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ラフレシ庵+ダブルメガネ


SS「クリスマス」

2020/01/01(Wed)12:21

ツイッターの主花版深夜の創作60分一本勝負」企画に参加させていただきました。
お題【クリスマス】


クリスマスに陽介と約束ができなかった。
毎年、「今年も彼女できなかった…寂しい」っていうメールや電話が来て、何だかんだ言いながらふたりでクリスマスを祝っていた。
なのに、今年は陽介から連絡が来ない。
自分から誘えば良いのに、下心のある俺からは誘う勇気がもてなかった。
携帯電話のディスプレイにはいつでも電話がかけられるように、陽介の電話番号を表示している。あとはボタンを押すだけだ。
もうイブ当日の朝だというのに、こんな単純なことができない自分が情けなかった。
「陽介は毎年連絡してくれたんだよな」
ひとり呟く。いったいどんな気持ちで電話やメールをしてくれたんだろう。
気楽な気持ちで? もし断られたらってことは考えなかっただろうか。
ああ見えて繊細な心の持ち主だ。断られることもあるって考えて、それでも勇気を出して連絡をとってくれたのだと思う。
「…よし」
俺も勇気を出して、発信ボタンを押してみた。
なかなか電話に出ない。何か取り込み中なんだろうか。
すると応答があった。
「もしもし。陽介?」
『………ごめん、相棒。今日クリスマスだったよな』
声がガラガラだ。
「どうした?大丈夫か?」
『風邪ひいちゃったみたいで…今日、誘おうか迷ったんだけど、うつすのもわりいなって』
「そんなことは良い。今から行くから。必要なものがあったら言ってくれ」
大丈夫という説得力のない陽介の言葉に何度も反論して、ようやく必要なものを聞き出せた。
ドラッグストアで買い出しをしてから陽介のアパートに行った。ひとり暮らしの陽介に何かあった時のためにとあらかじめ合い鍵を受け取っていて良かった。その鍵を使って中に入った。
「陽介、入るぞ」
返事はない。部屋の奥に入ると、陽介が布団の中に寝ていた。顔色が良くなくて、まわりを見たが、病院でもらった薬などは見当たらない。常備薬で済ませていたようだ。
おでこに手を当てて自分のと比べてみたが、けっこうな熱がある。
「これは病院に行った方がよさそうだな」
「手、きもちいー…」
声とともに、うっすらと潤んだ目が開いた。それに一瞬見とれてしまう。
「今からタクシーを呼んで病院に行くぞ。起きられるか?」
「ん……」
ゆっくりと起き上がろうとするのを背中を支えて助けた。
暖かい服を着せて、これから行く病院にあらかじめ電話して症状を伝えておいた。


病院に行くとすぐに診察してもらえて、インフルエンザやノロウイルスではないことがわかったのでほっとした。
「あったかくして消化の良いものをとって、ゆっくりやすんでください」
そう告げられて、もうぐったりしていた陽介には聞こえていなかったようだ。
帰りも俺に寄りかかったまま眠っていた。

家に着くと、新しい寝間着に着替えさせようとして、しっとりと汗をかいていることに気がついた。
「汗…拭くから。陽介、後ろ向いていて」
自分の欲望がうっかり顔を出さないよう、つとめて冷静を装った。男の背中なのに、どこか色気のあるそれに見とれてしまう。そんな自分を心の中で叱咤しながら汗をタオルでぬぐった。
「うん。もう大丈夫」
早めに寝間着を着せると、陽介がぼうっと俺を見た。
「サンキュな、あいぼう」
「良いから。何も考えず、ゆっくり休め。後で暖かいおかゆ、用意しとくから」
「へへ…」
嬉しそうに陽介は布団を顔の上までかぶせた。
「何を嬉しそうなんだ?」
思わず問いかけた。
「病人だったら甘えても良い…よな?」
そんな風に想い人にねだられて、頷かない男がいるだろうか。いや、いない。
「うん?」
俺が視線を向けると、陽介は布団から手を出して、俺の手を握った。熱い手のひらが弱々しく俺の指を掴んでいる。
「眠るまでで良いから…こうしててほしいな…なんて」
恥ずかしそうに言う陽介が可愛くて、愛しさで胸がいっぱいで崩れ落ちそうになる。友達で、相棒で、まるで恋人のようなそれに頬がゆるんでしまいそうになるのを必死にこらえた。いや、陽介のことだ。相棒としての距離感がよくわかっていないだけなんだろう。病気になった時には弱気になるものだ。
「良いよ」
陽介の指を握り返した。
できるだけ真摯な感じで言った応えたつもりだけど、陽介の目にはどう映っただろう。
「あとで………いて」
それきり、陽介は目をつぶって、すうすうと寝息をたてはじめた。
あとで?何?
問いかけたくても本人はもうすっかり夢の中だ。


七度目の正直というやつだ。
いや、使い方は間違ってるかもしれないけど。
もし相棒と七度クリスマスを過ごせたら、自分から告白しようと心に誓っていた。

ゆうべあまりに気合いを入れすぎて、洋服えらびに時間がかかって風邪をひいたなんてドジすぎる。そんな俺にも相棒はやっぱり優しかった。その優しさに甘えてここまで来てしまった。
だけどもうやめにする。
たとえ振られても、相棒と一緒にクリスマスを過ごせなくなるんだとしても。
もう自分の気持ちにフタをすることはできなかった。

意識がぼんやりとしているけど、きっと優しい相棒なら家にいてくれるから。
きちんと自分の気持ちを伝えよう。
愛している。そしてメリークリスマスと。

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No.287|主花SSComment(0)Trackback

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