それとも……。
「話、聞いてくれてありがとう。何か俺、励まされてる?」
喉の辺りを撫でられて、最高に気持ちよくてうっとりしてしまう。ああ、だんだん意識が遠のいてしまう。これが昇天というやつだろうか。
ぱちりと目が覚めた。
見慣れた天井。手をかざすと、ちゃんと人の手だ。
「……夢だったかー……」
バイトから帰ってきてちょっと横になっていたらそのまま寝ていたらしい。携帯電話を見ると夜の9時。いつもなら商店街に行って自販機でやそぜんざいを飲んでいる時間帯だ。
その携帯が鳴り出して思わず飛び起きた。
「うわっ」
しかもディスプレイに「相棒」と表示されている。
思わずベッドの上に正座になってしまう。通話ボタンを震える指でなんとか押した。
「……も、もしもし」
『どうしたの。なんか取り込み中だった?』
「いや、全然。バイトから帰って寝落ちしてた……ハハ」
電話の向こうからくすくすと笑い声がする。なんだかやけに耳がくすぐったく感じる。
『そっか。商店街に行っても陽介がいなかったから気になって。起こしちゃったらごめん』
「や、全然。起きてから鳴ったし……つか、待っててくれたならゴメン」
『いや。今日はもう来なさそうだったから猫を撫でていた』
その言葉にドキンと胸が鳴った。
『陽介に似た柄の猫がいたいんだ』
さっきのは夢……だよな?
『その猫と話してたら陽介に逢いたくなっちゃって。明日も学校で逢えるのにな』
甘さを含んだ優しい声。いつまでも聴いていたくなる。
「俺も……俺も話したい。今から話せない? そっちに行くからさ」
『え、遅いし……それなら俺が行くよ』
「いいって、行くから。待ってて!」
そう言って、通話を切ると部屋を出て階段をかけ降りた。お風呂上がりのクマに衝突しそうになって「わりい、ちょっと外出てくる!」とだけ伝えて家を飛び出した。
どうしよう、逢って、何て話そう。
今、夢を見たこと?
相棒が言ったことについて?
いや違う。そうじゃない。
もし逢って、甘ったるい瞳を向けてくれたなら。勇気を出して俺の方から告白しよう。
お前のことが大大大大好きだって。
にゃあん。どこかで猫が鳴いた。
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