家族ごっこ2
2017/09/30(Sat)19:45
ペルソナやテレビの世界がなく、事件も起こらなかった八十稲羽の数年後のお話。主人公(鳴上悠)が小西先輩の息子という特殊設定です。
今回は悠くん目線のお話です。
素敵な表紙イラストは屋根さんに描いていただいています。
このくらいの年の子がどれくらい漢字を使えるかわからなかったので、小二のお子さんをもつ友達に添削してもらいました。アドバイスを色々いただいて感謝!!
SS本文は↓の続きからどうぞ。
色んな大人のひとたちといっぱいお話して、お兄ちゃんといっしょに住むことがきまった。
その後、二人でお兄ちゃんのお父さんとお母さんが住んでいるお家に行った。
「悠君、そこでジュースを飲んでゆっくりしていてね」
お兄ちゃんのお母さんはとってもやさしそう。にっこりと笑ってへやを出ていった。カベのむこうからお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
もしかしたらぼくのせいでお兄ちゃんがおこられちゃうかもしれない。そしたらぼくがあやまらなくちゃ。となりのへやのドアをそっとあけて中をのぞいた。
「陽ちゃん、そういう大事なことは先に相談してちょうだい!」
「悪かったって。でも、あの時悠の手を離したら、絶対後悔すると思ったんだ」
「気持ちはわかるわよ。私だってあんなに小さい子、ひとりになんてさせたくないもの」
お兄ちゃんのお母さんがため息をついた。
「それで、うちに戻ってくるんでしょ?」
「いや、戻ってくるつもりはねーんだ。ただ、俺が夜番で家に悠ひとりにさせちまう時とか見てもらえるとすっげー助かる。っつーか、頼んます!」
手を合わせてお兄ちゃんがおねがいしている。ぼくも一緒におねがいにしに行った方がいいかな。お母さんはほっぺに手を当てて、むずかしそうな顔をしている。
「それは構わないけど。だったらうちに住めば良いじゃない」
「いや……それじゃ、あの人らに負けたような気がするんだ。自分の意地だってわかってるけど……悠のためにはここに住んだ方が絶対良いってわかってる。けど………」
ふたりともだまって、マジメな顔をしている。
お母さんがまた大きな息をはいた。
「………もう、わかったわよ。悠くん、こっちにいらっしゃい」
「悠…! 聞いてたのか?」
いつから気づいていたんだろう。お兄ちゃんのお母さんがぼくを手招きした。
ドアをあけて中に入った。
「あの…のぞいてごめんなさい」
「いいわよ。あなたはもう家族なんだから」
そう言って、ぼくのことを抱きしめてくれた。
「わたしを悠くんのおばあちゃんだと思って良いのよ。いつでも遊びにいらっしゃい。お菓子やジュースを用意して待っているから」
ふわっと甘いニオイにつつまれて、どうへんじしたらいいのかわからなかった。
それから家に帰る時、お兄ちゃんがぼくくらいの年にきていたシャツやズボンをふくろがパンパンになるぐらいいっぱいくれた。
「助かるけどさ、よくこんな昔のとっておいたな…」
「陽ちゃん、服の好き嫌いが激しくて全然着てない服とかいっぱいあったのよ。処分するのはもったいないじゃない。陽ちゃんに子どもができたら着られるようにってとっておいたの」
「気がなげーよ!」
「悠君に似合いそうな服、いっぱい入ってるから。ちゃんとコーディネイトしてあげなさいよ」
クツをはいて、ドアをあける前におじぎした。
「おじゃましました」
「またいつでも来てね、悠君。あ、陽ちゃん、お父さんには私から伝えておくから」
「サンキュ。今度ジュネスにも顔出すよ」
ふたりで晩ごはんの買い物をして、手をつないで家に帰っていたら、おまわりさんに呼び止められた。
「失礼だけど、君たち、どういうご関係かな?」
ぼくとお兄ちゃんは顔を見合わせた。
お兄ちゃんが色々せつめいしてくれたのに、おまわりさんは信じてくれなくて、「ちょっとそこの交番まで来てくれる?」と言って、長い時間交番でおはなしをした。
「ぼく、このお兄ちゃんとはどういう関係かな?」
そうきかれて、なんて言ったらいいのかわからなくて、ぼくは答えられなかった。
「はー…あのおまわりさんしつこかったなー……」
ヤキソバを作りながら、お兄ちゃんはまゆにいっぱいシワを作った。やさいのかわをむくのを手伝いながら、ずっとききたかったことをお兄ちゃんにたずねた。
「…ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはぼくのお父さんになるの?それともお兄ちゃん?」
お兄ちゃんは「うーん」とうなった。
「や、お父さんでもお兄ちゃんでもないな。養育者っつって…お前を育てる……って言うと、なんか上から目線な感じがしてあんま好きじゃないんだよなあ。なんつーか………家族。そう、家族だな」
「家族」
うんうんとお兄ちゃんがうなずいた。
「俺のこと、『お兄ちゃん』って呼んでも構わないけどさ、呼びにくくないか?『陽介』って呼ばれた方がしっくり来るかも。俺とお前、一緒の家に住む者同士、対等にさ。俺も悠って呼んでるしな」
そう言って、ウインクされた。名前、呼んでもいいのかな。
「………ヨースケ」
ドキドキしながらそう呼ぶと、お兄ちゃん…ヨースケはすっごく嬉しそうに笑った。
「おう!」
「ヨースケ」
「おう……ってなんか恥ずかしいな、俺ら」
いっしょに笑っていたら、陽介はナベの中のヤキソバをまっ黒にしてしまい、ぼくたちはふたりで「苦い苦い」って言いながら食べた。
ごはんを食べたあと、あたらしい学校でつかうどうぐにたくさん名前を書いた。
そしたらようすけが紙に自分の名前を書いてくれた。
「俺の字はこう。花村陽介。こうやって書くんだ」
「お花の花だ」
「そう、これは太陽の陽」
お日さまをいっぱいあびて元気にさいているヒマワリが頭の中にうかんできた。お兄ちゃんはキラキラかがやいているお花なんだ。
夜、ねる時間になって、陽介がふとんに入って手まねきしたから、ぼくもいつもみたいにふとんの中でぎゅうっとくっついた。
「今度ジュネスに悠の分の布団、買いに行こうな」
「陽介といっしょでいいよ?」
きっとふとんって高いんだろうし。陽介といっしょにねるのはあったかくてきもちいい。
「そうは言ってもなあ…俺とお前が一緒に寝てるって知られると、アレコレ言ってくるヤツがいるんだよ、今日のおまわりさんみたいにさ」
よくわかんない。そう言うと、陽介は「わかんなくて良いよ」とぼくの頭をなでた。
「もっと俺に甘えて良いんだぜ。親にはなれないけどさ、俺、お前の家族なんだから」
家族って言われると、なんでだろう。なんだかむねのあたりがポカポカする。でもこのきもちをうまく伝えることができない。
「お休み、悠」
「…おやすみなさい、陽介」
陽介のむねの音を聞いていると、きもちよくて、あっというまにねむった。
あたらしい学校のじゅぎょうがおわって、昼休みになると、たくさんの子がぼくのつくえのまわりにやってきた。
「悠くんってどこから引っ越してきたの?」
「ねえねえ、どうして転校してきたの?」
「えっと」
話そうとすると、また別の子が話しかけてきた。
「ねえ、お母さん、死んじゃったって本当?」
それを聞いて、みんながシーンとしずかになった。
「オレ知ってる。お父さんもどっかいなくなっちゃったんだって」
「じゃあひとりぼっちなの?」
みんなぼくを見て、かなしそうな顔をしている。
「かわいそう…」
誰かがつぶやくと、みんなもうなずいて「かわいそう」とつぶやいた。
「あのね、ぼく、かわいそうじゃないよ。だって陽介がいるもん」
「ヨウスケってだれ?」
「ぼくの……家族」
そう言うと、やっぱりむねがポカポカした。うん、陽介はぼくの家族だもん。
「よくわかんない。おにいちゃん?」
首をヨコにふってこたえた。
「おにいちゃんじゃないけど、家族だよ」
「ねえ、かわいそうだし、もうその話いいじゃん。あたしが学校あんないしてあげる。行こう」
「え、うん…」
ぼくの手をひっぱって、女の子たちが学校をあんないしてくれた。
それからグラウンドに行って、男の子たちとみんなですべり台やうんていであそんだ。
みんなやさしかったけど、なんだかむねがモヤモヤした。
家に帰って、夜、おしごとから帰ってきた陽介に聞いてみた。
「ぼくってかわいそうなの?」
「は……?なにそれ」
クラスであったことをいっしょうけんめい伝えると、陽介はぼくの話をきいて「田舎の噂の拡散力半端ねえ…」と頭を両方の手でかかえた。
それからしゃがみこんで、ぼくと同じ高さになってぼくの目を見た。
「お前はさ、自分のこと、かわいそうって思うか?」
「ううん」
首を横に何回もふった。
そしたら髪の毛をぐしゃぐしゃになる程なでられた。
「陽介、いたい」
「わりぃわりぃ!」
手をはなし、陽介はぼくを抱きしめた。
「……よう…すけ?」
抱きしめたまま、陽介は言った。
「そうだ、人になんて言われたって、自分の気持ちなんだから自分で決めれば良い。つか、そんな風にまわりにもお前にも言わせないように俺、頑張るから。お前がいっぱい笑って、いっぱいワガママ言えるような、そういう居場所を絶対……絶対作ってやるからな」
やっぱり抱きしめる力が強くて、息が苦しくて、だけどやめてほしいとは思わなかった。
むねがギュウッとして、このキモチをなんて言えばいいのか、わからなかった。
今日のじゅぎょうがぜんぶ終わって、先生が言った。
「はーい、静かに。今度の月曜までの宿題を出します。みんな、このテーマで作文を書いてきてね」
ザワザワしてる中、黒板に先生が字を書いていく。『ぼくのかぞく わたしのかぞく』と書くと、チョークをおいてこっちを向いた。
「みんなの家族をクラスのみんなに紹介するための作文を書いてください。どんなお仕事をしているとか、どんな人かとか、その人をどう思っているかとかね。今度の保護者参観会で発表するから、忘れずに書いてきてね。良いですか?」
はーいとみんなが元気よくへんじした。
「ただいまー。何書いてんの? 宿題?」
陽介がおしごとから帰ってきたから、あわてて紙をノートにはさんでかくした。
「なんでもない!」
「んあ? ……さてはラブレターかー?」
そういわれて、顔があつくなった。ぼくを見て、陽介が目をまんまるくした。
「え、マジで?最近の小学生はすすんでるなー」
陽介は「いや、俺も初恋は幼稚園の先生だったしな…そんなもんか」って言いながら、Tシャツとジャージにきがえて、おフロの支度をしはじめた。そういえば、先生からもらってきたプリントがあったのをわすれていた。
「陽介、これ」
学校でもらってきたプリントを見せた。
「保護者参観会のお知らせ?」
陽介はプリントの日にちを見て、スマホと行ったりきたりしながら見ている。お母さんもそうだった。おしごとがいそがしそうで、いつもカレンダーとにらめっこしてた。
「…いそがしかったらいいよ」
そう伝えると、陽介はむずかしそうな顔でぼくを見て、しゃがみこむと頭をなでた。
「ばっか、そういう時はこう言うんだよ。『仕事が忙しくても来て欲しい』って」
ビックリして何にも言えなかった。
「なんか作文を発表するんだろ? もし悠が当てられたら後ろで俺、応援するからな。頑張れよ」
「……来てくれるの?」
「あったり前だ! つーか、子どもが変な気遣いしなくていいっつーの!」
またクシャクシャになでられて、うれしいような、ジタバタしたくなるような、へんなきもちになった。
「では、今日は保護者の皆さんがいらっしゃっているということで、みんなの家族についての作文を書いてもらいました。その中でよく書けているものがあったので、読んでもらいます」
そう言って、先生はグルリとあっちからこっちまで見た。さされたらどうしようとドキドキしながら待っていると、「じゃあ鳴上悠くん」と先生と目が合った。
「はい」
イスから立ち上がると、後ろを見た。みんなのお母さんやお父さんがいる中に、陽介がいた。手を大きく振って、「がんばれ、悠」と声を上げた。はずかしいような、うれしいような、ことばにならない気持ちで前を向いて、手に持っている作文の紙をまちがえないように、ゆっくりよんだ。
「ぼくの家族は花村陽介って言います。おしごとはホテルマンです。お父さんでもなく、お兄ちゃんでもないけど、ぼくのたいせつな家族です。おかずを作るのがヘタで、よくまっくろコゲになったのをいっしょに食べます」
あちこちからクスクスと笑い声がした。
「陽介はぼくのお母さんが死んじゃって悲しかった時も、しんせきの人がぼくを知らない所へつれて行こうとしてこわかった時も、ずっと手をはなさないでいてくれました。陽介はお父さんにはなれないけど、ぼくの家族だって言ってくれました。ぼくに甘えたりワガママを言っていいんだって言いました。だからぼくは一人でいる時もさみしくないし、学校から家に帰るのが好きです。陽介が家族でよかったです。陽介が…大好きです!」
作文を書いている時、陽介に「ラブレター」って言われて、はずかしい気持ちになった。だって、ラブレターって好きな気持ちを書いた文だって国語辞典で書いてあったから。みんなや陽介の前で陽介が好きって言うのは、はずかしくてなんだかイヤだった。
だけどお母さんがよく言っていた。「ちゃんと言葉にしないと、気持ちは伝わらないよ」って。
だからちゃんと伝えなきゃ。
「だからぼくはかわいそうじゃないです。ぼくはもっと陽介をおてつだいできるようになって、おいしいおかずを作ってあげるようになりたいです」
終わりと言うと、みんな、パチパチとはくしゅをしてくれた。ぼくの気持ち、みんなに伝わったかな。
後ろをふりかえると、陽介が目から涙をいっぱいながしながら、大きな音で手をたたいていた。
「悠ぅ……………!!」
陽介は他のお母さんやお父さんに笑われながら、なんどもなんども拍手してくれた。
それがなんだかくすぐったくて、やっぱりむねがポカポカした。
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No.244|主花SS「家族ごっこ」|Comment(0)|Trackback