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ラフレシ庵+ダブルメガネ


【主花】特別な君に贈る

2023/06/24(Sat)14:08

陽介誕生日2023。陽介誕生日おめでとう~~!
Twitterのワンドロに参加させていただきました。お題「誕生日」

本文は折りたたんだので続きリンクからどうぞ!




 5月の終わりころ、休暇の予定を相棒と話していた時だった。
「陽介の誕生日、今年はふたりで休暇をとって一緒に出掛けないか?」
 珍しくそう誘われたのがきっかけだった。
 

 朝目が覚めたら横に相棒がいない。
 いつもの誕生日だったら真っ先に「誕生日おめでとう」と祝ってくれる。
「何だか今年はいつもと違うなー」
 平日に休める嬉しさで布団の中でしばらくゴロゴロしていたが、それも勿体ない気がして起き上がった。
「おはよー。相棒」
「おはよう」
 こちらを振り返った相棒が目を細めて微笑んだ。手に掃除用のワイパーを持っている。見ると床が掃除されていてすでにピカピカだ。
「掃除、俺の担当なのにサンキュな」
「ああ。これから目玉焼きを作るから陽介は顔を洗ってきて」
「うん。じゃあ悪いな」
 言葉に甘えて、洗面所で顔を洗ってさっぱりした。横で洗濯乾燥機も回っている。出かける準備を万端にしてくれていて本当にありがたい。
「これだけ早く動いてるってことは遠出かな?」


「んで、今日はどこに行こうと思ってるんだ?」
 相棒のことだからすでに大まかなプランはあるのだろう。パンに目玉焼きを乗せながら尋ねた。すると相棒はにこりと笑った。
「それは行ってのお楽しみ」
「うわっ焦らすじゃん。気になる!」
「後で弁当も準備するから楽しみにしてて」
 最近、昼は社食だったので相棒の特製弁当は久しぶりだ。
「うわっ、すっげー楽しみになってきた!」
 昨夜何か仕込みをしていると思ったけど、まさか弁当だったとは。
 しかもよく見れば今日はジャケットに黒の上質なボトムスだ。いつもより気合いの入った服装をしている。なんかお洒落な店へ食事に行くのかもしれない。でも弁当を用意しているんだから行くとしたら夜か?
「朝ごはん食べたら急いで着替えてくる!」
 慌ててパンを食べたら喉につまってしまい、「ゆっくりで大丈夫だから落ち着け」とコーヒーを手渡された。


 俺もちょっと落ち着いた感じのコーディネートにして、リビングで待っている相棒の元へ行った。
「お待たせ」
「こっちも今弁当の準備ができたところだ。じゃあ行こうか」
 玄関で革靴を履こうとしたら「陽介」と呼び止められて何故か虫よけスプレーを全身にかけられた。
「え? ええ?」
 相棒も自分に吹きかけて、何食わぬ顔で靴を履こうとする。
「ちょ、マジでどこに行くのかさっぱりわかんないんですけど?」
「ほら。陽介が先に出てくれないと」
 説明はないまま促されて仕方なく外に出る。
 弁当、虫よけだけならピクニックかと思うが、それにしては綺麗めな恰好だ。
「車、借りてあるからそこまで歩こう」
 レンタカーのお店まで一緒に歩いて、借りた普通車の運転席に相棒が乗った。


 中央道を走り、途中にある紫陽花がたくさん咲く公園に寄って休憩したり、湖畔をゆったり散歩したり、ワイナリーに寄ってワインを選んだりと楽しくドライブした。天気の変わりやすい時期ではあるけど、幸い雨にはならなかった。
 もしかして向かう先は……。
 運転をする相棒はいつもより緊張した面持ちだった。
 
 予想した通り、行き着いた先は八十稲羽だった。
 しかし仲間たちが住む街の方へは向かってはいない。
 商店街の手前にある角を曲がって、高台のある駐車場へと向かった。
「着いたよ、陽介」
「お疲れ。運転ありがとな」
「ああ。さあ、行こう」
 相棒は頷いて、弁当を持つと、目線で俺を促し、懐かしい場所へと歩いて行った。


 階段を登っていくと懐かしい景色が広がっていた。ちょっとずつ町にあった建物は変わりつつあるけれど、ここから見る風景は記憶の中にある風景とまったく変わらない。
「うわー懐かしいな。高校生ぶりだよな?」
「ああ。いつか陽介が見せてくれた景色だ」
 その言葉に八高の学ランを着ていた相棒の姿が目に浮かぶ。ここで相棒に「特別」だって言ったんだ。
「陽介が特別だと思う景色を俺だけに見せてくれたのが嬉しかったから。俺も自分が一番特別だと思う場所に陽介を連れてきたかったんだ」
「そっか……」
 この場所を相棒が大事に思ってくれたのが嬉しい。
「あの時、特別って言ってもらえてすごく嬉しかった。今までも、これからもずっと大好きだよ。陽介」
 すると弁当箱をベンチの上に置いて、胸ポケットから何か四角いものを出した。
「……え……?」
「この前、理事長室に呼び出されて。助教授になることが決まったんだ」
「え、すごいじゃん。おめでとう……! つか、それ」
 助教授なんて30代でも早いくらいなのに。
 それにしても目の前に出された小箱が気になりすぎる。
「本当は教授になってからが理想なんだけど。そうすると下手するとあと10年はかかるから」
 そう言って、四角い小箱を両手で開けた。中にペアのリングが入っている。
「結婚して俺と一生を連れ添ってください」
 びっくりして、感極まって、言葉につまってしまう。代わりに涙が出てきてしまう。
「っ、んだよ……、こんな……っ」
 相棒は博士課程まで進んで、大学講師になったのもここ数年だし、結婚するとしても貯金がある程度貯まったずっと先の話だと思っていた。今のままでも幸せだし、同性だし結婚にこだわるつもりはなかった。
 でも相棒はずっと考えていてくれたんだ。
「んな大金、いつの間に貯めてたんだよ……!」
 一目でわかるブランドの指輪は俺の給料三か月分だ。社会人が長い分、俺の方に出させてほしかった。
「美鶴さんのラボでバイトしてたし、あとは節約でコツコツとね。陽介とはやく結婚したかったし」
「んだよ。もう!」
「怒ってるの? 受け取ってくれない?」
 顔を傾けて可愛い顔するんじゃない。
「受け取る!」
「良かった」
 ペアの指輪のうち、やや細い方を俺の薬指にはめてくれる。白金に輝くシンプルなデザインはもともとはめていたプレーンリングとも相性が良い。
「陽介、そのプレーンリングをずっと身につけているから。それに合いそうなデザインを探したんだ」
「そっか。ありがとな。相棒に渡して、また相棒から返してもらった品だったから、思い出深くて外せなくてさ」
 相棒は目を細めて微笑んだ。そして手に持った箱を俺に差し出した。
「陽介。俺の分は陽介が嵌めてくれる?」
「お、おう」
 これで相棒は名実ともにパートナーになるんだ。そう考えると緊張で手が震えてくる。
「相棒が今日緊張してた理由がわかった! これ、すげー緊張する!」
「……気づいてた? さすが陽介」
 でも相棒はスマートに指輪を嵌めてくれた。それに比べて俺の方はなかなか指に嵌められない。
 何度か爪に当たりながら、ようやく薬指に嵌めることができた。お揃いの指輪、結婚を約束した印って考えるだけでめちゃくちゃテンションが上がる。
「ありがとう。陽介」
「お礼を言うのはこっちだって。ありがとうな。つか、後でお金出すからな」
「生活に支障はないから気にしないで。ホッとしたらお腹が空いてきた。お昼ごはんにしよう」
 相棒がベンチに腰かけてお弁当を広げて誘ってきた。肉じゃが、豚のしょうが焼き、鶏の竜田揚げにビシソワーズまである。
「うわー懐かしいな!」
  高校の時、俺に食わせてくれた大好物だ。夕飯に作ってくれる時もあるけど、弁当で食べるのはあの時の記憶がよみがえってまた格別だ。
 一緒に眼下に広がる八十稲羽の景色を眺めながらふたりで色んな思い出話をした。
「あ」
 肉じゃがを食べていた相棒が何かを思い出したかのように、俺を見た。
「すっかり言うのを忘れていた。誕生日、おめでとう」
 どんだけ緊張していたんだか。思わずふっと笑ってしまって、相棒も気恥ずかしそうに笑った。

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No.318|主花SSComment(0)Trackback

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