魔法使いの君に
2017/10/02(Mon)20:02
ツイッターの「主花版深夜の創作60分一本勝負」に参加させていただきました。
お題「魔法」
久々にワンドロに参加したら開始時間を間違えるわペース配分を忘れるわで大変でした;
もっと時間があったら番長目線も書いてみたかったなあって感じでした。
本文は続きからどうぞ~
放課後、図書室に行くと相棒が本を読んでいた。そっと近づいてタイトルを見ると、「黒魔術の歴史」という禍々しいものだった。しかも本人はごく真剣な表情で見ている。まるでこれからすぐに黒魔術に取りかかろうとでもしているみたいだ。その脇には「すごい手品」から「超サイキックテクニック」、果てには「ミセス魔法使い」「万能錬金術」という本まである。っていうかなんなんだ、この図書室のラインナップは。
「…相棒?なんかあったわけ?」
声をかけると、相棒は難しい顔をしたまま顔を上げた。
「陽介…珍しいな。図書室に来るなんて」
「いや、小テストの前にお前に借りたノートを返すの忘れてたーって気がついて。まだ学校にいるみたいだったからさ。つか、俺だって図書室くらい来ますー」
借りてたノートを返すと、相棒は読んでいた本を閉じて、深いため息をついた。
「ダメだ…この本にも載ってなかった」
「いったいナニを真剣に探してるわけ?」
「足立さんに………勝ちたいんだ」
黒魔法で?いや、そんなわけない。だけど相棒は必死の形相だ。
「この前、足立さんが菜々子の前で手品をやってみせたんだ。…俺がやったのよりすごく受けが良くて…。菜々子の兄として、絶対に負けられない戦いなんだ」
どんっと机をたたいたので、図書委員に咳払いとともに睨まれてしまい、俺たちは顔を見合せた。そうですね、図書室ではお静かに。
本を元の場所に戻してから図書室を出た。
「あー…つまり、足立さんよりも菜々子ちゃんを喜ばせたいわけなんだな」
相棒は苦渋の表情で頷いた。あーすごい納得。普段はわりとおおざっぱなことが多いけど、菜々子ちゃんのことに関して相棒はとんでもなく凝り性でストイックだ。相棒の可愛げある一面が見れて、なんだか嬉しい。
「じゃあなんかこう、菜々子ちゃんをビックリさせて、笑顔にさせれば良いわけだよな」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、こういうのはどう?」
スマホでネットサーフィンをし、自分が思い描いているマジックを探し当てた。その画面を相棒に見せると、「…こんな単純なマジックで良いのか?」と不思議そうな顔をしている。
「まあ、ものは試しに、今晩やってみたら?」
「…ああ、わかった。必要な道具をそろえてみる」
ジュネスで相棒の買い物に付き合ったのだった。
その夜、家で夕飯を食べ終えた直後に電話がかかってきた。
「お、相棒からじゃん」
向こうからかかってくるとは珍しい。きっと昼間の件だな。
「あー相棒?どうだった?」
『陽介、今うちか?』
「んあ?そうだけど?」
『今お前のうちの前にいる』
「はぁっ?」
慌てて、玄関から外に飛び出した。街頭の下で、息を切らした相棒が立っている。
近寄ると、相棒も走ってやってきた。
「どうしたんだよ!?」
「陽介、やった!菜々子がすごい喜んでくれた!」
その言葉とともにハグされて、思わずドキッとしてしまった。あー、これはアレだ、サッカー選手がゴールを決めた時にするアレだ。落ち着け、俺。
顔を上げると、相棒が離してくれて、思わずホッと息を吐いた。
「あー…良かったな、相棒」
俺が教えたのはすごく単純なマジックだった。手に何も持っていない状態を見せて、布をかぶせたら花束が出てくるってマジック。
「なんであのマジックを菜々子が喜ぶってわかったんだ?」
「ああ、んなの簡単だろ。女の子は花が好きだろ?ましてや大好きなお兄ちゃんから花束をもらったら、菜々子ちゃん、すっごく喜ぶに決まってるだろ」
そう言うと、目を丸くしていた相棒が細く眇めた。すごく優しい眼差しで俺を見つめるから、何でかわからないけど、うまく息ができない。
「陽介はすごいな…。やっぱり陽介は俺の魔法使いだ」
心の底から感動した様子で言われてしまい、いつもみたいな言葉が出てこない。「だろう?」とか「もっと褒めて」とか調子に乗って言えばいいのに、なんだか胸がいっぱいで言葉にならない。
すると、相棒が尻ポケットから布を出して見せた。さっきジュネスで買ったばかりの蛍光ピンクの布きれ。
「ワン、ツー、スリー」
相棒が片手を上げて、大げさに拍子を取ると、布の中から小さな花束が現れた。
「これは陽介に。俺の0を1にしてくれた魔法使いに」
差し出された丸っこい花束を受け取った。それは小さなヒマワリをベースにした明るい色合いの花束だった。そういえば、ジュネスの花屋に寄った時、ふたつ花束を買っていたっけ。
花束なんてもらったの、初めてだ。
「……そんな、俺、お前になんかしたっけ?」
「いっぱいもらってるよ」
相棒にしてもらったことならいっぱいある。俺がテレビの世界に入ろうとした時、一緒に来てくれたし、俺の暴走した影と戦いながら、自分自身と向き合えないでいた俺の背中を押してくれた。
バイトのピンチヒッターに来てくれて、小西先輩のことを好き勝手に話す先輩らのことを怒ってくれたり、俺が頭ん中、ぐちゃぐちゃになった時は胸を貸してくれたり。
だけど俺はなにか相棒に返せているだろうか。こんなに深く人と関わったのは初めてで、どうしたら相棒の役に立てるだろうかと考えて空回るばかりで、具体的になにか返せているだろうか。
「陽介がいなかったら、俺、きっとテレビの世界やみんなのことも、深く関わらないでいたと思う。陽介は自分では気づいてないかもしれないけど、俺にとんでもない影響を与えているんだよ」
わかっている?
その言葉とともに、また抱き寄せられて、自分の心臓の音がすごくて、それが相棒にわかってしまったらどうしようと、必死で平静を装った。
「はは…マジで……?」
離して。
そう言えばきっと相棒は離してくれるだろう。なのに、なんでだろう。離してほしいと思わない。秋の夜風が涼しくて、そのぬくもりが愛おしいものに思えてしまう。
今、どんな顔をして、相棒は俺のことを抱きしめているんだろう。そう思って顔を上げると、目が合った途端、ぴくりと相棒の身体が揺れた。まるで愛しい恋人でも見るような、深い眼差しで俺を見ていて、その目元が夜でもわかるくらい綺麗に赤く染まっている。
「あい、ぼう…」
その吸い込まれそうな瞳から目が離せない。
「陽介…」
頬を指でするりと撫でられて、流れるようにその手が俺の後ろ頭を支える。
ゆっくりと相棒の顔が近づいてくる。
もしかして、この流れは、まさか、だって。
俺たちは相棒で、親友で、だから。だから……?
「陽ちゃんー、外にいるの?」
玄関のドアが開く音がして、思わず相棒をドーンと突き飛ばしてしまった。足がもつれた相棒は後ろに倒れこんでしまった。
「あ、ワリ…!」
相棒がはーっと深い息をついて立ち上がった。そして横をプイと向いてしまった。その表情はよく見えない。
母さんがドアを開けたままやってきた。
「あら、お友達?」
「こんばんは。用は済んだのでおいとまします」
にっこりと微笑んで、相棒は会釈をすると、俺を一瞬見た。いつものポーカーフェイスな無表情。
「お休み、陽介」
「あ、ああ」
まるで何もなかったかのように、平然とした様子で相棒は歩き去っていってしまった。
「家に入らないの?」
「…入るよ」
母さんの後を俺もぼーっとする頭で歩いた。
今の、今のって……キス、しようとしなかったか?
「まさかなあ…?」
もしかしたら、顔に虫かゴミでもついていて、それを取ろうとしたのかもしれない。そうだ、そういう可能性もある。勝手にヘンな想像をして、なにを考えているんだ、俺は。
手に残った小さな花束を見た。菜々子ちゃんの分と一緒に花屋で買ったんだろうな。俺のことを考えてこのカラーリングにしてくれたんだろうか。いや、手品を失敗した時の予備用に買っただけかもしれない。
ただ、見ているとすごく優しい気持ちになれる。
「お前の方が魔法使いだっての。まったく」
こんな誰にも感じたことのない気持ちにさせるの、お前だけだっての。
玄関を閉めると、小さな風が巻き起こって、花びらがふるりと揺れた。
お題「魔法」
久々にワンドロに参加したら開始時間を間違えるわペース配分を忘れるわで大変でした;
もっと時間があったら番長目線も書いてみたかったなあって感じでした。
本文は続きからどうぞ~
放課後、図書室に行くと相棒が本を読んでいた。そっと近づいてタイトルを見ると、「黒魔術の歴史」という禍々しいものだった。しかも本人はごく真剣な表情で見ている。まるでこれからすぐに黒魔術に取りかかろうとでもしているみたいだ。その脇には「すごい手品」から「超サイキックテクニック」、果てには「ミセス魔法使い」「万能錬金術」という本まである。っていうかなんなんだ、この図書室のラインナップは。
「…相棒?なんかあったわけ?」
声をかけると、相棒は難しい顔をしたまま顔を上げた。
「陽介…珍しいな。図書室に来るなんて」
「いや、小テストの前にお前に借りたノートを返すの忘れてたーって気がついて。まだ学校にいるみたいだったからさ。つか、俺だって図書室くらい来ますー」
借りてたノートを返すと、相棒は読んでいた本を閉じて、深いため息をついた。
「ダメだ…この本にも載ってなかった」
「いったいナニを真剣に探してるわけ?」
「足立さんに………勝ちたいんだ」
黒魔法で?いや、そんなわけない。だけど相棒は必死の形相だ。
「この前、足立さんが菜々子の前で手品をやってみせたんだ。…俺がやったのよりすごく受けが良くて…。菜々子の兄として、絶対に負けられない戦いなんだ」
どんっと机をたたいたので、図書委員に咳払いとともに睨まれてしまい、俺たちは顔を見合せた。そうですね、図書室ではお静かに。
本を元の場所に戻してから図書室を出た。
「あー…つまり、足立さんよりも菜々子ちゃんを喜ばせたいわけなんだな」
相棒は苦渋の表情で頷いた。あーすごい納得。普段はわりとおおざっぱなことが多いけど、菜々子ちゃんのことに関して相棒はとんでもなく凝り性でストイックだ。相棒の可愛げある一面が見れて、なんだか嬉しい。
「じゃあなんかこう、菜々子ちゃんをビックリさせて、笑顔にさせれば良いわけだよな」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、こういうのはどう?」
スマホでネットサーフィンをし、自分が思い描いているマジックを探し当てた。その画面を相棒に見せると、「…こんな単純なマジックで良いのか?」と不思議そうな顔をしている。
「まあ、ものは試しに、今晩やってみたら?」
「…ああ、わかった。必要な道具をそろえてみる」
ジュネスで相棒の買い物に付き合ったのだった。
その夜、家で夕飯を食べ終えた直後に電話がかかってきた。
「お、相棒からじゃん」
向こうからかかってくるとは珍しい。きっと昼間の件だな。
「あー相棒?どうだった?」
『陽介、今うちか?』
「んあ?そうだけど?」
『今お前のうちの前にいる』
「はぁっ?」
慌てて、玄関から外に飛び出した。街頭の下で、息を切らした相棒が立っている。
近寄ると、相棒も走ってやってきた。
「どうしたんだよ!?」
「陽介、やった!菜々子がすごい喜んでくれた!」
その言葉とともにハグされて、思わずドキッとしてしまった。あー、これはアレだ、サッカー選手がゴールを決めた時にするアレだ。落ち着け、俺。
顔を上げると、相棒が離してくれて、思わずホッと息を吐いた。
「あー…良かったな、相棒」
俺が教えたのはすごく単純なマジックだった。手に何も持っていない状態を見せて、布をかぶせたら花束が出てくるってマジック。
「なんであのマジックを菜々子が喜ぶってわかったんだ?」
「ああ、んなの簡単だろ。女の子は花が好きだろ?ましてや大好きなお兄ちゃんから花束をもらったら、菜々子ちゃん、すっごく喜ぶに決まってるだろ」
そう言うと、目を丸くしていた相棒が細く眇めた。すごく優しい眼差しで俺を見つめるから、何でかわからないけど、うまく息ができない。
「陽介はすごいな…。やっぱり陽介は俺の魔法使いだ」
心の底から感動した様子で言われてしまい、いつもみたいな言葉が出てこない。「だろう?」とか「もっと褒めて」とか調子に乗って言えばいいのに、なんだか胸がいっぱいで言葉にならない。
すると、相棒が尻ポケットから布を出して見せた。さっきジュネスで買ったばかりの蛍光ピンクの布きれ。
「ワン、ツー、スリー」
相棒が片手を上げて、大げさに拍子を取ると、布の中から小さな花束が現れた。
「これは陽介に。俺の0を1にしてくれた魔法使いに」
差し出された丸っこい花束を受け取った。それは小さなヒマワリをベースにした明るい色合いの花束だった。そういえば、ジュネスの花屋に寄った時、ふたつ花束を買っていたっけ。
花束なんてもらったの、初めてだ。
「……そんな、俺、お前になんかしたっけ?」
「いっぱいもらってるよ」
相棒にしてもらったことならいっぱいある。俺がテレビの世界に入ろうとした時、一緒に来てくれたし、俺の暴走した影と戦いながら、自分自身と向き合えないでいた俺の背中を押してくれた。
バイトのピンチヒッターに来てくれて、小西先輩のことを好き勝手に話す先輩らのことを怒ってくれたり、俺が頭ん中、ぐちゃぐちゃになった時は胸を貸してくれたり。
だけど俺はなにか相棒に返せているだろうか。こんなに深く人と関わったのは初めてで、どうしたら相棒の役に立てるだろうかと考えて空回るばかりで、具体的になにか返せているだろうか。
「陽介がいなかったら、俺、きっとテレビの世界やみんなのことも、深く関わらないでいたと思う。陽介は自分では気づいてないかもしれないけど、俺にとんでもない影響を与えているんだよ」
わかっている?
その言葉とともに、また抱き寄せられて、自分の心臓の音がすごくて、それが相棒にわかってしまったらどうしようと、必死で平静を装った。
「はは…マジで……?」
離して。
そう言えばきっと相棒は離してくれるだろう。なのに、なんでだろう。離してほしいと思わない。秋の夜風が涼しくて、そのぬくもりが愛おしいものに思えてしまう。
今、どんな顔をして、相棒は俺のことを抱きしめているんだろう。そう思って顔を上げると、目が合った途端、ぴくりと相棒の身体が揺れた。まるで愛しい恋人でも見るような、深い眼差しで俺を見ていて、その目元が夜でもわかるくらい綺麗に赤く染まっている。
「あい、ぼう…」
その吸い込まれそうな瞳から目が離せない。
「陽介…」
頬を指でするりと撫でられて、流れるようにその手が俺の後ろ頭を支える。
ゆっくりと相棒の顔が近づいてくる。
もしかして、この流れは、まさか、だって。
俺たちは相棒で、親友で、だから。だから……?
「陽ちゃんー、外にいるの?」
玄関のドアが開く音がして、思わず相棒をドーンと突き飛ばしてしまった。足がもつれた相棒は後ろに倒れこんでしまった。
「あ、ワリ…!」
相棒がはーっと深い息をついて立ち上がった。そして横をプイと向いてしまった。その表情はよく見えない。
母さんがドアを開けたままやってきた。
「あら、お友達?」
「こんばんは。用は済んだのでおいとまします」
にっこりと微笑んで、相棒は会釈をすると、俺を一瞬見た。いつものポーカーフェイスな無表情。
「お休み、陽介」
「あ、ああ」
まるで何もなかったかのように、平然とした様子で相棒は歩き去っていってしまった。
「家に入らないの?」
「…入るよ」
母さんの後を俺もぼーっとする頭で歩いた。
今の、今のって……キス、しようとしなかったか?
「まさかなあ…?」
もしかしたら、顔に虫かゴミでもついていて、それを取ろうとしたのかもしれない。そうだ、そういう可能性もある。勝手にヘンな想像をして、なにを考えているんだ、俺は。
手に残った小さな花束を見た。菜々子ちゃんの分と一緒に花屋で買ったんだろうな。俺のことを考えてこのカラーリングにしてくれたんだろうか。いや、手品を失敗した時の予備用に買っただけかもしれない。
ただ、見ているとすごく優しい気持ちになれる。
「お前の方が魔法使いだっての。まったく」
こんな誰にも感じたことのない気持ちにさせるの、お前だけだっての。
玄関を閉めると、小さな風が巻き起こって、花びらがふるりと揺れた。
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