SS「女装の君も」
2017/06/12(Mon)19:25
ツイッターの「主花版深夜の創作60分一本勝負」に参加させていただきました。
お題「女装」
「お前…なんで俺には女装ばっかさせるわけ?」
陽介がそう漏らしたのはダンジョンの中で完二たち偵察組を待って一時休憩していた時のことだった。
ダンジョン攻略で気詰まりしないように、みんなには用意した衣装を色々着てもらっている。
意識していたわけではないけれど、言われてみれば、陽介には最近女装ばかりさせている。
今日も身につけている女子高生の制服姿は陽介によく似合っていて、赤いプリーツや髪をたばねているいちごのアクセサリーが揺れるたびに視線を奪われる。
苦々しい顔でこちらを見るので、問いかけた。
「嫌か?」
「女装が嫌っつーか………なんつーか………………」
「陽介にはよく似合っていると思う」
そう言うと、陽介は頬を赤らめ、眉をつり上げた。
「俺は女じゃねーっての………!」
そう大声を出して、泣きそうな顔をしたから思わず肩を掴んだ。ふたりで話したくて、その肩の向こう側にいる天城とクマに視線を送った。すると天城が「クマくん、ちょっとあっちに行ってよう」とクマの手を引いて休憩していた部屋から出て行って、ドアを閉めた。天城の気遣いに心の中でそっと感謝した。
「陽介を女だと思ったことはないよ。けど………」
「けど?」
そんな泣きそうな顔でつんと唇を尖らせて極め付けに上目遣いはやめてほしい。めちゃくちゃキスしたくなるから。
「他の衣装も似合っていて好きだけど………女装って陽介の知らなかった表情や仕草を引き出してくれるから」
短すぎるスカートの丈を気にして裾を掴む仕草や、男としての矜持を奪われるような格好に恥じらいを見せるところとかがグッとくるんだということに本人にはまるで気がついていない。それでいて戦う時は戦闘に集中するあまり、スカートをはいているということを忘れて下着を平気で見せつけるから、男らしいというか、陽介らしいというか。
「だからもっと見ていたくなるんだ。…それでも、陽介が本当に嫌ならやめるよ」
そう告げると、陽介は頭を肩口に押しつけてくる。
「陽介?」
「………んなこと言われちまったら、イヤって言いにくいじゃん…」
ちゃんと顔が見たくて、その肩を掴み直して離すと、顔を真っ赤にした陽介が拗ねた顔で視線を逸らした。
ああ、本当にキスしたい。
ピンク色に艶めいているその唇に自分のを押しつけてしまいたい。
でも今キスしたら、さっき言った自分の言葉に説得力がなくなってしまいそうだ。そうなったら二度と女装をしてくれなくなってしまうかもしれない。だけど、ああ………。
気がついたらその細い手首を掴んでいた。
「あい、ぼう………?」
無防備に俺を映す瞳に釘付けになって、目が離せない。
距離を詰めても陽介は逃げないことに勇気づけられる。
顔をゆっくり近づけると、まばたきをした睫がいつもより長く、化粧を施しているのだと気がついた。
いつもとは違う顔。いつもとは違う表情。
あと一秒。あと一センチ。
「ヨースケー!センセー!大変クマ―!」
ドアが開き、クマが大慌てで入ってきたから、思わず固まってしまった。
と、同時に陽介も目を大きく見開いて、弾かれたように後ろに退いた。
「カンジがやばい感じクマ!」
すぐにりせの通信ナビも入った。
『んもう、あのバ完二!強敵相手に戦闘入っちゃったよ!センパイたちもすぐ助けに行ってあげて』
「わかった、すぐ行く」
大きく息を吸って、吐いた。
陽介とのやりとりが途切れたのは残念だけど、これで良かったのかもしれない。変に誤解されてこじれてたくない。
「行くぞ、陽介」
ぼんやりしている陽介に声をかけると、陽介は「お、おう」とこちらの視線に気付き、慌てて走り出した。
その後、陽介に女装衣装を渡してもつっかかってくることはなくなったので、その話題について触れることはなくなってしまった。
完二の所へ駆けつけようと真剣に走ってはいたが、頭の中は別のことでいっぱいだった。
気のせいかもしんないけど、今……キス、されそうじゃなかったか?
女装姿だから、なんだろうか。
でも………相棒は俺を女扱いしてるわけじゃないと言っていた。
女装は俺の知らなかった表情や仕草を引き出してくれるから、とも言っていた。
もっと色んな部分を見たいってこと、だよな………?
それって、つまり、どういう。
相棒の顔が近づいてきた時、逃げようと思えば逃げられたはずだ。
でも一ミリも身動きできなくなってしまった。
「影」の俺も、女装姿の俺も。どんな顔を知っても引くどころかもっと見たいと相棒は言う。
そんな風に言われたら、なんだか、もう。
あのまま唇が触れ合ったとしても、俺はたぶん、きっと。
「完二、待たせた!」
「先輩!」
完二たちがシャドウと戦っているところに到着し、慌てて気持ちを切り替えた。
ぱしっと自分の両頬をはたく。
とにかく今は、目の前の敵に集中だ。
「行くぜ、相棒!」
「ああ!」
その後、その話題に触れたら、なんだか今までの関係ではいられなくなってしまうような気がして、怖くて自分から切り出すことはできなくなってしまった。
お題「女装」
「お前…なんで俺には女装ばっかさせるわけ?」
陽介がそう漏らしたのはダンジョンの中で完二たち偵察組を待って一時休憩していた時のことだった。
ダンジョン攻略で気詰まりしないように、みんなには用意した衣装を色々着てもらっている。
意識していたわけではないけれど、言われてみれば、陽介には最近女装ばかりさせている。
今日も身につけている女子高生の制服姿は陽介によく似合っていて、赤いプリーツや髪をたばねているいちごのアクセサリーが揺れるたびに視線を奪われる。
苦々しい顔でこちらを見るので、問いかけた。
「嫌か?」
「女装が嫌っつーか………なんつーか………………」
「陽介にはよく似合っていると思う」
そう言うと、陽介は頬を赤らめ、眉をつり上げた。
「俺は女じゃねーっての………!」
そう大声を出して、泣きそうな顔をしたから思わず肩を掴んだ。ふたりで話したくて、その肩の向こう側にいる天城とクマに視線を送った。すると天城が「クマくん、ちょっとあっちに行ってよう」とクマの手を引いて休憩していた部屋から出て行って、ドアを閉めた。天城の気遣いに心の中でそっと感謝した。
「陽介を女だと思ったことはないよ。けど………」
「けど?」
そんな泣きそうな顔でつんと唇を尖らせて極め付けに上目遣いはやめてほしい。めちゃくちゃキスしたくなるから。
「他の衣装も似合っていて好きだけど………女装って陽介の知らなかった表情や仕草を引き出してくれるから」
短すぎるスカートの丈を気にして裾を掴む仕草や、男としての矜持を奪われるような格好に恥じらいを見せるところとかがグッとくるんだということに本人にはまるで気がついていない。それでいて戦う時は戦闘に集中するあまり、スカートをはいているということを忘れて下着を平気で見せつけるから、男らしいというか、陽介らしいというか。
「だからもっと見ていたくなるんだ。…それでも、陽介が本当に嫌ならやめるよ」
そう告げると、陽介は頭を肩口に押しつけてくる。
「陽介?」
「………んなこと言われちまったら、イヤって言いにくいじゃん…」
ちゃんと顔が見たくて、その肩を掴み直して離すと、顔を真っ赤にした陽介が拗ねた顔で視線を逸らした。
ああ、本当にキスしたい。
ピンク色に艶めいているその唇に自分のを押しつけてしまいたい。
でも今キスしたら、さっき言った自分の言葉に説得力がなくなってしまいそうだ。そうなったら二度と女装をしてくれなくなってしまうかもしれない。だけど、ああ………。
気がついたらその細い手首を掴んでいた。
「あい、ぼう………?」
無防備に俺を映す瞳に釘付けになって、目が離せない。
距離を詰めても陽介は逃げないことに勇気づけられる。
顔をゆっくり近づけると、まばたきをした睫がいつもより長く、化粧を施しているのだと気がついた。
いつもとは違う顔。いつもとは違う表情。
あと一秒。あと一センチ。
「ヨースケー!センセー!大変クマ―!」
ドアが開き、クマが大慌てで入ってきたから、思わず固まってしまった。
と、同時に陽介も目を大きく見開いて、弾かれたように後ろに退いた。
「カンジがやばい感じクマ!」
すぐにりせの通信ナビも入った。
『んもう、あのバ完二!強敵相手に戦闘入っちゃったよ!センパイたちもすぐ助けに行ってあげて』
「わかった、すぐ行く」
大きく息を吸って、吐いた。
陽介とのやりとりが途切れたのは残念だけど、これで良かったのかもしれない。変に誤解されてこじれてたくない。
「行くぞ、陽介」
ぼんやりしている陽介に声をかけると、陽介は「お、おう」とこちらの視線に気付き、慌てて走り出した。
その後、陽介に女装衣装を渡してもつっかかってくることはなくなったので、その話題について触れることはなくなってしまった。
完二の所へ駆けつけようと真剣に走ってはいたが、頭の中は別のことでいっぱいだった。
気のせいかもしんないけど、今……キス、されそうじゃなかったか?
女装姿だから、なんだろうか。
でも………相棒は俺を女扱いしてるわけじゃないと言っていた。
女装は俺の知らなかった表情や仕草を引き出してくれるから、とも言っていた。
もっと色んな部分を見たいってこと、だよな………?
それって、つまり、どういう。
相棒の顔が近づいてきた時、逃げようと思えば逃げられたはずだ。
でも一ミリも身動きできなくなってしまった。
「影」の俺も、女装姿の俺も。どんな顔を知っても引くどころかもっと見たいと相棒は言う。
そんな風に言われたら、なんだか、もう。
あのまま唇が触れ合ったとしても、俺はたぶん、きっと。
「完二、待たせた!」
「先輩!」
完二たちがシャドウと戦っているところに到着し、慌てて気持ちを切り替えた。
ぱしっと自分の両頬をはたく。
とにかく今は、目の前の敵に集中だ。
「行くぜ、相棒!」
「ああ!」
その後、その話題に触れたら、なんだか今までの関係ではいられなくなってしまうような気がして、怖くて自分から切り出すことはできなくなってしまった。
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No.229|主花SS|Comment(0)|Trackback