SS「おでこ」
2019/12/02(Mon)18:54
ツイッターの「主花版深夜の創作60分一本勝負」企画に参加させていただきました。
お題【額/おでこ】
マヨナカテレビが誰か映らないか気になって、深夜0時はテレビの前に立つのが習慣になった。確認して問題なかった後もあまり眠れなかった。
悩めるお年頃だから色々悩みはつきない。たとえば明日着る服とか、この前もらった武器の扱い方とか、ひとりの人物のこととか。
「………んあっ?」
目を開くと、そこは教室だった。しんと静まり返っていて、夕陽が教室の窓から差し込んでいる。
眠い目を擦って起き上がった。
「やべ…今、何時だ」
柏木の授業があんまり眠くて、そのまま寝落ちしていたようだ。壁にかかっている時計を見ようと前を向いた。すると目の前で頬杖をついて座っている男がいた。
優しい瞳。まるで愛しい人を見るような目つきでじっと俺のことを見ていたので、思わず心臓が止まりそうになった。
「あ、相棒…!起こしてくれたら良かったのに。あー、つか俺のこと、ずっと待ってたのか?」
「待ってたっていうか。あんまり気持ちよさそうに眠っていたから起こせなくて。おでこの形、綺麗だなあって見とれていた」
一体どれくらいの時間、相棒がそうしてたのか。そう考えると胸のあたりがかあっとヤケドしそうに熱い。
「バッカ、おでこなんて誰でも同じだろう」
「そんなことない。陽介のおでこはきれいな曲線を描いていて、触りたくなる」
そう言われて、よけいに恥ずかしくなる。なんで俺、おでこを見せるような髪型をしているんだろう。相棒にそんな風な目で見られていたのかと思うと、何だか妙にこそばゆくて、手で覆って隠したくなる。
「ずるっ、俺ばっかおでこ見せてるのなんかフェアじゃない。お前のも見せろっ」
「え、ちょっと」
手を伸ばして、抵抗する相棒の綺麗な髪をかきあげて、額をのぞかせる。
「こら、陽介」
そう言った相棒は少し顔が赤い。陶磁器のようなキメの細かい白い肌が露わになる。
「んだよ、隠しているからなんかコンプレックスでもあるのかって思っただろ。でも、綺麗な額じゃん」
その額を手で撫でていると、手首を掴まれた。
「陽介」
怒気をはらんだような声で睨み上げられて、思わず手を引っ込めた。
が、相棒はその手を掴んだまま離してくれない。
「あ、いぼう…?」
「そんな簡単に俺に触るな」
反発されて、思わずやりすぎたかと焦った。
「あ、相棒なんだし、んな怒ることないだろ」
掴まれたところがやけに熱い。その熱は俺のものか、あるいは…
机に身を乗り出して、眼前にある相棒の顔がだんだん近づいてくる。真剣な眼差しに目が離せない。
その先が予測できない。一体なにをされるんだろう。心臓が高鳴って、不安と期待を孕んでいる。
夕陽に照らされた相棒の睫毛が震えて光っている。それがとても綺麗で、見とれてしまう。もしかしたらそんな風に相棒も俺のことを見ていたのだろうか。なんてそんなわけないよな。この 空間にいることが耐えられない。と同時に、いつまでもこの甘い瞳に囚われていたいと願ってしまう。
と、その時だった。
教室のドアが開く音がして、思わず立ち上がった。
柏木が鍵の束をジャラジャラと見せつける。
「今日は部活がない日でしょ。あなた達いつまで学校に残っているの。さっさと帰らないと私が帰れないのよ」
「は、はーい。ほら、相棒。行こうぜ」
「………ああ」
渋々といった感じで相棒が頷いて、カバンを持って立ち上がった。
無表情だから何とも言えないけど、その背中はどこか拗ねているような感じもする。
「なーに怒ってるんだよ。そんなにおでこ触られたくなかった?」
無言で相棒は教室を出た。その背中を追った。
「陽介は簡単に触れるんだな」
その声が淋しそうで、どういう意味か問いかけるのが、どうしてか怖かった。
理由を聞いたら、俺と相棒の間が何か変わってしまいそうで、怖かった。
****************************
陽介は授業が終わって、ホームルームが終わっても寝息を立てていた。
里中と天城が陽介をのぞきこんだ。
「ありゃ。よく寝てるね」
「最近あんまり夜寝れないって言っていたな」
「マヨナカテレビのことが気になるのかもしれないね。私もそうだもの」
今日はジュネスに集合しないことを伝えると、ふたりは頷いた。
「じゃありせちゃんと完二君にも伝えとくね」
「じゃあね」
「ああ、また明日」
里中達が手を振って教室を出ていった。そしてひとり、またひとりと教室を出ていって、ついには陽介とふたりだけになった。
陽介はよく眠っていて、腕に隠れて顔の下半分は見えない。
ただその秀でた額だけが露わになっていた。
その額に指で触れたい。口づけたい。そんな衝動にかられて、けれど本人への同意なくしても良いものかと思った。
俺のことは良い男友達って思っている。相棒なんて呼んでくれるけど、どこまで心を許してくれているのかわからない。
たしかに友情だと思っていたそれはいつの間にか焦がれるようなものに変質していた。
隣にいるだけで満足だと思おうとしていた。だけど今はそれだけじゃ足りないと思う。
陽介の心が欲しい。
小西先輩に憧れていたあの瞳が、俺に向けられたらどんなに幸せだろうか。そんな風に願わずにはいられなかった。
お題【額/おでこ】
マヨナカテレビが誰か映らないか気になって、深夜0時はテレビの前に立つのが習慣になった。確認して問題なかった後もあまり眠れなかった。
悩めるお年頃だから色々悩みはつきない。たとえば明日着る服とか、この前もらった武器の扱い方とか、ひとりの人物のこととか。
「………んあっ?」
目を開くと、そこは教室だった。しんと静まり返っていて、夕陽が教室の窓から差し込んでいる。
眠い目を擦って起き上がった。
「やべ…今、何時だ」
柏木の授業があんまり眠くて、そのまま寝落ちしていたようだ。壁にかかっている時計を見ようと前を向いた。すると目の前で頬杖をついて座っている男がいた。
優しい瞳。まるで愛しい人を見るような目つきでじっと俺のことを見ていたので、思わず心臓が止まりそうになった。
「あ、相棒…!起こしてくれたら良かったのに。あー、つか俺のこと、ずっと待ってたのか?」
「待ってたっていうか。あんまり気持ちよさそうに眠っていたから起こせなくて。おでこの形、綺麗だなあって見とれていた」
一体どれくらいの時間、相棒がそうしてたのか。そう考えると胸のあたりがかあっとヤケドしそうに熱い。
「バッカ、おでこなんて誰でも同じだろう」
「そんなことない。陽介のおでこはきれいな曲線を描いていて、触りたくなる」
そう言われて、よけいに恥ずかしくなる。なんで俺、おでこを見せるような髪型をしているんだろう。相棒にそんな風な目で見られていたのかと思うと、何だか妙にこそばゆくて、手で覆って隠したくなる。
「ずるっ、俺ばっかおでこ見せてるのなんかフェアじゃない。お前のも見せろっ」
「え、ちょっと」
手を伸ばして、抵抗する相棒の綺麗な髪をかきあげて、額をのぞかせる。
「こら、陽介」
そう言った相棒は少し顔が赤い。陶磁器のようなキメの細かい白い肌が露わになる。
「んだよ、隠しているからなんかコンプレックスでもあるのかって思っただろ。でも、綺麗な額じゃん」
その額を手で撫でていると、手首を掴まれた。
「陽介」
怒気をはらんだような声で睨み上げられて、思わず手を引っ込めた。
が、相棒はその手を掴んだまま離してくれない。
「あ、いぼう…?」
「そんな簡単に俺に触るな」
反発されて、思わずやりすぎたかと焦った。
「あ、相棒なんだし、んな怒ることないだろ」
掴まれたところがやけに熱い。その熱は俺のものか、あるいは…
机に身を乗り出して、眼前にある相棒の顔がだんだん近づいてくる。真剣な眼差しに目が離せない。
その先が予測できない。一体なにをされるんだろう。心臓が高鳴って、不安と期待を孕んでいる。
夕陽に照らされた相棒の睫毛が震えて光っている。それがとても綺麗で、見とれてしまう。もしかしたらそんな風に相棒も俺のことを見ていたのだろうか。なんてそんなわけないよな。この 空間にいることが耐えられない。と同時に、いつまでもこの甘い瞳に囚われていたいと願ってしまう。
と、その時だった。
教室のドアが開く音がして、思わず立ち上がった。
柏木が鍵の束をジャラジャラと見せつける。
「今日は部活がない日でしょ。あなた達いつまで学校に残っているの。さっさと帰らないと私が帰れないのよ」
「は、はーい。ほら、相棒。行こうぜ」
「………ああ」
渋々といった感じで相棒が頷いて、カバンを持って立ち上がった。
無表情だから何とも言えないけど、その背中はどこか拗ねているような感じもする。
「なーに怒ってるんだよ。そんなにおでこ触られたくなかった?」
無言で相棒は教室を出た。その背中を追った。
「陽介は簡単に触れるんだな」
その声が淋しそうで、どういう意味か問いかけるのが、どうしてか怖かった。
理由を聞いたら、俺と相棒の間が何か変わってしまいそうで、怖かった。
****************************
陽介は授業が終わって、ホームルームが終わっても寝息を立てていた。
里中と天城が陽介をのぞきこんだ。
「ありゃ。よく寝てるね」
「最近あんまり夜寝れないって言っていたな」
「マヨナカテレビのことが気になるのかもしれないね。私もそうだもの」
今日はジュネスに集合しないことを伝えると、ふたりは頷いた。
「じゃありせちゃんと完二君にも伝えとくね」
「じゃあね」
「ああ、また明日」
里中達が手を振って教室を出ていった。そしてひとり、またひとりと教室を出ていって、ついには陽介とふたりだけになった。
陽介はよく眠っていて、腕に隠れて顔の下半分は見えない。
ただその秀でた額だけが露わになっていた。
その額に指で触れたい。口づけたい。そんな衝動にかられて、けれど本人への同意なくしても良いものかと思った。
俺のことは良い男友達って思っている。相棒なんて呼んでくれるけど、どこまで心を許してくれているのかわからない。
たしかに友情だと思っていたそれはいつの間にか焦がれるようなものに変質していた。
隣にいるだけで満足だと思おうとしていた。だけど今はそれだけじゃ足りないと思う。
陽介の心が欲しい。
小西先輩に憧れていたあの瞳が、俺に向けられたらどんなに幸せだろうか。そんな風に願わずにはいられなかった。
PR
No.286|主花SS|Comment(0)|Trackback